第38話 神との同調《シンクロ》!?

教会には光の女神像が必ず設置されている。

勇者と共に活躍した聖女は、光の女神の加護を受けていたこともあり、いつの間にか光の女神が最高神として崇められるようになったのである。


教会本部には誰が造ったのか分からないが、光の女神像がある。各地の教会はそれを真似て女神像を造って崇めるのが決まりごとになっていた。


クレイマン司教は教会で女神像を保管する場所を造らせていた。生命の女神像は光の女神像の下位に設置する必要がある。


この教会は一時保管して将来的には王都に移設するつもりだ。しかし、それまではそれなりの扱いで保管と設置をしなければならない。領主側と揉めた場合を考えて、奪われないようにすることも必要だからだ。


大工や石工が慌ただしく作業をしているのを見ていると、王都から一緒に来た助祭が慌てたように入ってきた。


彼にはデジテル司教や聖騎士の様子を遠くから確認するように指示していたのである。聖騎士まで派遣して失敗するとは思っていない。しかし、領主や領の兵士と揉めた場合には早めに準備する必要があると、念のために確認に行かせたのである。


クレイマン司教は戻ってきた助祭が何か言おうとする前に声を掛ける。


「ご苦労様。何やら報告がありそうだが、報告は奥で聞こうか?」


助祭は焦った様子だったが、クレイマン司教が作業する大工や石工に目を向けながら合図すると、助祭もこの場で話すのはまずいと気付いた。


「わ、わかりました。ですがすぐに報告を……」


クレイマン司教は助祭が自分の意図を理解しながらも、慌てるのを見て不測の事態が起きたと感じていた。しかし、慌てることなく笑顔で答える。


「では、早速奥で話を聞きましょう」


「は、はい」


クレイマン司教と助祭は奥の応接室に移動する。部屋に入るとすぐに助祭は話し始めた。


「神獣様が降臨されて、神罰が、聖騎士が殺され、」


「待ちなさい! 落ち着いて話してください。何を言っているのか分かりません!」


(神獣? 神罰!? 聖騎士が殺された!!!)


助祭の話は断片的で何があったのか分からなかった。しかし、不穏な言葉がたくさん含まれていて、クレイマン司教も混乱する。


「ですが、もしかして我々にも神罰が! ああっ、私の顔、私の顔は変わりませんか!?」


「落ち着きなさい! 何を言っているかまったく意味が分かりません!」


滅多に怒ることのないクレイマン司教に叱られ、助祭は混乱しながらも大きく息を吸い、そして尋ねた。


「これだけは教えてください! 私は老人になっていませんか!?」


助祭の真剣な表情に驚きながらも、落ち着かせるために答える。


「大丈夫ですよ。昼に教会を出た時と変わりません。もう一度大きく呼吸をして落ち着きなさい」


内心では早く状況を知りたいのだが、これでは話にもならないと思い、できるだけ優しく答えた。


「そ、そうですか……、ウグッ」


クレイマン司教の答えを聞くと助祭は泣き始めてしまった。


内心では怒鳴りつけたいと思っていたが、それでは余計に助祭が混乱すると思って、丁寧に優しく話しかける。


「大変なことが起きたのですね。ですが詳しく報告してくれないと、余計に問題が大きくなります。何があったのか話してくれませんか?」


助祭は泣きながらも、問題が大きくなると言われて説明を始めるのだった。


クレイマン司教は信じられない話に混乱しながらも、自分なりに解釈して何度も助祭を落ち着かせて話を最後まで聞きだした。


(どこまでが現実で、どこまでが妄想なんだ?)


助祭の話はハッキリ言って妄想としか思えなかった。

神獣が現れたというのは白く強い獣人が現れたと解釈すれば問題ない。その獣人に聖騎士が倒されたのだろう。自分でもあの聖騎士たちが簡単にやられるとは信じられないが、それを目の当たりにして助祭が混乱していると考えれば説明がつく。


神罰で生き残った者が老人になったというのも、捕縛されて落ち込んだ姿と考えれば説明がつく。


そして一番重要なことは、計画が完全に失敗して、教会関係者が捕縛されていることだ。


(問題は今回のことが、私の指示だと捕縛された者が話した場合だ!)


助祭の話では、聖騎士たちは女神像の確保ではなく、その女神像がある土地ごと確保しようとした感じである。


(まあ、勝手な行動をしてくれたので、幾らでも逃げ道はある)


歓迎できる話ではなかったが、自分が窮地に立たされることはないとクレイマン司教は安心するのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



騒ぎが大きくなったのでアーニャさん夫妻の新居に移動した。すでにここに住み始めたみたいだけど、現状では2階しか使っていないようで、1階は顔役なんかとの打ち合わせの場に使っているようだ。


私はソファに座って落ち込んでいた。

今回の事件で自分が役立たずで、妻を守るような行動ができていなかったことを反省していた。


「旦那様、それは気にし過ぎです。旦那様は戦う必要はありません。それは私の役目です」


クレアから慰められて余計に情けなくなる。


「確かに私は戦うことはできない! でも妻が危険な目にあっているのに何もできないのは……」


「魔道具で私を守ってくれているではありませんか。私は十分に旦那様に守られて、愛情を感じていますよ」


くっ、ラナにまで慰められている。


「だったらもっとすごい魔道具を、」


「「やめてください!」」


2人から強く拒絶されてしまった。


ミュウ「だったら私に作ってぇ~」

キティ「つくってぇ~」


「「ダメです!」」


子供たちもラナたちに叱られた。


「あのぉ~、それよりも私達も話があるのですが……?」


申し訳なさそうにアーニャさんが話しに割り込んできた。


「あっ、すみません。なんでしょうか?」


人の家で落ち込んでいるのも良くないだろう。


「わ、私達夫婦に何が起きたんでしょうか?」


アーニャさんは不安そうに尋ねてきた。


「俺は何で髪が白くなったのか理解できないし、自分が何をしたか覚えているけど……、まるで自分ではない何かに操られたというか……。あんな恐ろしいことをしたのが信じられないのです!」


ドッズさんも混乱して、自分自身を恐れているようだ。確かにあの姿は驚いたし、まるで紙のように鎧の男たちを切り裂いていた。


う~ん、そうなるよねぇ。


シンジ(獣人の神)『す、すまん!』

アタル『説明してくれるかなぁ?』

シンジ『彼の姿が変わったのは儂の加護の覚醒スキルのせいなのだが……』

アタル『ああ、それが加護の効果なのね。しかし、覚醒スキルは姿だけじゃなく、性格も変わっちゃうんだぁ』

シンジ『いや、そんなことはない……』

アタル『どういうこと?』

シンジ『生命の、みこと♪と話したのだが……。加護を受けた神像が近くにあり、加護を受けた人が近くに居て、人とわれとが同じような思いになると……、儂が憑依したような感じになっちゃった! テヘッ』

アタル『なんですとぉーーー!』

シンジ『ゴメン! 何とか誤魔化して!』

アタル『誤魔化せるかぁーーー!』


うん、神は信じちゃダメだね! 何がテヘッだぁ!


「神像が近くにあり、神の怒りとドッズさんの怒りが同調シンクロして、獣人の神の加護である覚醒スキルが目覚めたようですね。アーニャさんも同じようなことが起きたのでしょう。2人が神と同じような気持ちになったから起きた奇跡でしょうねぇ


他の説明方法なんか、思い浮かぶかぁーーー!


「あ、ありがとうございます!」


アーニャさんが話を聞くと泣き出してしまった。ドッズさんは誇らしげな表情になっている。


まあ、神と同じ気持ちになったと言われれば、確かに誇らしい気持ちになるだろうね。


「アタルーーー! またやってくれたのじゃなぁ!」


ハロルド様達が集団で現れたぁ!


俺は悪くない! 悪いのは同調シンクロした神たちと、教会の連中だぁーーー!

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