第39話 大きく息を吸ってぇ!

ハロルド様は、前より増えた偉そうな人と一緒に目の前にいる。


「そういうことで、私は何もしていないし、何もできなかったのです!」


私は無実であることを必死に説明した。私の説明内容にクレア達も頷いているし、客観的に何が起きたのか改めて聞いて、アーニャ夫妻も戸惑っている。


カーク「覚醒スキル……」

エドワルド「神罰が本当に……」

ゼノキア「教会がそんなことを……」

カービン「信じられません……」

ハロルド「神像なんかをアタルが造ったから……」


「ですが、あの丘を吹き飛ばした魔道具を使おうとしたじゃありませんか。私は命がけでそれを止めて……」


ちょいちょい、職員さん。変な事を言わないでよ!


ハロルド「なに!」

クレア・ラナ「「本当ですか!」」

ゼノキア「丘を吹き飛ばす魔道具……」

エドワルド「我が領はどうなるのだ……」


「ち、違います! 前に冒険者の足を吹き飛ばした魔法と同じ規模で、妻たちを守ろうとしただけです!」


あっ、魔導銃でなく、魔弾を単発で撃てば良かったのか!?


私と一緒にいたギルド職員さんは、涙目で頑張りましたと胸を張っているのがムカつく。


「申し訳ありません! 私達が駆けつけた時にはすべてが終わっておりました。ですが、その後の聞き込みの内容と違いはありません。捕縛した教会関係者も混乱しているようですが、同じような証言をしています。それに今回のことは教会関係者が、獣人の像を破壊して生命の女神像を奪おうとしたことは間違いないようです!」


グラスニカの兵士さんが更に教会関係者から聞き出した内容を報告してくれた。


おいおい、教会はこの神像区画を武力で制圧しようとしたのか!?


あの鎧の男達が聖騎士であり、王都から来た司教の命令で襲撃したらしい。


「すぐにクレイマン司教を連行してくるのだ! それから獣人の顔役と相談して兵士にこの地を守らせろ! こんど何かあったらこの町に何が起きるか……」


「「「はい!」」」


おうふ、エドワルド様はてんぱってるぅ!


兵士さんも深刻な顔つきで返事すると走りだしていった。


カービン「クレイマン司教は大司教の懐刀だったはず……」

カーク「教会と揉めそうですね……」

ゼノキア「今回は大丈夫じゃろう。我々という証人もいるからな」

エドワルド「なんでこんなことに……」

ハロルド「儂がアタルを連れてきたからじゃな……、すまん!」


ちょいちょい、ハロルド様、人聞きの悪いこと言わないでよぉ。


私は悪くないよ。悪いのはあの神達じゃないかな?


「まあ、今回の首謀者なら、神罰を受けることになるかもね……」


思わず声に出して呟いてしまった。それを聞いて偉い人たちはアーニャ夫妻を見つめ、見つめられた夫妻も困っている。


「アタル、これ以上何も起きないように何とかしてくれ!」


何とかできるかぁーーー!


「これからは必ず獣人の事も守っていく。だから私の事を許してくれぇ~!」


エドワルド様がアーニャ夫妻の手を取って、懇願しだした。


「何を言っているのですか。私も旦那も領主様の孤児院で育ったんですよ。領主様には感謝しています。そして、この町は私達の町でもあるんです。一緒に協力させて下さい!」


「あ、ありがとう!」


エドワルドさんとアーニャ夫妻が抱き合って涙を流している。他の人達は感動しているのか、目に涙を浮かべている人までいる。


確かに和解したというか、良い感じだとは思う。


でも、私だけ厄介者にされている気がするぅ。


なんだかなぁ~。



   ◇   ◇   ◇   ◇



集会所として造った建物に教会の人達が連行されてきた。さすがに現時点で捕縛する訳にはいかないのか、兵士たちに囲まれて5人ほどが連れられてきた。


「この地はすばらしいですねぇ」


明らかに身分の高そうな服を着た人物が、連行されてきたのに落ち着いた雰囲気で感想をもらした。


その様子にエドワルド様はお怒りの表情を見せていた。


「ほう、聖騎士に襲撃させておいて、それを悪いと思っていないようじゃな?」


ハロルド様は、言葉は普通だがこめかみピクピクさせながら威圧するように尋ねた。


「何か誤解があるようですなぁ。それより、まずは兵士が突然教会に来て、無理やり私達をここに連れてきた状況を説明していただけませんか?」


相手はハロルド様の威圧を受け流すと、エドワルドさんに向かって尋ねた。


「まあ待て、今回は私が間に入ろう」


ゼノキア侯爵が割って入る。


「教会と領主の間の揉め事ですから、外部の人間が間に入った方がよろしいでしょうね」


カークさんがそう話すとエドワルドさんも頷いている。しかし、教会の人は不満そうにしている。


「久しぶりじゃのぉ、クレイマン司教。儂が間に入って話をしたい」


ゼノキア侯爵は教会の人、クレイマン司教を知っているようだ。そして、ハロルド様達を紹介している。ハロルド様とカークさん以外は面識があるようだ。


「ああ、あなたがエルマイスター辺境伯殿ですか。お噂は聞いています。私は大司教からエルマイスター領の教会で起きたことを調査するように命じられた審問官です。辺境伯殿には、調査について色々とご相談したと思っていました」


クレイマン司教は、まるで今回の事件は自分には関係ないような口ぶりで話した。


「審問官? 別に儂は関係ないのぉ。すでにエルマイスターにいる司教と話はついている。後は勝手に教会内部で話をすればよいじゃろう」


ハロルド様は勝手にしろと言う感じで話した。クレイマン司教は、それを聞いて不満そうな表情を見せている。


「クレイマン司教、今は関係ない話を止めてくれ!」


ゼノキア侯爵がムッとして話した。


「これは申し訳ありません。私の役目に関わることでしたので、挨拶をさせて頂いただけです」


すまなそうな雰囲気を見せるわけでもなく、余裕の表情でクレイマン司教は答えた。


ゼノキア侯爵は不満そうだが、何があったのか丁寧に説明した。そしてクレイマン司教に尋ねる。


「すでにデジテル司教や聖騎士のイスタが、お主の指示で襲撃したと自供しておる。何か言いたいことがあるか?」


「確かに女神像を教会にお迎えするように指示したのは間違いありません。女神像ならば教会で管理すべきだと判断したからです。しかし、盗賊のように奪ってこいとか、襲撃しろとは言ってません!」


クレイマン司教は強気で自分の考えを主張した。


「ふむ、デジテル司教は女神像を持ってくるように指示されたと証言しておる。そして、獣人の像を破壊しろと指示されたとも証言しておる。必要なら聖騎士による実力行使もするように言われたともな」


ゼノキア侯爵は冷静に事実を話した。


「教会が女神像をお迎えしようとして何が問題なのです! 実力行使と言うのはお迎えしようとして、逆に襲われたら聖騎士に司教を守るように指示しただけです。

それに獣人の像など神託を愚弄する、邪神の像ではありませんか。それを破壊して何が問題なのですか!」


開き直ってるぅー!


シンジ(獣人の神)『ほう、儂が邪神だと!』


えっ、参戦! 何でドッズさんにまた魔力が!?


待て待て待ってぇーーー!


ドッズさんの白髪が少しキラキラしてるぅ~!


私は急いでドッズさんに近づくと両肩に手をかけて、落ち着かせようとする。


「ドッズさん、落ち着いてください! 大きく息を吸ってぇ~、そう、そんな感じでもう一度。はい、良い感じですよぉ~」


ドッズさんは私の指示で深呼吸すると、キラキラが収まっていく。


アタル『これ以上、問題を大きくするなぁ!』

シンジ『す、すまん!』


しかし、すでに手遅れのような気がするぅ。


全員がドッズさんのキラキラを見ていた。


クレイマン司教は先程までの余裕がなくなり、青ざめた顔で震えている。

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