第223話 宮古島合宿3日目その5(全身が痛い……)
少し遅めの……朝食。
翔君が私を見つめている。
私は動揺を隠せないでいた。
翔君の手がパンをつかむ……夕べ、ううんさっき私の身体を掴んだ手……ゴツゴツとした男らしい手に私は心臓が高鳴る。
ダメ……翔君に気付かれちゃう。
少し離れた場所に立っているメイドさんにまで聞こえるくらい私の心臓はドキドキと打ち鳴らす。
彼の逞しい身体が頭の中で映し出される。
何度の見ていたのに……ううん、陸上に復帰して最近一層逞しくなった。
それほど高くない身長だけど、厚い胸板……割れた腹筋、太い太もも……薄暗い部屋で見えた身体に私は怖くなった……。
そう昨日の彼は怖かった……。
目は血走り、私を掴む手の力は強く、今も全身に痛みが残っている。
でも……それ以上に私は……興奮していた。
ああ、今すぐイチャイチャしたい。
もしも自分が猫ならば、直ぐに彼の元に飛び付き、ゴロゴロと喉を鳴らし顔をすりすりする。
そして彼の太ももの上で彼の体温を全身で感じながらゆっくりとお昼寝したい。
昨日と今日……さすがに身体が痛い……この後部屋で二人きりになったら……また朝のように求められたら……さすがに断ってしまいそうで……。
もし身体が痛いとか、そんなことを言って断ったりしたら、優しすぎる彼はまた私と距離を取ってしまう。
折角二人の壁が薄くなってきたというのに。
だから私は……なに食わぬ顔で朝食をとる。
好きがあふれ出そうになるのを必死に堪える。
「くふ、くふふふふ……」
思わず変な笑いが出そうになる……いや、少し漏れ出てしまった。
私はそれを隠すべく急いでベーコンを口に入れた。
気付かれた? 彼が私をじっと見ている……まるで透視でもされているような、そんな目で私を見つめる。
何か顔に付いている?……ひょっとして……私の身体……何か変だったんだろうか?
顔にも身体にも自信はある……いや、あった。
でも、全てを見せたのは初めてだから……翔君が初めてだから。
もしもそうだったら……どうしよう……入学した時くらい緊張する……。
動悸息切れ目眩がする。
駄目……もう好きすぎて何も考えられない。
とりあえず今日を乗り越えれば、なんとかなるはず……。
失敗した……旅行先じゃ無かったらお互い家に帰って一旦リセット出来るのに……。
でも旅行先じゃなかったらこんなに関係が進む筈もない。
ただ私の作戦では今夜だった。
昨日翔君なら我慢すると思っていた。
少し誘惑し過ぎた? 違う……私も翔君も宮古島の景色に侵されたのかも知れない。
朝食を食べ終え少しの休憩を挟み私達は観光に出かける。
車に乗り込み暫くはチラチラと私のことを見ていた翔君だったが、車窓から見える青い空と青い海に……翔君は目を奪われるようにじっと外を見つめる。
その様子になんだかイラっとする。
いつも陸上ばっかりの翔君、それは仕方ない……そこが翔君の魅力の一つなのだし。
でも……でも今日くらいは今日1日くらいは休みにしてと……初めてわがままを言ってみた。
今日くらいは……今日1日くらいは私を見て欲しいって、私のことを考えて欲しいって思ったから。
重ねていた翔君の手を掴むと私は上からその手を握り締める。
翔君の視線が外から私に移る。
私はフッと視線を背けた。
見られない……翔君の目を……私の全部を見られた目を……恥ずかしくて見られない。
見て欲しいのに見られたくない、矛盾しているのはわかっている。
私はずっと翔君のことを考えている……何よりも誰よりも……。
「あ……」
そう思った時……私は大事なことを思い出す。
私が視線を外したからか? 翔君が繋いでいる手を裏返し私の手を上から強く握ってくる。
でも……今はそれどころじゃなかった。
そうだ……そうだった……私は大事なことを思い出す。
忘れていた……今夜は……やらなければ……必ず。
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