第50話 あなた次第です!

メリンダさんはガツガツ肉を頬張るキティを、愛おしそうに見つめながら呟いた。


「私も早くこんな可愛い子供が欲しいわ……」


その話を聞いた付き人達が悲しそうな顔を見せる。


まだ、若いから大丈夫そうなのに?


「結婚してどれぐらいになるんですか?」


「……もうすぐ5年よ」


おうふ、それは気軽に聞いたのはまずかったよなぁ。


申し訳ないと思ったが、あることを思い出した。


アタル『ねえ、生命の女神像に祈れば彼女も子宝に恵まれそうかなぁ』

みこと♪『大丈夫ですよ。彼女は精神的なストレスで上手くいかないだけだから、私の女神像に真剣に祈りを捧げれば必ず子宝に恵まれるはずよ。できれば旦那様も一緒だと完璧ね!』


うん、神様のお墨付きを頂いた!


「本当に子供が欲しいなら、子供を授かる方法があるけど?」


「いい加減にしなさい! 無礼にも、」


「黙って!」


お付きの人に叱られたが、メリンダさんが止めてくれた。


「本当にそんなことが可能なら、どんなことをしてもお願いしたいわ!」


彼女は真剣な表情で私に話してくれた。


「実はこの町に生命の女神像があります。この女神は命に関わる願いを叶える女神様です。特に子宝には効果的ですよ。あなたが真剣に祈りを捧げれば必ず効果があるはずです。できれば旦那さんも一緒に祈ればさらに効果が高いですよ!」


「何が目的だ! そんな女神など聞いたこともない!」


え~と、護衛の兵士が今にも襲い掛かって来そう!


「目的など何もありませんよぉ。信じる信じないはあなた次第です!」


うん、言ってみたかった!


「このぉ、」


「下がりなさい!」


おうふ、兵士さん剣に手をかけたよぉ!


メリンダさんが止めてくれなければ、大変な事態になっていた。


「あなたがあの人の言っていた人物のようね。……できれば案内してくれないかしら?」


「「「妃殿下!」」」


あれっ、妃殿下? 敬称を付けないとまずいのかなぁ!?


「この方に無礼を働く者は、陛下や殿下の意に背く者です!」


「「「……」」」


え~と、何か大げさな感じになってる?


「どうかしら、案内してもらえますか?」


「え~と、いいともぉ!」


思わず右手の拳を突き上げて言ってしまった。


ミュウ「おかわり!」

キティ「おかわりにゃのぉ!」


「じゃあ、食事が終わったら一緒に行きましょう!」


私はそう話すと、肉の焼け具合を確認しに行くのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



食事を終えるとお茶を飲みながらメリンダさんと話をする。


「アタルさんはもっと年老いた人だと思っていましたわ」


ど、どんな風に話が伝わっているんだ?


子供たちは食事が終わると、ラナと近くで遊んでいる。ラナがメリンダさんから引き離そうとしている感じだ。


「まあ、でも若くはありませんよ」


答えながらお付きの人達が交代で健康ドリンクを飲んでいる姿が目に入る。

みんな疲れているのだろうと、健康ドリンクのサーバーを出して、好きに飲むように勧めたのである。最初は遠慮していたが、メリンダさんが飲むように言ってくれたら交代で飲み始めた。今も飲んで驚いた表情をしている女性たちが目に入る。


「ふふふっ、本当に予想外でしたけど、楽しそうな人で良かったわ」


どんな予想をしていたの気になるが、悪い印象ではなさそうなので安心する。それより、なんで王族が私の事を知っているのか気になる。


どうもこの町に来てから次々と偉い人と会っているせいか、今さら王族と言われてもなんかピンとこない。それにレベッカ夫人も元々は公爵家の出だと聞いている。この世界は身分制度があるようだが、それほど上下関係にはうるさくないのかなぁ?


「それより女神像の事をもう少し教えてくれないかしら?」


「いいですよ」


そう答えると詳しく説明する。生命の女神像や獣人の神像の事、その恩恵や神罰の事を話した。


「し、神罰!? そのような嘘を!」


兵士さんは信じていないようだ。


「う~ん、でも本当に神罰を受けた教会の関係者が居ますよ。グラスニカ侯爵に頼めば会うこともできると思うけど……」


「そんな怪しい像に妃殿下を、」


「お止めください!」


兵士の発言にグラスニカ家侯爵家の執事が、驚くほど強めに制止した。兵士も予想外の人物から発言を止められ驚いている。


「アタル様の話に嘘は御座いません! 侯爵様より、たとえ信じなくとも女神様や女神像を悪く言うことは禁じられています。私は何度もお会いした教会関係者が神罰を受けた姿を見ております。

あなたが信じなくとも、下手の事を言えば妃殿下まで神罰を受けることも考えられるのですよ!」


兵士は執事の話に目を見開いて驚いている。


「し、しかし、」


「いい加減にしなさい! あなたが信じられないのは構いませんが、確認もしないで女神様を否定するようなことは軽率です!」


メリンダさんがこれまでの雰囲気が一変するような雰囲気を纏って、兵士に強く言った。


「し、失礼しました!」


まあ、俺でも直接会っていなかったら信じないと思う。


兵士さんも気の毒だし、執事さんも畏れている感じがするからフォローしよう。


「大丈夫ですよ。信じる信じないはそれぞれの思いです。別に信じなくても悪口を言ったぐらいで神罰などありませんよ。もしそれぐらいで神罰を落とす女神なら、邪神と同じじゃないですかぁ」


アタル『そうだよね?』

みこと♪『も、もちろんですわ!』


おいおい、その動揺の仕方は止めてくれぇ~!


「ア、 アタル様、それは本当でしょうか?」


え~と、執事さん何か悪口でも言ったの?


「ほ、本当ですよぉ」


露骨にホッとする執事さんをみて気になる。悪口云々ではなくただ畏れているだけかなぁ?


「それでも、私が縋りたいと思っている女神様を、同行者のあなたが否定して恩恵を受けられなくなったらどうしてくれるのですか?」


おうふ、メリンダさんは神にも縋りつきたい、いや、本当に縋りつくつもりなんだぁ!


「も、申し訳ありません!」


兵士さんが気の毒になるぅ~!


「ま、まあ、あまり深刻に考えないでね」


うん、それぐらいしか私には言えない……。


兵士さんは跪いて頭を下げた状態で固まっている。


「そ、それでは行きましょうか?」


今の状況を変えようと提案する。しかし兵士の1人が止めてくる。


「お待ちください。移動で馬が疲れていたので、馬車から馬を外してしまいました。馬車の準備をしますので少々お時間が必要です」


実は、親衛隊は未確認の場所に妃殿下が行くことを引き延ばそうとしていたのだ。せめてグラスニカ侯爵や王子から許可をもらう時間を稼ごうとしていた。


「それなら私の馬車で移動しますか?」


親衛隊の考えなど知らないから、普通に申し出た。兵士さん達が困った顔をしている。


「旦那様、お待ちください。テク、……馬車に人を乗せるのは、ハロルド様の許可をもらわないと叱られます!」


クレアに止められて思い出す。まだテク魔車の事はどこまで人に話すのか決まっていなかったのである。また、勝手に人に見せれば叱られるのは間違いない……。


どうしようかと迷ってクレアを見ると首を左右に振ってきた。


だよねぇ~!


「あら、もしかして馬車にもたくさん秘密があるのかしら?」


メリンダさんが楽しそうに尋ねてくる。目をキラキラさせて興味津々の表情だぁ。


バレテ~ラ!


「アタルゥーーーー! 何をしたぁーーー!」


え~と、ハロルド様が走ってくるのが見える。


助かったと思う気持ちと、酷い扱いだと思う気持ちで複雑だ。


ハロルド様は兵士に前を塞がれて怒鳴った。


「邪魔じゃ! 儂はエルマイスター辺境伯じゃ!」


うん、私よりハロルド様の方が危険だと思う。


「お通しして。ハロルド様お久しぶりですね」


メリンダさんが兵士に声を掛けると、兵士がハロルド様を通した。ハロルド様はメリンダさんに近づくと言った。


「妃殿下、ご無事ですか!?」


おいおい、それはないんじゃないかい!?

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