第260話 円からの着信
その夜円の話題はニュースで小さく取り上げられた。
イギリスにて体調不良により会見を欠席し、今後の予定は未定とだけひっそりと伝えられる。
恐らく円の事務所が圧力をかけたのだろう。
しかし、白浜縁の現在の状況で芸能界での力が落ちたのか? ニュース自体を止める事は出来なかったようだ。
これによりネットは騒然とした。
『白浜円失踪』
『イギリスでアイドルデビューする予定だった模様』
『学業専念とは?』
『日本で芸能界から逃げて進学校からも逃げて海外で逃げる←今ここ』
『失踪じゃなくて駆け落ちとか? 親が親なら子も子だなwww』
『親子共々終わったな』
そんな文字が踊っていた。
「おおお、お兄ちゃん! ど、どういう事?」
そしてその記事を恐らく風呂に入りながら読んだであろう妹がバスタオル1枚というあられもない姿で俺の部屋に飛び込んでくる。
「……まあ、そういう事なんじゃない?」
勿論相手は妹なので目のやり場に困る事もなく俺は妹を見つめ冷静にそう言った。
「そういう事って……お兄ちゃん心配じゃないの? もしかして何か知ってるの?」
緩むバスタオルを押さえながら慌てながら俺にそう訪ねる。
「いや、何も知らない」
イギリスに居る事は知っている、居なくなった事も、ただそれ以上の事は本当に何も知らない。
「だったら……」
妹はそう言うと、キャラぶれしていた事を気付いたかの様に態度を急変させ「そ、そう……まあ、ざまあだね」と言った。
悪になり切れない妹を見て少し気持ちが楽になる。
「円は大丈夫だよ」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言ったその時、俺のスマホから着信が入る。
頭が44という怪しげな番号に俺は慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」
「……」
相手は黙っている……無言電話か? 俺はスマホを一度耳から外すと通話が続いているのを確認した。
そして再びスマホを耳に当てる僅かに雑音が聞こえる。
駅? いや……空港か?
「円か?!」
恐らくそうだろうと俺は名前を呼んでみる。
「……」
相変わらず無言を貫いている相手に俺は話を続ける。
「身体大丈夫なのか? 何かあったのか?」
「……ごめん……私は大丈夫だから……ごめんね」
俺からの質問に通話相手はようやく声を出した。
それは間違いなく円の声だった。
久しぶりに聞く円の鈴の様な声に俺は胸が締め付けられる。
そして俺はまだ円の事が好きでいる事を再認識した
「円どこに、まだイギリスなのか?」
「翔君は……自分の為に走って、見てるから、どこに居ても私見続けてるから、応援してるから……だから…………」
円はそれだけ言うと通話を切ってしまう。
「……」
「お兄ちゃん? 今の」
「──ああ、円だ……」
俺は妹にそう伝えながらネットで44から始まる今の番号を調べた。
するとそれはやはりイギリスからの間違いない無かった。
「一体あの女は何がしたいのよ!」
妹は俺の悩む姿に怒ったのか、円の謎の電話に髪から顔に滴る水滴を拭いイライラしながらそう言う。
「わからない……」
俺は円の着信番号を眺めながらそう言う。
わかるのは円は何か俺に伝えようとしていた事だけ。
言えない事なのか、言えない状況なのかそれはわからないが……。
「──お兄ちゃん行かないの?」
「……イギリスにか?」
「うん……」
「いや……何の手掛かりも無しで行った所で見つけられる可能性は殆ど無いし、向こうで円のマネージャーやスタッフが全力で探してるらしいから」
「そ、そう……なんだ、お兄ちゃん意外に冷静ね」
「そうでも無い」
俺は震える手を上げ妹に見せる。
「だったら」
煮え切らない俺に妹は更にイライラした様子で言葉を続けようとした。
しかし俺はそれを遮る様に妹の言葉に被せ今の電話の主旨を言った。
「円は来るなって言いたかったんだと思う」
円は恐らくイギリスから出るつもりなのだろう。
円のスタッフやマスコミが見つけ出す可能性があるから。
そしてどこかで何かをやるつもりなのだろう、円の声から恐怖という物は感じ無かった。
俺が感じた物は不安と期待。
一年余りの間、濃密な時間を共にした俺だからわかる円の声と言葉。
恐らく裏はない、そのままの言葉と受け止めた方が良いだろうと俺はそう感じた。
「円の事はキサラ先生に任せて俺は走るだけだ」
「──ん? キサラ先生?」
その俺の言葉に不思議そうな顔になる妹。
「ああ、円とキサラ先生はどうやら姉妹らしいんだよ」
「…………はあ!?」
俺から想定していない言葉を聞いた妹は、驚きのあまり押さえていたバスタオルから手を放すと、そのまま足元に落ちていく。
「……」
「……」
一瞬無言になる二人……俺の目の前には女子高生の裸体が……。
「ひ、ひいいいいい!」
妹は慌ててバスタオルを拾おうとするが、勢い余ってそのまま後ろに転がってしまう。
「お、おい?!」
不幸にも扉は開けたままだった為そのまま廊下に倒れ込んでしまう。
足を俺の方に向けながら……。
そのあまりの態勢に、妹の全てが見えている状況に、さすがの俺もそっと目を背けた。
妹はもう見せる物は無いとばかりにゆっくりと起きると、そのままバスタオルを拾いそれを身体に巻く事なく裸体のまま無言で扉をパタリと閉めた。
「わざと……じゃないよな?」
俺の不安と寂しさを察した妹がわざとやったのかと思った直後、隣の部屋から「うわあああああああああん」と泣き声が聞こえた。
「いや、お前円とした事俺とするって言ってただろ?」
とりあえず、当たり前だが妹のそんなあられもない姿を見たが、何の反応もしなかった事でそんな事には絶対にならない事が確信出来たのは不幸中の幸いだと、俺はこんな状況だが、何とかそう思う事にした。
【あとがき】
忙しい……何とか今年中に終わらせたい……。
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