私は安倍晴明である

 

「可愛いですね~。

 カラフルでコロコロしてて」

と壱花は白い皿に並べられたラムネを眺める。


「で、これ、いつ食べられるんですか?」


「そうだな~。

 まず、天日に干して……」


 天日!? と壱花と子狸たちはガラス扉の向こうを見る。


 もちろん、真っ暗な夜だった。


「……明日には食べられるな」

 倫太郎もガラスの向こうを見ながら、そう言った。


 明日……明日か~とワクワクしていた壱花たちはガックリする。


「まあいいじゃないか。

 飲む方のラムネを作ろう」

と倫太郎が言ったので、壱花や子狸たちだけではなく、いつの間にか来ていた海坊主たちの目も輝く。


 ……なんか食べ物とか飲み物とか作ると、店内のあやかしが増えてく気がするんだが、と思う壱花に倫太郎が言った。


「食べる方のラムネは、出張から帰ってからのお楽しみだな」


「出張?」

と子狐たちに肩にぶら下がられながら、高尾が訊いてくる。


「そう。

 泊まりになるから、仕方ないんで、また壱花を連れて行く」


「私は安倍晴明である」


 見ると、子狸や子河童たちが安倍晴明人形にまとわりついていた。


 壱花を振り向き、倫太郎が言ってきた。


「壱花。

 何故、あんな人がいつも出張に帯同してるの? とか言われないよう頑張れ」


「まあ、社長の愛人だと思われるだけですよね」

 ラムネ水を作る準備をしながら、冨樫が言う。


「また変なのに捕まらない限り、夜には店に飛んで来るんだろうから。

 お土産期待して待ってるよ~」

と高尾が子狐に頭までよじのぼられながら言ってきた。


 いや、まだ出張終わってない段階でお土産持ってこいとか……と苦笑いしながらも、壱花は、

「じゃあ、昼間のうちに買っときますよ、お土産」

と高尾に言った。




 出張中、おまけで付いて来ている壱花はたいしてすることもないので、ぼんやり土産のことを考えていた。


 というか、この時間は広いホールで、誰かが講演しているのを聞くだけなので、倫太郎も冨樫も真面目な顔をして座っているが、実は聞いていないのかもしれないなどと思ってしまう。


 やっぱり、さっきの草餅にしようかな~。

 近くにあった観光案内所で訊いたら、地元の銘菓らしいし。


 草餅、駄菓子屋に飛ぶとき、忘れないようにしないと。


 ホテルに一旦入って、ご飯食べて、お風呂入ったら、草餅を抱いて寝る、と。


 この出張で一番大事なのはそこであるかのように、わざわざ、タスクリストにメモし、壱花たちはホテルに戻ったが。




 そこにネットで頼んだときに見た真っ白なビジネスホテルはなかった。





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