第4話
次の日の朝、僕は何の躊躇いもなく、道場へ向かっていた。
それは、白シャツ管長と怜ちゃんの気さくな性格も大いに味方しているのでありまして、何やら管長の教えとは別に、その場を楽しみに行く遠足のような気分でもあった。
案外、シマウマ柄さんなんかも、そんな楽しみで通っているのではないだろうか。
「やあ、また来たね。」白シャツ管長が出迎えてくれた。
「あ、ドリームさん。久しぶりな感じするわあ。あたしの事忘れてなかったんや。」
「勿論、忘れてないよ。」
「あ、兄ちゃん、ひさしぶりやね。寂しくて怜ちゃんに会いに来たんか。」
シマウマ柄さんも、来てたんだね。
「まあ、そんなところです。」
相変わらずにこんな会話が、ほっとする。
「どうや、ドリーム君は、後継者になる決心が出来たか?」白シャツ管長が言った。
「いや、そんな。まだです。」
「ドリームさん、後継者になっても会費は、払ってな。結構、うちも大変やしね。」
怜ちゃんが、おばちゃん口調で合いの手をいれる。
「いや、今日は管長さんとも話がしたいな思って来たんですわ。」
「僕と話が、、、」。管長が不思議そうに僕を見たら。
「したい。」その後を怜ちゃんが付け足した。
そして続ける。
「よう、そんな気になったね。まあ、一応、オケケ寺のエライサンやからね。うちのお父ちゃんは。でも、また長くなるで。うち、知らんで。」と言って笑ったが、やや嬉しそうでもある。
「そんで、話って何なの。」白シャツ管長が聞いた。
「いや、実はね、というか今、話なんかしててもいいんですか。」
「いいよ。今日は後で1件人生相談みたいなものをやるだけだからね。」
「人生相談?」
「そう、まあそれは後で分かるから。」
「そうですか。いやあ、昨日居酒屋で飲んで帰ったんですけれどね、家に着いてからチューペットを食べながらね、考えていたんです。」
「チューペットって、子供やん。」
怜ちゃんも興味深げに聞いているんだけれど、こういうツッコミは入れたいようだ。
「チューペットって、何の味?なあ、なあ、何の味?」
まだ、続けるか。
「いや、別に何の味でも食べるで。」
「そやから、昨日は何の味食べたん。」
「え、何でそんな事知りたいん。そうやな、ソーダ味やったかな。」
「ふーん。普通やな。」
「普通やったら、アカンかったみたいやね。そやから、そのチューペットはええねん。」
これがオバチャンだったら、面倒臭いと思うのだろう。
でも20歳台の怜ちゃんが聞くと、少しばかりデートをしているような気分にもなる。
「管長、それでですね。人間というのは、どうやって出来たのかなと思いまして、是非管長の持論を聞きたかったんですよ。」
そういうと、白シャツ管長は、今までで1番大きな声で、笑った。
「いや、ダーウィンの進化論では、無理があるなと思うんですよ。とはいうものの、神様が作ったというのも、信じがたいのです。管長はどう思われますか。」
「君も、そういう事考えるのが好きなのかね。僕も好きなんだ。」
白シャツ管長は、パイプ椅子を3脚持って来て、僕にその内の1脚を差しだした。
「まず、ダーウィンの進化論な、あれはアカン。」
「大事な事を忘れてるんや。」
「あ、管長はダーウィンの進化論読んだんですね。」
「いや、読んではいない。読んではいないけれども、大体は解る。学校でならったやろ。」
「はあ、じゃ、僕と同じレベルですね。」
「そうかもしれんな。でもな、それでええんや。」
「はあ。あれで言うと、今の世界に目が3つあったり、手足が4本とか6本の人間が存在しても良さそうなのに、大体どこの国の人間も同じパーツの構成で出来上がってますよね。
あれって、そんな上手い具合に環境に適応したり、突然変異したりするでしょうか。手も10本ぐらいあったほうが便利やのに。」
「うち、嫌やわ。手が10本もあったら邪魔やんか。背中に手が付いてたら気になって寝られへんで。それに下敷きになる手はしびれてしまうし。」
怜ちゃんらしい話ではある。
「ドリーム君は面白いことを言うね。それはそうだな。そうや、その話今度の法話に使ってええかな。最近話のネタも尽きてきてなあ。」
「いいですよ。」
「そうか、サンキュ。でもダーウィンの進化論には、もっと大きな壁があるんや。あれはアメーバみたいな小さな生き物から進化していくんやろ。そんでもって、最後に人間にたどり着く。
アメーバって、どんなんか知らんけどな。そうや、ドリーム君の好きなミジンコみたいなもんか、いや、もっと小さいな。もっともっと小さい。いや、もっと小さかったんかな。どうや、ドリーム君。アメーバとミジンコはどっちが小さいんや。」
「いや、それは知らないですけど、アメーバの方が小さそうですよね。」
「もう、そんなんどっちでもええやんか。」
怜ちゃんのお蔭で話が前に進みそうだ。
「そうか、そしたらアメーバや。それから進化して人間になるちゅーことやな。でもな、そのアメーバは、どうやって出来たかや。地球というのは火の玉みたいな熱い丸いもんが気の遠くなる程たってから、それが冷えて今みたいな地球が出来上がったんやろ。でも、その出来上がった地球の表面には何もなかった筈や。無機質な元素ばかりやったろう。酸素やケイ素、鉄とか、後はよう分らんけど、鉱物のような無機質なものやったんやろ。
そんなものを組み合わせて、タンパク質が出来るやろうか。生物というのはタンパク質で出来てるわけやから。冷えた地球の表面にある無機質な元素から、タンパク質ができるやろうか。まあ、いま2回繰り返して言ってしもたけどな。そこが大きな壁なんや。いくつかの元素をコップに入れてかき混ぜても、タンパク質もアメーバーも出来ないに違いないんや。それにDNAなんてことになったら、あんな複雑なもん進化とか変異でできるもんじゃないよ。そう思うだろう。」
「そう思います。じゃ、どうやって人間が出来たんですか。管長も神様派ですか。あ、それともオケケ様とか。」
「アホなこと言うな。オケケ様は、ブッダの毛やろ。それは、ただの人間の身体の1部分や。人間の誕生とは関係ないやろ。それに人間を作ったのは神様でもない。でないと神様は、どうやって出来たんやって話になる訳やからね。実際、神様っているものかどうか。それも人間を作るっていうのだから、存在するとしたら神様は1柱でなきゃ可笑しな話になってしまう。でなきゃ、神様が沢山いるのなら、沢山の人間の種類が出来上がったはずだよね。」
「あはは。管長も面白いこと言うんですね。でも、そうですよね。神様の数だけ人間が出来上がる。」
「そうかな、それじゃ、この話も法話でしようかな。うん。」
「それやったら、どうやって人間が出来上がったん。」
怜ちゃんも知りたいようである。
知りたいようではあるけれども、果たして白シャツ管長のいう事が正解とは限らないのではある。
「うん、そうやな。僕も真実は知らない。」
「そらそうやろ。そんなん知ってたらノーベル賞貰ってるわ。」
怜ちゃん、ノーベル賞ってさ。
「そやけど、お父ちゃんノーベル賞欲しいなあ。」
「そやから、そんなん。無理やて。」
「いやや、いやや。欲しいねん。お父ちゃんノーベル賞欲しいねん。」
「もう、ややこしいから、話進めて。」
「冷たいなあ。もうちょっと乗ってくれてもええのになあ。なあドリーム君。」
「はあ。でも20歳台の若い女の子は、こんなにお父さんの話を聞いてくれないですよ。そこは怜ちゃん優しいですよ。それよりも、人間の話ですよ。」
「そうやったな。人間は、何で出来てるか。それは細胞や。そしてその細胞は何で出来てるか。何や核とか、難しいもんで出来上がってるわな。そんでもって、それを更に小さくしてみていくとやな、詰まるところ人間は原子で出来てる訳や。これは人間だけやないで、物でもそうや、机とか椅子も皆原子がいっぱいくっつきあって出来上がっている。
そんでもって、その原子は何で出来てるかというと、電子と原子核やわなあ。その電子や、これはあるかないか分らへんぐらい小さいねん。そんでもって、原子核もそうや。そんでもってや、そんでもって、その電子と原子核の間はなにかというと、これは何もないんや。スカスカの空間しかない。原子のほとんどがスカスカの空間やで。ビックリするやろ。スーカ、スカや、スーカ、スカ。」
「何か歌できそうやね。人間は、スーカ、スカ。とか、でも全然メロディー浮かばへんわ。」
怜ちゃんは、何度か口を小さく動かしながらスーカ、スカのメロディを探しているようだが、首を傾げて僕をみた。
「メロディ、諦めたんや。」と僕が言うと。
「別に、そんな歌いらんし。」
「そうや、うちにもオケケ寺の歌が必要やな。みんなで集まった時に歌えるように。」
管長が、そのことを思いついたのが自慢のように僕と怜ちゃんを見る。
「やっぱりフォーク調か、それともロック調か。」
「ドリーム君、君作曲は出来るか。」
「出来ません。」
管長も怜ちゃんも、ガッカリした表情を滑稽にして見せた。
「だからや、人間はな、きっちりとした肉体で出来上がってるように思うけど、それは大きな勘違いというものだよ。人間のほとんどはね、スーカ、スカなんや。つまりは、今ここに存在していると勘違いしてるけれども、それはスーカ、スカなんや。つまりは、存在してるけれど、ほとんど存在していない。」
「存在していないって、うちここに居るやん。」
「そやから、それが勘違いや。」
「そしたら、存在してないもんが、ビール飲んだり、悩んだりしてる訳?」
怜ちゃんは、自分が存在していないという管長の理屈が気に入らないようである。
「そうや、すべては勘違いや。というか、その勘違いが1人だけの勘違いやったら、これは可笑しいで。でも、すべての人が全員勘違いしてたらどうや。これは存在していることになるかもしれへん。」
「それは面白い理屈ですね。初めて聞きましたよ。」
「そうやろ、これでノーベル賞や。そんでやな、存在していないのは人間だけやないで。この地球も、この宇宙も、全部存在していないんや。」
「それはまた、強引な。」
「元々はやなあ。人間も地球も宇宙も、物理的に存在してなかったんや。つまりは、イメージだけの次元で存在してたんや。形のないイメージだけの世界で。
そこで、イメージの中で進んで行った。ミジンコか、あんなものから人間へとイメージだけで進化していったんや。そんでもって、地球もそのイメージの中だけで発生して、冷えて固まった。宇宙もイメージだけで現れたんや。そんでもって、そのイメージだけの人間が、今のような人間にまでイメージが進化した時に、そんでもって沢山の、めちゃ沢山の個々のイメージが、あるとき、ぎゅーっとやなあ凝縮されて固まって、物質化したというのが僕の理論なんだよ。だから、ある時に、凝縮されたときに一瞬にして、この人間も地球も宇宙も突然に物質化して現れたということだ。でも、イメージも物質化されたものも、一緒だからね、誰もイメージと物質の差に気づかないんだよ。」
「なるほど。これは管長すごい理論ですよ。これはひょっとしたらノーベル賞も間違いがないかもしれませんよ。」
「そうか。そうか。この理論を理解してくれたのは、今までに君だけだ。やっぱり僕の後継者だな。頑張ってくれよ。」
「もう、お父ちゃんもドリームさんも、そこまでっ。」
怜ちゃんが止めた。
「お父ちゃん、存在しない信者さんが、存在しない悩みの相談に来てるよ。」
「あ、そうか。もうそんな時間やったんやな。ドリーム君、僕は相談も受け付けてるんでね。これは有料なんだけれどね。見ていくか、その相談を。」
「いいんですか。じゃ、拝見させてください。」
「ドリームさん、本当にお父ちゃんの理屈は、そんな面白い?そんな面白い理屈考えても、お金入ってこやへんのになあ。」
その切なそうな声が、僕の胸を甘酸っぱく熱くさせた。
どうも怜ちゃんには、やられてしまうなあ。
「あ、管長先生。忙しいところ、すいません。」
「今日は、どうしたんですか。」
小柄で痩せているせいか、少し実際より見た目が老けてみえそうな、たぶん65歳ぐらいだろうか、グレーのブラウスに黒のパンツをはいた女性が部屋の前の方のパイプ椅子に座っている。
少しぐらいは派手な格好をしたら、もっと若々しく見えるのになあと僕は思いつつ見ていると、実際は目鼻立ちも整って綺麗な人である。
落ち着かない表情で、手を小刻みに震えさせて、早口で喋りだした。
「実は、うちの主人に大腸のポリープが見つかりまして、2日前に摘出したんですが、今その組織を検査に出しているんです。ひょっとしてガンじゃないかと思うと、心配で堪らないんです。管長先生、うちの主人はガンでしょうか。大丈夫でしょうか。」
少し老けて見えたのは、そんな心配を抱えていたからかもしれない。
筋を立ててはっきりと伝えるところを見ると、普段はしっかりとした人だと思われるが、声は震えて、時に感情が高ぶると声がひっくり返る。
それにしても、こんな相談に白シャツ管長はどう答えるのだろう。
まさか、管長に霊感があるとは思えない。
それに、そんなことは医者に聞いた方が正確だ。
とはいうものの、検査結果が出るまでは、不安で仕方がないのだろう。
その気持ちは察することができる。
僕は、こんな質問をされたら、どう答えるだろうと考えたが、たぶん何ひとつ信者が納得する答えが思い浮かばない。
或いは、ペテン占い師かペテン医師の常套句「来るのが、1週間遅かった。」なんてことを言って、その場を逃れるか。
ペテン師は、こんな答えをすると何かの本で読んだことがある。
上手く治れば「何とか間に合ったか。普通じゃ治せないけれど、ベストを尽くして良かったよ。」なんてことを言えばいい。
或いは、たとえダメだったとしても、「やっぱり、そうか。やっぱり1週間遅かったな。」と言えば済む。
さあ、白シャツ管長、どう答えるの。
「うん。そうか、それはたいへんだったね。よし僕がオケケ様にシンクロして聞いてみてあげるね。」
そういうと、管長は瞑目して手で何やら九字のようなものを切って、「うん。」と腹から押し出すような強い口調で言った。
そして、相談の信者さんに向かって満面の笑みを浮かべて言った。
「大丈夫や、ガンやない。そやから安心しなさい。今日は帰ったら美味しい料理でも作って、旦那さんとビールでも飲んで、ゆっくりしたらいい。心配はいらん。」
僕は、あまりにもハッキリと断定する白シャツ管長の言葉に、思わず椅子から身を乗り出して、管長の顔を見直した。
そんな、ええ加減な。
オケケ様とシンクロして、相談の信者さんの旦那の病気のことが解る理屈は1パーセントもない。
それなのに、医者でもない、霊能者でもない管長が、断言できるなんて、そんな軽率な答えを相談信者さんに言っていいのだろうか。
今まで、白シャツ管長のことも、面白い人だなあと思っていたと同時に、優しい人だなとも感じていた。
それが、今の答えで管長の考えや性格が、僕の思っていたものと違っていたのだろうかと思った。。
相談信者さんは、管長の答えを聞いて、急に表情に光が当たったかのように、晴れやかなものに変わった。
何かに憑かれていたものが落ちたようだ。
「管長さん。ありがとうございます。本当に良かった。本当に、、、。ありがとうございます。」
晴れやかな顔に薄らと涙も浮かばせて白シャツ管長に深々と頭を下げて帰って行った。
「可哀想に。旦那さんがガンやて。何でそんなことなるんかなあ。灰色さん、ええ人やのに、神様は何してるんよ。」
怜ちゃんは、管長の言ったことを無視している。
とはいうものの、灰色さんというニックネームなのだろう相談信者さんを本当に心配しているようだ。
本当に、優しいところがあるんだなあ。
それに引き替え、管長はどうだ。
「大丈夫。ガンじゃない。」なんて、どうして言えたのか。
相談信者さんが帰った後に、こちらに戻ってきて怜ちゃんに管長が言った。
「怜ちゃん、灰色さん。可哀想やなあ。心配やなあ。」
その目は、何故かくたびれた寂しい目をしていた。
「管長。管長にさっきの旦那さんの病気の事解るんですか。オケケ様にシンクロしたら解るんですか。」
やや責めるような口調で聞いた。
「あほな。そんなん解る訳ないやろ。オケケ様にシンクロなんて嘘やがな。」
「でも、あんなにハッキリとガンじゃないって言ってましたけど。」
「ガンかどうかなんて、誰にも解る訳ないだろう。検査結果の日の医者だけや、そんなん解るやつは。じゃ、どう答える。今目の前にいる灰色さんにドリーム君なら、どう答える。」
「、、、、。何と答えたらいいか、解りません。」
それが正直な答えだった。
ガンかどうか分らないのに、答えようがない。
「そうやろ。僕も、実はそうや。解らへん。でもなあ、灰色さんは心配で心配でたまらん様子やったやろ。そんな人に、僕は医者じゃないから答えられないなんて言えるか。そしたら、答えは1つや。ガンじゃないって言うことしかない。それだけで、安心してくれる。
例え、検査結果の出る数日間であっても、ゆっくりと食事をして、ゆっくりと旦那さんと
話もして、少なくとも今日はゆっくり眠れるやろう。」
僕は、白シャツ管長のいう事を聞いて、涙が出そうになるのを堪えていた。
白シャツ管長は、灰色さんと呼ばれる相談信者さんの事だけを考えていたんだ。
灰色さんが少しでも楽になればいい。
後になってガンと分って自分の信用がなくなるなんてことは微塵も考えていない。
灰色さんの苦しみを、真正面から抱きしめてあげたのだ。
「管長、僕、信者になろうかな。今の話、感動しました。」
「やった、信者ゲット!会費2000円ゲーット!」
怜ちゃんが無邪気にはしゃぐ。
「あ、怜ちゃんに毎日会いたいから、やっぱり信者になっとこうかなって思てるんやろ。怜ちゃんお色気作戦大成功!」
「まあ、そんなところです。」
お色気作戦ねえ。
「それにしても、今日はやっぱり、ちょっと疲れたな。焼肉でも行くか。お母さんにも言うて来て。」
「やった。焼肉、賛成の反対の反対。」
怜ちゃん、何歳なの。
「ドリーム君も、一緒にどうだ。うちは精神的にも肉体的にも疲れた時は、焼肉に行くことにしてるんや。焼肉食べると何となく元気になるんや。」
「はあ。でもいいんですか。家族の団らんに僕なんかが入って。」
「うちは、大丈夫や。人数おったほうが楽しいやろ。」
「お母ちゃんがな、最近近くに洒落た焼肉屋ができたから、そこにしたらって言うてるんやけど。」
「洒落た焼肉屋か。」
「洋風と韓国風のコラボらしいで。コースもあるらしいわ。」
「そうかコラボか。変わってるな。よっしゃ、そこにしよう。」
洒落た焼肉屋は、ビルから歩いて5分ほどのところにあった。
お店はビルの1階と2階にあって、通されたのは個室である。
掘りごたつ風に足を伸ばせるようになっているのは、日本風か。
見た目はそれほど洒落てはいない。
すると、個室の入り口から店員が入ってきてメニュウの説明を始めた。
なんでも、コース料理がオススメだそうである。
ここは生ビールとコースを注文した。
まずは、生ビールで乾杯。
「それじゃ、ドリームさん入会を祝して、乾杯。」
「本当に、ええの。入会なんかして。」
お母さんが、心配そうに僕に尋ねたが、何やら嬉しそうでもある。
「それでは、前菜でございます。」
入り口からバイトらしき女の子が小さな皿が3つ連なったような皿を持って来て、各人の前にセットした。
白シャツ管長は、その前菜を無言で見つめ続けている。
皿には、ローストビーフが1枚と枝豆をマヨネーズで和えたようなものと、肉の端切れを寒天で固めたようなものが乗っかっていた。
それを管長は、ずっと見つめていた。
そして、お母さんに耳打ちするように言った。
「このお店は、あかんな。もう来ないな。」
「やっぱりな。お父ちゃん、そう言うと思ったわ。」
「ごめんね。お父さん。気に入らんかったら別の店に行く?」
「いや。今日は、ここでええけど。もう来ないぞ。」
「なあ。ドリーム君。この焼肉屋は、どう思う。」
「どう思うって、まだ焼肉食べてませんけど。」
「いや、まだ食べてなくても、僕にはアカンて解るんや。君はどうや。」
「はあ。アカンのかどうか解りません。」
「そうか。解らんか。」
「それじゃ、君はフランス料理をどう思う。特にフランス料理のコースは、どうや。」
「コースですか。あまり食べる機会がないですから、、、。でも、始めに出てくるスープは好きです。汁物がすきなんです。あれ、お変わりできたらいいんですけどね。」
「あ、そうか。君もスープが好きか。それは僕と同じや。僕もスープとか味噌汁とか、なんせ汁が好きなんや。この前もな、ラーメン屋へ行って、スープが美味しくて、飲んでたら、麺を1本も食べずにスープばっかり飲んでしもて、麺が干上がってしもたんや。やっぱりラーメンは汁やな。ようラーメン屋で替え玉ってやってるけど、あれは意味解らへんねん。替え玉するってことは、スープ残しておくってことやろ。あれはスープを否定してる行為やと思もわへんか。うちのスープは美味しくないですよって言ってるようなもんや。僕が出来て欲しいと心から願ってるのは、替えスープや。スープの全部飲んでしまっても、またスープを足してもらえる。そんなラーメン屋出来へんかなあ。」
「お父ちゃん、コースの話ちゃうん。スープの話なってるで。」
「あ、そうや。そのコース料理や。その出てくる順番は君どう思う。」
「順番ですか。あれは昔から決まってるから、何か理屈があるんでしょうね。でも、僕は、前菜はコースの最後に出してほしいですね。あれってお酒のアテになるもの多いでしょ。だから、まだ飲みたいなってときに前菜を食べたくなる時があります。」
「それや。やっぱり君は信者を飛び越して後継者や。」
「お父ちゃん、これからは後継者も会費いることにしやな、生活苦しなるで。」
「そうやな。じゃやっぱり君は、当分は信者で修業した方がええな。そんで後継者も会費が必要だっていう会則ができたら後継者に指名するよ。」
「はあ。それでコースの順番は何なんですか。」
「君は、コース料理を食べようと思う時に、何を食べたいと思う。」
「それは、コースのメイン料理の肉料理とか魚料理とか、そんなものを食べたいと思ってコースを選びます。」
「そうだろう。それが普通だよね。コース料理で食べたいのはメインディッシュだ。なのに何故、前菜とか持ってくるんだ。あれは意味がないどころじゃなく、美味しいものを、美味しいと感じて食べてもらおうという気持ちが全くない行為だとしかいえない悪習だよ。」
「じゃ、管長はどんなコース料理がいいんですか。」
「そうだなあ。僕は好きなものは一番目に食べたいからね。 それにしても、一体あのコース料理の順番というのは誰が決めたのだろうね。それに、どこのお店に行っても、ほぼ同じ順番だろう。これを疑問に思うレストランがないということが不思議だよ。僕のように好きな物は、一番最初に食べたいというシェフはいなんやろか。そうだな、僕がもしシェフなら、こうコースを作るだろう。まず、スープだ。」
「ええっ。メインディッシュじゃないんですか。」
「いや、僕はスープが大好きだからね。スープというか汁が好きなんだ。定食でもまず味噌汁を最初にほとんど全部飲んでしまうし、さっき言ったように、ラーメンでも汁ばかり飲んでしまって気が付くと麺が干上がってしまっている事もあるし。そんな訳やから最初はスープを飲みたい。アカンかな、メインディッシュを食べたいけど、最初にスープ飲んで、アカンかな、ねえドリーム君。」
「いや、それは管長の好きなようにどうぞ。」
「ありがとう。良かったよ、最初のスープ認めて貰えて。さあ、これからや、これからコースに入っていくよ。スープの次はやっぱりメイン料理やろう。肉料理をガツンと食べたいよね。そんでもって、次の次もメインを食べるよ。今度は魚料理がいいかな。そんでもって、次の次の次もメインだ。そして、その次もメイン。メインはいくらあってもかまわない。だってメイン料理は美味しいんだもん。メインが終わってから、ようやく前菜だな。
前菜は、お酒を飲むのに丁度いい。これはドリーム君の意見に大賛成だ。この際、前菜も何度もお変わり自由というのがいいと思わないかい。パンもバターをたっぷり塗って食べるのも好きなんだなあ。 赤ワインにパンは絶妙の組み合わせだろう。その他には、ロティーやシャーベット、サラダなどもあるようだけれど、これはどんな順番でもいい。もうこの時点で少なからず酔いが回っているからね。そして最後の締めにウンダーベルグか、もしくは、胃腸薬。コース料理をたっぷり食べた後に、ウエイターがクリスタルグラスに注がれた良く冷えたミネラルウォーターと胃腸薬を、恭しく持ってくる。そんなレストランがあったら楽しいと思わないか。」
白シャツ管長は、食の話をする時は、実に楽しそうだ。
そのあたりは、僕の趣味というか嗜好が同じである。
「ここは、焼肉屋やで。焼肉食べに行って、最初に食べたいのは焼肉やろ、やっぱり。それやのに前菜って、ここのシェフは考えてないなあ。」
「お父ちゃん、それやったら、その前菜最後まで取っておいて、先に焼肉食べてから、その前菜食べたらええんとちゃうの。」
「、、、、。ほんまやな。ほんまそうや。怜ちゃん賢いなあ。お父ちゃんそれに気が付かへんかったわ。なあ、ドリーム君、気が付かへんかったなあ。」
「ええ。まあ、気が付かなかったような。」
「あら、ドリームさんは、お父さんに合わせなくてもいいんですよ。」
お母さんが、目を細めて僕に言った。
しばらくして、出された肉は、さしの入った、所謂霜降りというやつで、一般的には上等と言われる肉である。
しかし、この霜降りを普通の人は有難がって食べているようだけれど、その霜降りが好きな人の割合というのは、どのくらいなのだろう。
僕は、霜降りは好まない。
何故なら、それは肉ではなく、脂肪だからだ。
肉を食べるなんて時の心持というのは、テンションも上がっているわけで、「さあ、焼肉を食べるぞ。」なんて、鼻息も荒く肉を鉄板や網の上に乗せるものである。
なのだけれど、さて、いざ食べ始めると、油が胃に回って、すぐにもう食べられなくなる。
思いっきり食べるぞなんてテンションなのに、胃が拒否するのだ。
じゃ、それでいいじゃないかと言う人は、もともと小食の人なのではないだろうか。
僕は、焼肉は腹いっぱい食べたいという貧乏人であって、胃はたとえ油で食べることを拒否しても、脳がまだ満足していないのです。
脳が焼肉を腹いっぱい食べたいと思っているのに胃が受け付けない。
そんなアンバランスな状態で、脳が欲求不満なまま食事を終えることになる。
なんとも勿体ない焼肉となるのである。
これが、僕がいつも食べている安物の肉なら、赤身が多いからいくらでも食べられるのです。
だから、胃も脳も同じタイミングで満足できるのであります。
それにね、僕にはいまだに霜降りの焼き加減が下手なのです。
下手というよりも、僕の好みには向かないのが霜降りである。
僕は、焼肉はある程度表面に焦げ目が少し付くぐらい焼くのが好きだ。
表面に付いたモミダレが焦げて香ばしくなって美味しい。
でも、霜降りを焦げ目が付くぐらい焼くと、さしの脂肪が溶けて流れて縮こまって、何とも情けない肉になってしまう。
しかも、赤身が少ないから、どうも肉を食っているという満足感も少ない。
ふと目を上げると、お母さんと怜ちゃんが「上等な肉は、やっぱり美味しいね。」なんて話をしながら食べている。
お母さんの育ちの良さを思った。
霜降りの肉を、普段食べ慣れていて、だから美味しいと思うことが、育ちが良いということではない。
出された肉を、お母さんや怜ちゃんの好みは知らないけれど、それを素直に受け入れて、美味しいねって普通に食べることが出来るということが、育ちが良いということだ。
僕のように、折角の霜降りを、好みじゃないとか、食べ方が難しいとか言うことがない。
目の前にある御馳走を、いや御馳走でなくてもいい、それを美味しいと感じて食べることが出来るのは、それが客観的に美味しいからでなく、お母さんのこころの中に、どんなものでも美味しいと感じる思考回路があるからである。
それは、優しさと似ている。
だからこそ、この家族はこんなに仲良く幸せそうにしていられるのだろう。
いつも感じていたけれど、お寺もそんなに景気が良いというふうではない。
むしろ、これは想像だけれど、家計も苦しい方なのかもしれない。
でも、お寺でみんなの世話をするお母さんも怜ちゃんも、明るく楽しそうだ。
彼女たちのこころの中に、どんな状況の中でも、日々を楽しく生きようと言う思考回路が存在するのだろうね。
だからこそ、白シャツ管長さんも、今のお寺のような施設をやっていけているのだろう。
「あーっ。ビール飲んで、焼肉食べたら、ちょっと元気でたわ。やっぱり嘘つくのは、疲れるな。」
「大丈夫ですよ。灰色さんもちょっと元気になって帰っていったんやし。お父さんの嘘のお蔭で美味しい焼肉も食べられたから、良かったわ。」
「そうやん。灰色さんも、あのままやったら可哀想過ぎるわ。嘘で元気なったら、それでええやん。」お母さんも怜ちゃんも、お父さんが心配なのだ。
「あ、そうや。お母さん明日、灰色さんの旦那さんがガンでないように石切さんに行って、お百度踏んでこようかな。そしたらみんなも安心やろ。」
石切さんとは、大阪では有名なガン封じの神社である。
「お母ちゃん、石切さんて、うちにはオケケ様があんねんから、オケケ様にお願いしたらええやん。」
「ほんまや。怜ちゃんの言う通りや、オケケ様にお百度踏もか。」
お母さんと怜ちゃんが、可笑しそうに笑った。
すると、白シャツ管長が言った。
「オケケ様は、現世のお願いは無理や。」
「お父ちゃん、それやったら意味ないやん。お母ちゃん、やっぱりお願いは、石切さんや。」
白シャツ管長は、微妙な顔で、でも嬉しそうに小さく笑った。
焼肉屋を出る時は、白シャツ管長が言ったように、少しすっきりとした表情になって、お母さんや怜ちゃんも白シャツ管長の出した答えに腹を据えたような落ち着きが出て、家族の絆が深まったように僕には見えた。
その後、数日間は灰色さんの旦那さんはどうなったんだろうとか、お母さんのお百度は本当に行ったのだろうかなんてことを想像しながら、でもお寺へ行く時間が取れなかった。
ガンという病気は、今は治療法も増えてきているようだけれど、それでも死を意識してしまう病気であることは、これはそうだろう。
たとえガンじゃなくても、それ以外でも人は何かの病気や事故で死ぬ人が多い世の中で、一体僕は、いつ、どんな風に、死ぬのかなあと考えるときがある。
神様というものがいらっしゃるのなら、どうしても是非ともお聞きしたいことがある。
「神様。僕の余命は後、何年でしょうか。何ヶ月でしょうか。何日でしょうか。」
人間は何時死ぬか判らない。
今この瞬間に何かの具合で死んでしまうかもしれない。それは事実だ。
でも、何年生きられるかは人によって違う。
20歳の若者と今の僕とでは、長く生きる場合の年数が明らかに違う。
若者には50年先があっても、僕には50年先というのはまずないだろう。
もし、あと何年生きられるかが判っていたら、どんなに気が楽だろうと思う。
もし、あと半年って言われたら、仕事も明日すぐに辞めて、世界一周旅行に出かけるだろう。そんなことも出来る。
今までお世話になった人にも挨拶したり、友人ともゆっくり話しをしたりするだろう。
でも、いつ死ぬか判らないから、色んな思いを残していかなければいけない。
もしそういう時がきたら、すごく心残りで、名残惜しいと思うだろう。
母親がガンでもうダメだといわれた時に、そこの病院ではもうダメと判断したときは個室に移されるのですが、その時もまだ母親は生きるつもり、治すつもりでいたのです。
亡くなる前日に病室に行ったときも、「個室代なんぼするの?高いやろ。」とお金の心配をしていた。まだ、見た目は明日死ぬなんて思えない。
携帯で友人に「この先どうなるんだろう。」ってメールできるぐらいだった。
まだ、死ぬなんて考えられなかった。
看護婦さんから、紙おむつを買ってくるように言われたときも、「1週間分もいらないと思うけど。」と付け加えられた言葉に悔しくて泣きました。
そんな母親は次の日になくなったけれど、母親自身もその日に死ぬとは思ってもみなかっただろう。
そう思うと、死ぬ前にしたかった事や、心残りなことが沢山あったんじゃないかと思うのであります。
もし母親がこの日に死ぬと判っていたら、どんな事をしたかったのかなと思うのであります。
こんな事を書いている僕身も、同じことなんですけれど
そう思うと、今この時に、今したいことをしなきゃと思うのですが、何しろいつまで生きられるか判らないものですから、そんなに上手くはいきません。
明日から世界一周なんて出来る訳がありません。
でも、取り敢えずは、今は生きているんですから、この生きている世界を楽しもうとは、これは思うのです。
それに、もし神様が僕の余命を教えてくれたとしても、僕の場合そんなに有意義な余生にはならないだろうね。
「神様。私の余命はどのくらいですか。」
「明日ぐらいでどないやろ。」
「えっ、明日?そんな殺生なー。明日は堪忍してーな。」
「そんなら、始めから聞かんといてーな。」
「そらそうですね。神様の言うとおりですわ。」
なんてことになるだろうなと想像したら、仕事からの帰りの京阪電車で、1人で吹き出してしまった。
しかし、ガンになるということは、普通には病気になるということ、風邪になるのと同じだと思うのだけれど、ただやっぱり、普通の病気とは違うのは、画期的な、これを飲めば絶対に治るという薬が無いことだろう。
治療法の進んだ現代でも、死を意識してしまう病だ。
それでもって、そんな病にかかってしまうということは、仏教的にはこれは、原因は自分にあるということになる。
仏教的には「因縁果報」という理屈が、この世界のルールだそうで、果たしてこれは本当なのだろうかと、いつも考える。
過去の自分の行いが、ガンという病気になって、今自分に降りかかっているということだ。
そして、それはしばしば仏教の布教に利用されてきた。
今苦しいのは、過去に悪い事をした原因が基になっている。
その原因のマイナスを、今良い事をすることによってプラスを加え、プラスマイナスゼロにしよう。
そして、もっとプラスを積んで良い境涯になろうというのです。
そして、その一番良い事というのが、他人をその宗教に勧誘する事とういことになるというのが彼らの理屈だ。
でも、その宗教はさておいて、そのプラスとマイナスの関係は実際、僕にとって本当に有効なのだろうかという疑問が湧いてくる。
良い事をすることによって、悪い事を帳消しにして、さらにもっと良くなる。
一見、もっともだなと思う。
でも、僕には何かしっくりこない。
何故なら、僕には、「何がプラスで何がマイナスか。何が善で何が悪か。」判らないからである。
善と悪は、表裏一体の性質もあり、また1本の線のように連続体の性質もある。
ある行為があってそれが善か悪かと考えても、善の部分もあり、悪の部分もあるということになるんじゃないだろうか。
また、その善の部分だけを切り取っても、切り取った瞬間、そこにまた善と悪が発生する。
それにそれに、それらがいくつも繋がっているのだから、もう分けがわかんなくなっちゃうのである。
非常に幼稚な例え話だけれども、病気で衰弱した子供に、鶏を一匹さばいて食べさせたというその一連の行為は、さて善なのか悪なのか。
生き物を殺生するということは、善とはいいにくい。
でも、子供を元気にさせたいという親心は善なのではと思う。
だったら、この一連の行為は善なのか悪なのか。
神様に採点してもらったら、プラスの特典なのかマイナスの失点なのか。
どうなのか。
そう考えると、今、僕が生きているというそれだけで、もう、もの凄い悪をおかしていることになってしまう。
そんな気持ちになることがある。
今までに、一体何匹の鶏を殺したか。
今までに、一体何頭のブタを殺したか。
今までに、一体何匹の蚊を殺したか。
生きているだけで悪なんて、それをカバー出来る善なんて僕に出来るわけがない。
それに、善と悪は、複数の人の集まりの中で多数決的に決められたルールであって、複数の人の集まりの中でそのトップが決めたルールでもあるという性質ももっている。
なので、無人島に善も悪も存在しない。
ひとりぼっちだからだ。
でも、悪をおかさないために無人島に行くのは、寂しがりやの僕には無理だ。
プラスかマイナスか、判らなかったら仕方がない。
自分が、いいんじゃないっていうことをやってみよう。
自分が、やったらダメということをやらないでおこう。
そんな風に考えて生きてきた。
でも、本当にその因縁果報という法則があるのなら、これはもう諦めるしかない。
自分の過去になしたことが因であるなら、それが報いとなって今の苦しみがあるというなら、これはその報いを受けるまで、いくら逃げたって、その報いが果たされるまで僕について回るだろう。
例え、1時的にそれを回避しても、形を変えて別の苦しみとなって、法則を果たそうとして、報いを受けさそうとして降りかかってくるという理屈である。
なら、どうしようもない。
逃げようがないのだ。
それなら、いっそ「素」のままの自分でいよう。
その苦しい原因を解消してしまったら、苦しみの無い自分に戻れるのだから。
雨が上がった青空に向かって叫んでみよう。
「神様、神様。どうぞ、その因縁果報とやらの法則を、好きなように僕に適用してください。」
仕方が無いんだったら、諦めて、ちょっと湿った雨上がりの風を感じながら、口笛を吹きながら受け止めてみよう。
「ぴー、ぴー、ぴー。」
音痴の僕には、口笛も思うようにはいかないのであります。
それにしても、灰色さんは、そんな悪いことを過去になしていたのかなあ。
いや、この場合、灰色さんではなく、灰色さんの旦那さんが悪いことを過去にしてきたということになるのだけれど。
結果は、どうなるにせよ、また僕には直接は関係の無い人だけれど、灰色さんの旦那さんの病気がガンではないことを祈ろう。
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