第49話 メリンダ妃殿下

テク魔車の寝室で引き篭もろうとしていたが、ミュウとキティがそれを許してはくれなかった。


仕方ないのでピクニックではないが、庭の一画でテーブルを出して昼食を食べることにした。天気も良く気持ちの良い日差しだった。


ラナとクレアがミュウとキティと遊んでいるのを見ながら、護衛の兵士たちとバーベキューをする。魔物の肉を遠慮なく使い、市場で買った玉ねぎやピーマンなどを交互に刺した串を、専用のバーベキューコンロを収納から出して焼き始める。


グラスニカ侯爵家の庭でこんなことをして良いか分からないが、閉じ込められたという思いもあり、遠慮なく火を使って焼き始める。


すぐに子供たちが匂いに釣られて近づいてくる。


「まだ、もう少し待とうなぁ~」


ミュウ「まつぅ~!」

キティ「まつのぉ~!」


2人は手を上げて答えてくれる。それがまた可愛いなぁ。


「旦那様、まずいかもしれません。お客様が屋敷に来られたようです」


クレアが心配そうに話しかけてきた。

仕方ないので玄関の方を見ると立派な馬車や、多くの荷物を積んだ馬車、そして立派な兵士たちがたくさん一緒にいる。


そして、玄関から執事さんが出てきて挨拶をして話しているようだが、慌てて使用人たちに何か指示をしている。


「あれは王家の紋章です。しかし、なぜ王族の馬車がこのような場所に?」


クレアさんも戸惑っているようだ。私も王族と聞いてさすがにバーベキューはまずいかと考える。しかし、目の前にバーベキューを期待して見つめる二人を見て迷ってしまう。


戸惑っていると、兵士が5人ほど我々の方に向かってくる。


は、話せば大丈夫かなぁ?


この世界に来て貴族にも何人も会ってきた。誰もが気さくでいい人ばかりだった。王族も同じような感じかもしれないと都合よく考え始める。自分があまりにも特殊な立場になっていることなど考えていなかったのだ。


「お前達は何者だ! なんで獣人の子供がこんな所にいる?」


厳しい言い方だが、横暴そうでもないと思った。


「え~と、私はエルマイスター辺境伯ハロルド様の相談役です。うしろに居るのは妻や面倒を見ている子供、それに護衛の者達です」


「私はエルマイスター家騎士団第7番部隊隊長のクレアで、主の相談役であるアタル様の妻でもあります」


クレアさんも自己紹介する。


相手は少し戸惑った表情をしたが、さらに尋ねてきた。


「なぜ、エルマイスター家の者が、このような場所でそんなことをしているのだ?」


確かに俺もそう思う。


「て、天気が良かったから?」


「ふざけているのか?」


「ち、違います! 本当に天気が良いから、あっ、ちょっと待って!」


話しながら、バーベキューが焦げそうだから急いで収納する。ミュウとキティが悲しそうな表情になる。


ゴメンねぇ~。


しかし、兵士の人達は、私が串を収納したことに驚いている。


「どうしたのですか?」


そこに更に兵士やお付きの人を連れた、まさしくお姫様と言う感じの女性が尋ねてきた。お付きの女性たちはオロオロとしており、さらにグラスニカの執事さんも動揺している。


女性はまだ二十歳前くらいに見える。どこか幼さを残しながら、凛とした雰囲気を纏い、それでいて威圧的な雰囲気はない。優しそうな笑顔を浮かべているが、周りが気を遣っている雰囲気がある。


「はっ、彼らがこのような場所で肉を焼いていたので色々尋ねておりました。彼らはエルマイスター辺境伯家の者のようです」


「あら、ハロルド様の所の人なのね。でも良い匂いはするけど、お肉はないみたいね」


「そ、それは彼が収納したようです……」


「ふふふっ、さすがはハロルド様の所の人ね。隠さないで私にも見せてくれないかしら?」


おおっ、気さくな感じの人だぁ。


「構いませんよ。あと少しで焼けるので一緒に食べますか?」


何となく周りの人が驚いた感じがした。


「良いのかしら、この子達が悲しそうな顔をしているわよ?」


うん、大丈夫そうな女性だ。


「大丈夫ですよ。たくさん用意してありますから。もうすぐ焼けますからテーブルに座ってお待ちください。ラナ、悪いけど彼女疲れているみたいだから健康ドリンクを出してあげて」


あれっ、ラナとクレアの顔色が悪い?


ミュウとキティが悲しそうな顔をしているから声を掛ける。


「2人ともすぐに焼けるぞ。次々焼いて行くからお姉さんと仲良く一緒に食べるんだぞぉ」


ミュウ「わかったぁ~!」

キティ「おなかすいたのぉ~!」


すぐに収納から出すとまた焼き始める。後ろで何か話し合いがされているが気にしない。最後には気さくな女性が他の人を下がらせていた。


姫「まあ!」

お付き「どうなさいました!」

姫「疲れが無くなったわ!」

お付き「……」


ふふふっ、健康ドリンクを飲んで疲れが吹き飛んだなぁ。


テーブルの方から背中越しで声が聞こえてくる。旅で疲れたのか少し顔色が悪かったから、ラナに健康ドリンクを出すように頼んだのである。


肉も良い感じで焼けてきた。6串ほど焼けたので収納して、さらに焼くようにいつもの護衛に頼んだ。


ミュウ「はやくおにくぅ!」

キティ「おにくなのぉ~!」


「こらこら、お客様が居るから、今日はお上品に食べなさい!」


そう言うと皿代わりの木の板を収納から出し、その上に肉串から肉や野菜を抜き取って乗せる。そして塩やハーブ塩を添えて女性に差し出す。ナイフとフォークを収納から出すと、護衛の兵士が顔色を変えたが、丁寧に女性の横に並べて置く。ついでにスープやパンを出して差し出す。


ミュウとキティが涎を垂らしそうになるのを見て声を掛ける。


「お客さんが先だよ。すぐに2人の分も出すから待ってね」


2人は女性の前の肉に視線は釘付けだが、頷いていた。


すぐにミュウとキティの分を取り分ける。


「ラナ、2人の分を食べやすく切り分けて上げて」


ラナに頼んだが、何故かラナは涙目で頷いてくれた。


「あら、じゃあ私がこの子の分を切り分けて上げるわ」


女性はキティの分をなれた手つきでナイフとフォークを使って切り分けてくれる。


その間に自分やラナ、クレアの分を盛り付けてテーブルに並べる。


「よし、食べようか!」


そう声を掛けるとミュウとキティはフォークで肉を刺して食べ始める。女性も2人が食べるのを微笑ましそうに見ながら食べ始める。


ミュウ「すごくおいしい!」

キティ「おいしいのぉ~!」

姫「まあ、これはすごく美味しいわ!」


ふふふっ、ダンジョン産の上位オークの肉だ。絶対に美味しいはずだ!


「パンも焼きたてでふかふかで、スープも信じられないくらい美味しいわ! それにこのお肉、これまで食べた中でも最高よ!」


おおっ、予想以上に好評だ。


「ねえ、あなたち、いつもこんなに美味しいのを食べているの?」


女性はキティの口を拭きながら尋ねる。


キティ「いつもおいしいのぉ~!」

ミュウ「アタルはすごいのぉ~!」


いやいや、いつもより美味しいから~。


「パンやスープはいつもと一緒だけど、お肉はダンジョン産の上位オーク肉だからいつもより美味しいはずだよ。それに今日は天気が良くて空気も美味しいから、余計に美味しく感じるんじゃないかなぁ」


「ふふふっ、さすがはダンジョンのあるエルマイスター家ねぇ。まだ自己紹介をしていなかったわね。私は第2王子の正室でメリンダよ」


やはり偉い人の奥さんだけど気さくな人のようだ!


「私はハロルド様の相談役をしているアタルです。メリンダさんよろしく!」


普通に挨拶したけど、何故か相手の護衛と付き人は驚いた顔になる。ラナは今にも泣きそうな顔だ。何故?


メリンダさんが笑顔だから問題無いだろう。

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