第94話 白いお腹が愛おしい


 リビングのソファーの上、円を寝かせ僕はその細く括れたウエストを触っている。

 ただでさえ色の白い円、そのお腹はさらに白く、今にも内臓が透けて見えそうなくらいだった。

 白い肌からうっすら見える毛細血管に、何故か思わずドキドキしてしまう、


 円の柔らかそうなお腹をそっと触る。

 うっすらとある柔らかな脂肪の下にはしっかりと筋肉がついていた。


 夏樹と同じくその筋肉によって、より引き締まって見えるのだろう。

 

「くく……くすぐったいよぉ~~、いててて」


「やっぱり病院に行った方がよくない?」

 何度言っても行かないの一点張り、なので仕方なく僕が直接触れて大丈夫か確認している。

 ただ、動かしたり笑ったりした時に痛んでいるので、多分だけど内臓の損傷はなさそうだけど……。


「いーーや」


「全く……明日までに痛みが治まらなかったら必ず行くんだよ!?」


「はーーい、それで、翔先生の診察結果は?」


「先生じゃないし、まあ、多分外腹斜筋の挫傷だと思う、ここの筋肉は痛めると長引くんだよねえ」

 多分だけど、肉離れまでは至っていない、そしてその痛いと言っている部分はうっすら赤くなっていた。


「そうなの?」


「うん、でもどこにぶつけたらこんなに綺麗に痕が付くの」

 まるで誰かに腹パンされたような……。


「えええ、えっと、チックとね、遊んでたら飛び付いて来てね、それで倒れた所にたまたまボールがあって、それがお腹にね」


「──全身痛いってのは?」


「ちょ、ちょっと運動をね、久々に頑張っちゃってね」


「……ふーーん」

 明らかに嘘である……でも、それが嘘である根拠もない。


「そ、それよりも今日はどうしたの? 会長さんは?」

 完全に誤魔化している。でも、これ以上追及する権利なんて僕には……ない。


「ああ、うん、なんか用事があるって早々と帰っちゃった」


「そうなんだ、だから勉強しに来たの?」


「あ、いや、その……相談があってさ」

 

「そか、うん、聞くよ、でさ……あの、とりあえず……手を」

 部屋で倒れていた時円はどこかに出かけていたのか? 綺麗なワンピースを着ていた。

 そして着替える間もなく倒れ、僕に発見され慌てて部屋から出され今に至る。

 その格好で僕にお腹を見せると、パンツが丸見えなってしまう。

 なので今、円には下半身にバスタオルを巻いて貰っている。

 

「あ! ご、ごめん」

 僕が手をどかして後ろを向かないと、円は起き上がる事が出来ない。

 吸い付く様な円のお腹の肌触りが、あまりに気持ち良く、僕は離す事を躊躇ってしまっていた。


「あーー、翔君、なんか残念そうな顔してる~~、もっと触りたいの? それとも見たいの?」

 僕が慌てて手を離すと、円はゆっくりと起き上がり、そしてバスタオルの結び目をほどく。


「ちょ! だ、駄目だって」


「そういいつつガン見してるし」


「ち、違う!」

 右足の関係で、尻餅をついている状態なので、直ぐに後ろを向けないだけ、本当にそれだけ。

 僕は慌てて左膝を立て、それをコンパスの針の様に使い180度回転し、円に背を向けた。


「そうよねえ、今さら私のパンツぐらいじゃあ興奮しないよねえ~~」


「いいい、言い方!」


「あははは、いいよこっち見て」

 そのまま這いずる様に向かいのソファーに座り円と対面する。

 円は綺麗な姿勢で座り直し僕に向かって微笑んでいる。


 ほんの少し、ほんの少しだけ……スカートを捲り悪戯っ子の様にニヤリと笑っている円を想像してしまい、残念に思っている自分を地中深く埋め、僕は円に陸上部の合宿参加依頼の話をした。



「ふーーん、それで翔君は行きたいの?」


「え? いや、でも……僕は勉強しないといけないから」


「……そういう言い訳はいいから、今聞いてるのは、翔君が行きたいのか行きたくないのか、それだけだよ」

 真剣にそう言って僕を見つめる円。

 だから僕は少し考え、自分の本心を確認するように円に言った。


「……灯ちゃんや会長にアドバイスして、思ったんだ……人の成長を見るのも悪くないかもって……前はさ、悔しいって感情が溢れて来てね、凄く嫌だった……今でも全く無いとは言えない。でもね、それ以上に楽しいって、面白いって感情が溢れて来て……だから行きたい……行けるのなら、行って確認したい、この感情が本物なのかどうか……」


「だったら行けばいいよ、後の事は私がなんとかするから」


「円……」

 円って、やっぱり男前だよなと改めて思うと同時に、益々自分の男気の無さに辟易してくる。

 

 円はそう言うとにこやかに立ち上り、僕の背後に回った。

 そして、ソファーの背もたれ越しに手を伸ばすと僕の首を掴む。


「それで、一つ聞き捨てならない事を呟いていたけど、その女子陸上部ってのは何なのかな?」


「え?」


「うちって共学だよね? 陸上部には男子部員もいたよね?」


「え? あ、いや、なんか夏合宿は分裂するとかなんとか……」

 し、しまった余計な事までいってしまった!


「へーーじゃあ、翔君ハーレムだあ」

 僕の首に掛かっている手に力がこもる。

 さらに爪を立て僕の首に丁度頸動脈を狙う様に円の爪が食い込む。


「あ、あの……円さん?」


「ハーレム目当て、じゃないよね?」

 円の爪が僕の首筋に刺さる。頭に流れる血が止まって行く……や、やばいコロコロされる。


「もももももも、勿論でございます!」


「ふーーん、本当に?」


「もももももももももも、勿論でございます! ございますです!」

 大事なんで2回言った!コロコロされない様にしっかりと2回言った!!


「そっか、そうだよねえ」

 食い込んだ爪が緩み、頭に血が流れていくのを感じる。ああ、今日も生きている。円といると常に生きているって実感できるなあ……。


「でも~~もし、そんな不埒な事を考えているようだったら」

 安心するも束の間、今度はぐいぐいと僕の首を絞めつける。


「くっ……苦し……」

 なんでこんなに握力が強いの円さん? 筋肉の付き方も体育会系、いや、その辺のアスリート以上なんだけど……。

 

 円が本気になったら、多分妹よりも強いかも……もしかして夏樹よりも……。

 今度妹に言っておかないと、くれぐれも円には手を出すなって……。


 そして、首を絞められるも、円が僕にやきもちを焼いてくれているようで……僕はこんな状況なのに、思わず嬉しく思ってしまった。

 

 だ、だけど、勘違いしないでよね、ドMとかではないんだからね! 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る