第184話 恋愛の順番
「ちょっ!」
その生々しい物を見せられ俺は思わずたじろぐも円はグイグイと俺に迫ってくる。
「ど、どうする? やっぱり私の部屋がいい?」
「え? いや、えっと……それは……ちょっと……」
円の部屋って……俺の子供の頃の写真が一杯貼ってあるよね? いや、あの頃の俺に見られながらってそれどんなプレイだよ?!
「うーーん、じゃあ翔君の部屋?」
「いや……それも……あんまり……」
あの何も無い部屋でってのも……ちょっと……。
「え? じゃあここで?」
「ここって……」
リビングのソファーの上で初体験って、なんか一生トラウマになる気がする……って違う違うそうじゃない! 何を俺はその気になってるんだ?!
「いや、えっとあのね、そういう事ってやっぱり順番ってのがあると思うんだけど……」
「順番? ああ、そうね、今日も暑かったし、えっとじゃあ先に浴びる?」
「あ、浴びる?」
「シャワーを先に浴びないとね、確かに順番はそうだよね」
「いや、違うそうじゃない」
「え? 私が先がいい?」
「いや……えっと……違くてね」
「じゃあ一緒に?」
「だーーかーーらーー違う、そうじゃない、そういう順番じゃなくて、えっと……いきなりそういう事って、多分違うと思うんだけど」
いや、付き合った事無いし、そういった事に今まで全く興味無かったから……でも何となく違うって思うんだけど。
「違うって?」
円はキョトンとした顔で俺をじっと見つめる。
ソファーの上、俺の隣で……えっと、近くない? いや、でも今までもこんな距離だったような……今までって? 円との距離感がわからない。
でも可愛い、とにかく可愛い……顔もスタイルも仕草も性格も俺を大好きな所も頭の良い所も運動神経の良い所も全てが可愛く愛しい。
「えっと……そ、そう、デートとかするんじゃないかな?」
「デートって?」
「えっと……買い物とか? お茶とか、食事とか?」
「……もうしてるよね?」
「あ、うん……そういえば……あ、じゃあ手を繋ぐとか?」
「してるよね?」
「あ……うん、だよね……えっとじゃあ、そ、そうだ旅行とか?」
「とっくにしてるよね?」
「あ、うん、まあ」
あれを旅行と言うには微妙だけど……。
「最終日、ロマンチックだったなあ……えへへへへ」
あ、うん、いつか語ろうと思ってたけど、そんな機会(書籍化)が無かったけど……ん?
「えっとえっと……じゃあハグとか?」
「してるよね?」
「あ、はい……」
「キスも添い寝もしてるし」
「あ……はい」
あれ? おかしい……俺達付き合ってるわけじゃ無いのに……恋人みたいな事既にしている?
あれ? 俺の感覚おかしい? かなり自制していたつもりだったのに。
「だから……ね?」
円はそう言いながら俺にすり寄ってくる。ああ、円の良い匂いが俺の理性を崩壊させようとする。
「ね? って、言われても」
「何よ、翔君は私とエッチな事したくないの?!」
さっきまで聖母のような表情のだった円は突如悪魔の、堕天使のような表情に変わった。
いや、悪魔というよりは、サキュバスか?
「し、したくないわけじゃ……で、でもこういう事ってやっぱり順番が、そ、それに天が……あ」
「……ふーーん、天ちゃんねえ、やっぱりそこがネックか」
円は一転腕を組み難しい顔で天井を見上げる。
「やっぱり翔君今度3人でちゃんと話し合った方がい良いと思うんだけど、どうかな?」
「え?! いや、えっと」
俺と円の事は会長にはきっちり伝えていたが、灯ちゃんや天にはあれから色々と有耶無耶にしていた。
「ねえ、翔君は本当に私と結婚する気あるの?」
口を尖らせ円は不機嫌そうにそう言った。
「いや、僕は結婚するとは……」
あ、思わず昔の自分に、弱いあの頃の自分に戻って、つい僕って言ってしまった……。
「へーーー、責任取ってくれないんだ、私はちゃんと責任取って翔君を日本一にしたのに、そうなんだ、ふーーん、うーー、えーーーーーん」
「いや、わかってる、わかってるから、円には感謝している、うん、そうだねとりあえずちゃんと二人で天を説得しよう」
「……本当に?」
円は涙目で俺を見上げる。
いや、えーーんって口に出しながらわざとらしく泣く奴初めて見たよ、でもこの上目遣い……この涙目、もう演技なのか本当なのかさっぱりわからん。
「じゃあとりあえず今日はキスだけで我慢する」
円は俺の太ももに手を置き俺を見上げてそっと目を閉じた。
長い睫毛、艶々と輝く円の唇……俺はゴクリと唾を飲むと、円の肩をそっと掴み、自分に引き寄せそして……円のオデコにそっと唇を押し当てた。
「うううううう、このヘタレええええ!」
「いや、えっとオデコにキスは感謝の証って意味で」
「うっさい! 感謝するならちゃんと口にしろ!」
円はそう言って俺に襲いかかって来る。
「えええええ?!」
円ってこうなの? なんか付き合い初めて性格変わった?!
キャラ違い過ぎない?
俺は持ち前バネを利用してソファーを飛び越え円から逃げる。
ああ、これから先が思いやられる。俺は円から逃げながら深いため息をついた。
円と付き合ったら色々大変だって事はわかっていた。
あの告白の後、SNSではかなり盛り上がっていたらしい。
一応今は一般人扱いなのでマスコミが来る事は無かったが、ネットではかなり色々と書かれていたらしい。
らしいと言うのは、俺と円はあれ以来ネット関連を全く見ていないからだ。
どうせろくな事は書いてないだろうって、そう思っているから。
でも俺は逃げ回りながらふと窓ガラスに映る自分を見て思った。
なんだよ、思ってる事と俺の表情が全然違うじゃんって……。
ガラスに映る俺の顔は、幸せそうな満面の笑みだった。
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