2部1章 再スタート
第62話 妹と出来ない事って……?
走り終えた後、ボロボロになった僕は夏樹と妹二人に担がれる様にして自宅に帰って来た。
二度と帰って来る事は無いって思っていただけに……なにか感慨深い物があった。
身体中傷だらけ、打撲と擦過傷、とりあえず大きな怪我はしてなかった。
そして、治療を終えた後、僕はリビングにて妹に説教される。
ちなみに夏樹には明日マッサージをしに行く約束をしている……多分そこでも説教をされるんだろうけど……。
「お兄ちゃん、もう絶対に! 絶対に死ぬなんて思わないで!」
「ご、ごめん」
今更ながらに、なんで会長にその事を打ち明けてしまったのだろうと後悔する。
まあ、嘘からこうなった事や、もう色々な事から逃げないと決めたからなんだけど、聞かれもしない事をペラペラと喋るのは如何な物かと、自問自答する。
「後に残された人がどんな思いをするか、もし私があの後死んじゃったら、お兄ちゃんどんな気持ちになるか、わかるよね!?」
「……はい」
なにも言い返せない……。
「私がカーっとなって思いもしない事や、とんでもない事を言っちゃうのは今に始まった事じゃないのは、お兄ちゃんだってわかってるでしょ?!」
「はい……まあ……」
自覚してたんだ……てか、知っていたけどさあ、あのタイミングでってのは思う……。
「で、でも……ごめん……私……お兄ちゃんを傷付けて……」
「ううん、僕も天の事、ちゃんと考えて無かった、嘘迄ついて、ごめん、もう嘘はつかないから……」
お互いに涙を浮かべ頭を下げる。 嬉しい気持ちと済まないという気持ちが頭の中で同居し渦巻いていた。
僕は妹に嘘をついていた、だからあんな事に……やっぱりこれも僕のせいだと実感する。
「でも、やっぱり、お兄ちゃんがそんな事考えるなんて……信じられない。きっとあの女にそそのかされて……お兄ちゃんが北海道に行くなんて言うわけないし……お金も無いし」
「いや、だからあのね」
妹の円嫌いは相変わらずだった。
「したの?」
「……はい?」
「あの女と……は、初体験……したの?!」
「え、ええええ!」
唐突に何を聞くんだと驚くが、隣に座る妹は真剣な面持ちでぐぐっと僕に迫って来る。
「したのね!? 1週間近く二人きりで、しかも旅して、しかも死のうなんて考えて、きっとあの女に……最後の思い出にとか言われて……」
「いや、あの……天さん?」
「悔しいいいいい、あいつなんかに先を越されるなんて……お、お兄ちゃん、今すぐ服を脱ぎなさい!」
「……はい?」
「あんな奴に負けるとかないから! 私もする?!」
「……はい?」
「早く脱げええええ!」
「うわあああ、な、何で天が脱いでるんだ、って、来るな、や、やめ、やめてえええええ、してない、してないからああああああ!」
ソファーの上で……じゃれ合う僕達兄妹……でも、本当にそんな事をするわけはなく、これはいつも通りの仲直りの儀式、多分妹は照れ隠しでこうやっているのだろう……長い付き合いだ……直ぐにわかる。
僕自身も、いつもの精神状態ならば妹の一言にあそこまでショックを受けていなかったのだろう。
多分僕はあの事故から、3年近く追い詰められていたのだ……学校では味方はいない、痛い視線をいつも感じながら、動かない足にイライラして。
皆僕の過去を見ていた。過去の栄光から転落した僕を蔑んでいた。今の僕には何も無いって、可哀そうな奴だって……そう言う目で見られていた。
そして遂には身内に迄、妹に迄そんな目で……なんて思ってしまった。
その溜まりに溜まった感情が、思いが、円が目の前に現れる事によってか、津波の様に僕の心を生きる希望を流して行った。
でも……最後の最後で、わかったんだ……逃げていたって、過去の事を一番気にしていたのは自分自身だって。
だから……走った……駄目だってわかっていたけど……こうなる事はわかっていたけど。
これからが本当の始まり……僕の第二の人生が、僕の新しい物語の始まり……。
「お兄ちゃん?」
「え? ああ、っていうか、まず服を着ろ」
妹は乗りの悪い奴っていう目で僕を見ると、シャツのボタンを留め隣に座り直す。
「お兄ちゃんは……あいつと、付き合うの?」
服を直しつつ妹は座っている僕の事を横目で見ながらそう言った。
困惑した表情、そして、あの時の様な、円を殴った時の様な怒りに満ちた目で僕を睨みつける。
「い、いや……まど……白浜さんが僕となんて……あり得ないだろ?」
僕は自分に言い聞かせるように妹にそう言うと、妹の表情は一転晴れ晴れとなる。
「だよね、わかってんじゃん、あいつはあくまでも責任を感じてお兄ちゃんに付きまとってるだけなんだから、本気にしちゃだめだよ?!」
「え、ああ……わかってるよ……」
「マジでそう思ってる?」
「……うん」
「お兄ちゃんを許しても……あいつだけは一生許さない、絶対にお兄ちゃんの彼女になんてさせない」
妹はまるで何かに取り憑かれた様にブツブツとそう呟く。
「……」
円に好きって言われた事は……聞かれて無いので言わないでおいた……これは嘘じゃないし……。
「やっぱり、私……お兄ちゃんの学校に入る! 二人をくっつけない様に見張らなくっちゃ……ふふふ、ふふふふふふ、燃えてきたぞーーー! あいつが入れるんだ、私に出来ないわけがない。負けない、あいつになんて絶対に負けないんだから!!」
「……あの……天さん? 僕もその……勉強しないと、来年転校する事になっちゃうんだけど……」
勉強が遅れていて、中間の結果が思わしくなかった上に、この1週間何もしなかった。
今度の期末で赤点を取ると、かなりヤバい……。
「……お兄ちゃん……それであいつの家に行ってたの?」
「まあ、うん」
「……いいわよ、あいつを利用するのは……でも、もし……」
「もし?」
「もしあいつと……なんかしたら」
「なんかって……は、はい」
無神経に聞き返すと、妹は鬼の形相でまた僕を睨みつける……こええええ、マジでこええええ。
また殴るの? 今度は僕も? そう考えていると妹は殴るよりも恐ろしい事を言い出した。
「同じ事をお兄ちゃんにしてやるから」
「……はい?」
「あいつとキスしたら、私がお兄ちゃんにキスをする!」
「……は?」
「あいつと……したら……私がお兄ちゃんと」
「あ、あの天さん自分が何を言ってるかわかってる?」
「わかってるわよ! 近親……」
「わかった、わかった、言わなくて良いから、しないから、するわけないから、そもそも北海道でずっと二人きりだったけど、そんな事…………なかったから」
「……お兄ちゃん? 今なんか間があったよね?」
「……いや、なにも」
「また嘘をつくの? 反省してないの?」
「えっと……す、すみません……お風呂に入りました……一緒に……」
「それだけ?」
「そ、それだけ、本当に、それだけ、あ、タオル巻いてたから、見てもいないから、なんていうか、その裸の付き合いっていうか、隠し事なしで話そうって感じで」
「そ、わかった……じゃあ今日一緒にお風呂に入ります!」
「……は?」
「いい? 今後あいつとした事は全部包み隠さず話す事、そしてそれを私とするの! これから! わかった!」
「えええええ!?」
「妹と出来ない事をあいつとするんじゃないって言ってるの!! 私は許さないから絶対に絶対に許さないんだから!! わかった! じゃあ、とっととお風呂に入るよ!」
「い、いや、今日怪我してるから」
「じゃあ、明日! 必ず入るから、わかったね!?」
「ええええええ?!」
こうして……僕と妹はとりあえず……仲直りをした……のか?
【あとがき】
カクヨムコン迄遠すぎるので(笑)2部開始します。
ご期待に添えられるかどうか、毛色が全く違う内容で、とれだけ読者様が付いて来られるか(笑)
陸上に恋した主人公、夢破れ、失恋した主人公
次に恋する相手は誰か?! 簡単に言うと、そんな普通の内容です(; ・`д・´)オモシロイノカ?
是非ともブクマ、レビュー宜しくお願い致します。
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