第226話 鉄の味


 宮古で買った荷物の多くは家に配送して貰った。

 それでも多少の荷物はある。

 今日出来るかわからないが、一応練習道具は持ってきた。


 俺達はハイヤーから降りると、運転手さんからその荷物を受けとる。


 そして、二人覚悟を決め私立城ヶ崎学園の校門に二人で佇む…………。


 さあ、鬼が出るか? 蛇が出るか?


 今俺達の置かれている状況が全くわからない。


 メールや、メッセージには詳しい事は書かれていない。

 

 ひょっとしたら、もう陸上部に戻れないかも知れない。

 また、以前のように学校中の嫌われ者になるかも知れない。


 さっきは円に格好いい事を言っといて、なんだが俺は今さらながらに、びびっていた。


 またあの地獄の日々に戻るのかと。


 

 しかし、いつまでもここに居るわけにはいかないと、俺達は歩みを進めるが、すぐに異変を感じた。


 時間は昼前、授業は勿論無いが部活は普通に行っている筈。


 陸上部も基本日曜日以外は休みではない。


 にもかかわらず、校内には全くと言って良いほど人気を感じない。


「……なんかあった?」

 俺は円にそう聞く。

「さあ?」

 俺の言葉に円は首を傾ける。

 勿論俺と行動を共にしている円が知るよしもない。


 俺と円はお互い顔を見合せ、勇気を出して学校内に入った……。

 校庭、グラウンド、校舎、どこを見渡しても生徒も教師も誰一人見当たらない。


 一体何が?


 俺達はとりあえずそのまま陸上競技場に足を運ぶ。


 普通なら練習が始まっている時間だ。

 

 しかし、競技場に近付くも声が全くしない。

 俺達は首を傾げつつ競技場に入ると、そこには人影が……。


「お? ようやく新婚旅行から帰ってきたか」

 俺達を待っていたかのようにキサラ先生は俺達を見つけそう声をかける。

 キサラ先生はグラウンドのど真ん中、普段なら投てき選手の槍や円盤等が飛び交う芝生の所に居る。


「なんて格好してるんです?」

 そのキサラさんの格好に俺は謝る事が馬鹿馬鹿しく成る程、呆れながらそう言った


「えーー? とりあえず気分だけ」

 キサラさんはかなりきわどい黒の水着を着ていた。

 そしてビーチベッドにパラソル、その横にテーブルを置き、トロピカルドリンクと雑誌を持ち寝転びながら俺たちを見てそう言った。

 えっと、俺達帰って来たんだよね? まるでここが宮古の海岸かと勘違いするようキサラ先生の恰好に思わず周囲を見渡す。

 ここは間違いなく学校の競技場、そのど真ん中だった。


 そんな戸惑う俺たちをサングラス越しに見つめながら、トロピカルドリンクをひと飲みする。

 

「へえ……」

 キサラ先生は円を見るとサングラスを持ち上げ二度見する。

 そして、ニヤリと笑ってそう言った。


「な、なによ」


「ふ~~~ん、そっかそっかあ」

 キサラ先生は円から何かを感じ取ったようにケラケラと笑う。


「?」

 円はそんなキサラ先生を見て怪訝な表情に変わった。


「まあ、高校2年だし、早くはないかあ、でもあの円がねえ~─」

 豊満な胸を揺らしつつ半身起こして円をまじまじと見つめると、再びベッドに寝転ぶ。


「そ、そんな事より、こんな所で顧問がそんな格好で寝て良いの?!」

 なんとなく言わんとしている事がわかった円はキサラ先生のその言葉を肯定も否定もせず、誤魔化すようにそう言う。

 まあ、そうだよな、今の問題はそこだよな。

 はっきりと言われたわけではないので、当然円はそういわざるを得ない。


「あーー、大丈夫大丈夫、夕方まで誰も来ないから」


「誰もって……」

 一体何があったのか? キサラ先生は余裕の表情で再びカクテルを飲む。

 俺はそのキサラ先生の姿を見て、神聖なグラウンドを汚されたような、意識が少しだけ芽生える。

 しかし、次のキサラ先生の言葉にそんな思いはかき消された


「タイミング的にはドンピシャだったわね、翔くん。でもね、去年まで中学生だった娘の思いを無視して、円と逃避行はちょっと頂けないわね」


「……」


「勘違いだったとしても、彼女は深く傷ついたわよね」


「はい……」


「今後あの娘の恋愛観とか、性癖とか変わってしまったらどう責任を取るのかしら?」


「性癖……って」


「ちょっとキサラ!」

 俺をじわじわと攻め立てるキサラ先生に円は一歩前に出て庇うようにそう言った。


「……先生よね」


「そんな格好で先生なんて呼べるわけ無いでしょ! それよりその言い方卑怯じゃない?!」


「卑怯なのは逃げたあんた達でしょ?」


「だ、だって話し合いにならなかっただけ、責任者もいなかったし、翔君が悪いって皆思ちゃってたし」


「あはははははは、それが日頃の行いって奴でしょ? そもそも円、貴女のせいでもあるのよ?」


「私の?」


「そうよ、あんな人前で堂々と交際宣言、しかもその相手が元人気絶頂のタレント、元アイドルなんだから、そりゃ翔君が遊んでるって思われても仕方ないんじゃない? そもそもずっとそんな疑いを持たれていたんだし」


「わ、私達は遊びじゃ!」


「今までこそこそして、急に見せびらかしてイチャイチャして、あんた初めて彼氏が出来て、頭の中薔薇色になってるんでしょ」

 キサラ先生はサングラス越しにじっと円を見てそう言う。


「ば……」

 

「はっきりと言ってあげようか? 円は翔君の足がよくなったから、高校新を出したから皆の前でイチャイチャし始めたんでしょ? 私の彼氏凄い~~ってね」

 ベッドに寝転び手をヒラヒラさせるキサラ先生。


 円は一瞬ハッとした表情なり黙ってしまう。

 その言い返せない円にキサラ先生は更に追い討ちする。


「あの白浜円と付き合う男が並みじゃ困るもんねえ」


「そ、そんな事」


「ふふふ、全く考えていなかった?」

 キサラ先生にそう言われ円のさっきまでの勢いが衰えた。

 そして俺はそんな円の姿に動揺を隠せないでいた。


 でも、ただ呆然と二人のやり取りを見てるわけにはいかない。

 何か言わないと、円を助けないと……。

 たとえキサラ先生の話が……本当だとしても。


 そう思い口を開こうとしたその時


「お兄ちゃん!」


 後ろからそう呼ばれ、俺が振り向いた瞬間。


 目の前に火花が散った。


 そして俺はそのままグラウンドの芝の上に大の字で倒れた。


 真っ青な空、暑い日差しが照りつける。


 宮古の空と比べても、やはり青さが足りないなと俺はそう思った。


 口の中で鉄の味を感じつつ、俺はそのまま空を見上げ続けていた。

 


【あとがき】

 宮古島での一夜(エッチな事(/ω\)イヤン)を妹王さんがノクターンで書いてます。

内容について作者は関知してません(笑)(=゜ω゜)ノアクマデモソウゾウダカラネ!

でも、何故か二次創作になっていない(笑)

{アドレスはカクヨムだとまずいかもなのでの自粛}

 妹王で検索かけてください。

2話目更新中……だそうです。(/・ω・)/

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