第8話 新型魔導銃

テク魔車の屋根の上で、魔導銃により引き起こされた状況を確認する。


丘のずいぶん手前を狙ったはずが、反動で丘の中腹の左側に当たってしまったようだ。丘からは土煙が上がり、中腹の一部が抉れたようになっている。


や、やっちまったなぁ!


どう見ても銃弾の威力ではない。

地球の映像などで見た武器の破壊力を思い返しても、戦車とかの大砲より威力があると思う。それほど大きな丘ではないが、そこを抉るような威力になると比較できる知識がない。


今回の魔導銃は持ち手の部分に、魔砂が自動で補給されるようにしてあり、見た目は地球の軍隊が持っているような突撃銃の形をしている。

魔力エネルギーが無限に供給できることで、威力のある魔弾を連射できるようになった。そして実弾や魔弾の切り替え、魔弾の種類や連射の切り替えをスイッチで簡単にできるようにした。


そして今回の実弾は、実弾の中に魔法溶液10を半分ほど充填してある。そして魔石ICチップで着弾時の動作を制御させたのである。今回の実弾は属性魔法ではなく魔力をそのまま爆発させたものである。


予想と違ったのは最初にダンジョンで使った実弾は魔法溶液1を満タンに充填した属性魔法であった。今回は半分だが魔法溶液10を充填していたので、ダンジョンで使った実弾の数倍の威力を想定していたのである。


しかし、破壊力は数倍ではなかったようだ。魔法溶液1から10に替えることで単純に威力が10倍になるのではなく、相乗的に威力が上がった気がする。

これで属性魔法の実弾ならさらに威力が増していただろう。そして最大威力の実弾は魔法溶液10が倍にしてある。火魔法と水魔法を同時に発動することにより水蒸気爆発を起こすものだった。


検証が終わるまで、実弾は封印だな……。


離れた所であれば影響が少ないと考えていたのだが、想定外の威力に今後はもっと検証してからにしようと反省するのであった。


反動も予想以上にあり肩が痛い。取り敢えず口の中に直接ポーションをストレージから出して飲み込む。すぐに痛みは消えたが、テク魔車の屋根で隠れるように伏せる。


「アタルーーー! 儂はやり過ぎるなと言っただろうがぁ!」


うん、魔法溶液10のハロルド弾が私に直撃しそうだ。


ハロルド様が向こうのテク魔車を出て、こちらに向かってきているのは気付いていた。必死にテク魔車の屋根に隠れようとするが無駄のようだ。


諦めて起き上がると返事をする。


「いやぁ、思ったより威力があって、私も驚きましたよぉ~」


「驚いたのは儂じゃーーー! あれでは肉片も残ってないじゃろ!」


「いやだなぁ、脅しだから当てていませんよぉ。相手が逃げて行くのも確認したから大丈夫ですよぉ」


「大丈夫なものかぁ! お前は森を破壊するつもりかぁ!?」


た、確かに自然を破壊した気もする……。


「ご、ごめんなさい。これからは威力を抑えます。これなんてどうですか?」


そう話すと連射モードで魔弾を木々に向かって薙ぎ払うように発射する。


ブブブブブブブブブブッ!


鈍い音が響いて木々が全て倒壊する。


れ、連射速度が速すぎたぁ!


「アタルーーーーーー!」


それから襲撃者の捕縛と塞がれた道を修復する間、ハロルド様から小言を言われ続けた。

それを捕縛された連中は怯える目で見ていた。そして、騎士の人達が丁寧な物言いになり、サバルさんがまた、以前のことを謝罪しにきたのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



キルティは必死に森の中を逃げていたが、追ってくる者がいないと気が付き、走るのは止める。


ホッと息をつきながら、高価な魔力回復ポーションを一気に飲み干す。そしてもう一度追ってくる者がいないことを、息を止めて確認する。


森の中に静寂が流れ、大丈夫だと確信したその瞬間、聞いたことのない大きな音が地面を揺らしながら伝わってきた。


それが何なのか分からなかった。だが音が聞こえたのは間違いなく逃げてきた方向である。


(ヤバイ! ヤバイ! ヤバイィィィィィ!)


キルティは命の危険を感じて、また荷物を持ち上げると、身体強化を使って、再び全力で逃走を始めるのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



タルボットは気が付くと体が吹き飛ばされ、体が半分土に埋まっていた。


最初は何が起きたのか分からなかった。視界が土煙で良く見えず、今も頭上から土や小石がパラパラと降り注いでいる。


そして自分が襲撃を監視していたことを思い出すと、何が起きたのか思い返す。


自分の理解できないような方法で襲撃が失敗したことは良く覚えている。そして呆然とその状況を眺めていると、馬車の上に人が上がったのが見えた。

そいつは魔法の杖のようなものを出すと、寝転がったのである。寝転がった男は杖の先をこちらに向けたので危険だと思った。


そして気が付いたら今の状況である。


(あれは魔法の杖かぁ……。魔法!? 魔法で攻撃された!)


急に意識がハッキリして、自分が魔法で攻撃されたのではないかと気が付いた。そして追撃の可能性があるとしたら、この場所では危険だと気が付く。


体に降り積もった土や砂を除けると、立ち上がって周りの状況を確認する。少し視界が良くなったので、自分の居る場所が分かり、荷物を置いていた場所に向かう。


すると泥だらけで呆然と立ち尽くす裏ギルド職員の男に出くわした。


「逃げるぞ!」


裏ギルド職員は声を掛けられると、ビクリと怯えたような表情を見せた。そして相手がタルボットだと気付くと後ろから黙ってついてくる。


荷物を拾い上げると丘の反対側に回り込むように逃げ出す。


タルボットは丘の反対側を下りると、裏ギルド職員に話しかける。


「ここからは別々に逃げるぞ!」


タルボットは相手が追いかけてきた場合、別々に逃げた方が助かる確率が高いと考えたのだ。それも自分の方が逃げ足は速いと思っていたので、裏ギルド職員を囮になると考えたのである。


「ど、どこへ!? 何が起きたのですか!」


裏ギルド職員はパニックになっていた。


「いいか、この場にいつまでもいれば俺達も捕まる可能性がある。そして今回のことをどちらかが報告しないと絶対にまずい。冒険者ギルドはエルマイスターに手を出したらダメだ!」


裏ギルド職員は怯えた表情で頷いている。特に手を出したらダメだと言われた時は強く頭を縦に振っていた。


「お前はヤドラスに報告の任務があるだろ。だからヤドラスに報告して絶対にエルマイスターと敵対しないように伝えろ!」


「わ、わかりました。……タルボット様は?」


裏ギルド職員は1人で移動するのが嫌そうにするが、任務を思い出したのか仕方なさそうに納得する。そしてタルボットのことを尋ねた。


「俺はなんとしても王都にこのことの報告に戻る! 急げ! 捕まったら冒険者ギルドが終わりだ!」


タルボットは裏ギルド職員の返事を待たずに走りだした。いつまた魔法で攻撃されるか不安だったのである。


裏ギルド職員は走り出したタルボットを呆然と眺める。しかし、すぐにこの場に居るのは危険だと思ったのか、反対方向に走り出すのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



エルマイスター一行が、ようやく出発できるようになった。襲撃者たちは私が作っていた客車タイプのテク魔車を出して乗せる。


客車タイプは色々作ったが今回はカプセルホテル型を使うことにした。


各部屋には2段4列の客室カプセルが向かい合わせであり、1部屋で16人が泊まれるようになっている。その部屋が6部屋もあるテク魔車だ。


2部屋に捕縛した連中を放り込み、テク魔車の設定で彼らの部屋の出入り許可を消した。だから設定を変えないと出てこられないのである。


中にはトイレが2つあるので問題ないだろう。


時間は掛かったが、グラスニカの領都に近づくと道の状態も良くなってきた。

進行速度も上がり、途中の村で襲撃のことを報告した。他にも3人ほど取り逃がしたと報告して、注意するようにお願いする。


結局、3時ごろにはグラスニカ領の領都に到着した。しかし、移動中ずっとハロルド様に説教された私は、精神的に疲れ切ったのである。

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