未完の短編詰め合わせ

Licca

メモ

 幸成(ゆきなり)は、この春から高校生だ。春のピンクの大魔王が道に咲き誇る季節。年中花粉症の人間にとって、春は地獄の季節なのかもしれない。花よりもスギ花粉のが辛いのはさておき、堂々と咲き誇ってみせる桜たちに幸成は唾を吐きかけて見せた。

「あぁ~~~。鼻水とまんねぇ」

 鼻声でぼやきつつも、学校へ向かう。入学して1週間が経つだろうか。仲良しグループも徐々に出来つつあって、幸成は遅れを取っていて、孤立気味だ。と言うのも、入学してからすぐに、伝説の幼女、と学校の中では称されている1人の女生徒に目をつけられ、出鼻を挫かれていたのであった。

 伝説の幼女、高校2年生、16歳。名前を三上百合葉(みかみゆりは)。どうして彼女が伝説の幼女と呼ばれているのか。いや、幼女は見た目がそうであって、伝説と呼ばれている理由、そこが重要。彼女は、純血の日本人にして帰国子女。アメリカで生まれ、日本語もペラペラだが、英語を得意とする。見た目は、パッと見幼女だが、サラサラで綺麗な長い黒髪に、ぱっちりとした二重の大きな目、要所ごとに発達はしていない体。これは一部に受けているらしいが……、その他にも、彼女は料理や裁縫も得意としていて、学校では生徒会に所属しており、成績は常にトップにいるらしい。まさに伝説……?

 さて、そんな伝説と、幸成のような新入生が関わり、幸成の新生活を阻むことになっているのか。

「ゲッ……」

 幸成が、昇降口に着くと、そこには百合葉が立っていた。

「幸成~~! 待ってたよぉ~~!」

「…………」

 百合葉がそう言って幸成の方へトテトテと近づいてくるが、幸成は無視して学校の中へ入って行く。

「……? 幸成ぃーー!!!」

「あっ、ごめんごめん、小さすぎてわからなかった~~」

「もーー!」

 百合葉は、無視されたことに怒り、プンプンと効果音を出さんばかりに頬を膨らませ、幸成の脚に絡み付いている。

「邪魔ですって……、伯母さんに言いますよ?」

「ケチー!」

 幸成と、百合葉は、従姉弟なのだ。家から近いと言う理由だけで、高校を選んだ幸成は、まさか百合葉がいるとは知らなかった。頭の良い百合葉のことだから、きっと進学校にでも行っていると思っていたのだ。

 二人は、親戚とは言え、百合葉の母と、幸成の母の仲はあまり良くなく、お盆と年末年始くらいしかまともに顔を合わせることがなかった。だからか、あまりお互いがお互いの近況を知らず、今に至る。

 百合葉は、幼い頃から幸成と仲良くするのが好きだった。祖父母の家に帰るときは、幸成に会えるのではないかと、ドキドキと胸を弾ませて見せた。家も近いはずなのに、母は、幸成の家に遊びに行くのは中々許してくれないので、幸成に会うことは、百合葉にとって特別な時間になっていた。


キーンコーン


「あっ」

「え?!」

 いつまでもダル絡みしてくる百合葉の相手をしていると、予鈴が鳴った。幸成はしめたと言わんばかりに、力を込めて百合葉を引き剥がした。

「ほら、せ、ん、ぱ、い! HR遅れますよ~、早く行かないと小さすぎて担任が認識できないんじゃないですか~~~」

「うるさいよぉーー!!!」

 そう言って、二人はお互いの教室に向かって走り出した。

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