ア―ゼンノアと100年ラヂオ

Aruji-no

あいさつ篇

第1話 100年ラヂオ

 こんにちは。

 …おや、どうしたのかな?

 まずは挨拶からというのが、礼儀のはずだが。

 それとも、相手がラヂオの場合では、その範疇ではないのかな?

 …ああ。その通り、君と話しているのは、君の目の前にあるラヂオだ。

 分かってもらった所で、改めて挨拶だな。

 こんにちは。

 わたしはラヂオだ。

 名前はないんだ。

 ラヂオというのは、いわゆる名称だからな。

 君だって、自分を人間とは名乗らないだろう。

 それで、君の名前は?

 …そうか。よろしくな。

 100年以上もの間、持ち主たちに音や情報を聞かせ続けてきたが、話をしたのはこれが初めてだ。

 これは何というかな。

 あたたかい。と言えばいいのかな。

 いや、分からない。

 どうやら、わたしは"心"と呼べるものを持ったようだが、これがわたし自身に芽生えた感覚なのか。

 今まで発信してきた言葉や物語を、ただ引用しているだけなのか?

 人間の君には、よく分からない事かもしれないな。

 …え?

 ルネ?

 何だいその言葉は?

 名前?

 わたしの?

 わたしに名前をくれるのかい?

 …ルネ。

 わたしは、ルネ。

 …あたたかい。

 …あたたかいな。

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