第7話 襲撃ですか!?

翌朝タルボットは襲撃の準備の最終確認していた。

自分達の馬車は道を塞いだ先に、枝や草を使って見えないようになっていた。矢を射る木や草むらには足場や身を隠せるようにしてある。


「キルティ、準備は万全のようだな?」


「当然だ。報酬を考えると手を抜けないからな!」


タルボットはキルティが報酬だけでなく、国の大貴族を襲撃する意味が理解できたと感じた。


「俺達は離れた所から監視する。無事に襲撃が終わったら合流するからな」


「なんだ、手伝ってくれないのか? それなら回収したお宝は俺達のもんだぜ?」


「何を言っている。最初から襲撃はお前達の仕事だろ。回収した物もギルドが必要な物は回収させてもらうぞ」


「チッ、あのウマーレムは幾つかもらうからな?」


キルティは不満そうに言った。


「ああ、それは構わない。書類や魔道具類はギルドが回収する。ウマーレムも半分はお前達が貰っても構わない」


「へへへ、女も居ると言っていたなぁ、楽しみだぜ!」


これを聞いたタルボットは真剣な表情で言う。


「それはダメだ! エルマイスターの関係者は即座に殺せ! 間違って逃げられたら洒落にならん。間違っても奴隷として売ろうとか考えるなよ!」


キルティは文句を返そうとして、タルボットを見て言うのを止める。タルボットがいつになく真剣だったからだ。それに今回は少しのミスも許されないことを思い出したのだ。


「ああ、手下にも徹底させるよ。その代わり予想以上にお宝があったら報酬を追加してくれよ?」


タルボットはホッとした表情になり答えた。


「それは考えておく。回収した金の半分は譲るつもりだ」


それを聞いてキルティはさらにやる気になった。


タルボットたちが襲撃地点を離れると、キルティは少し冷静なって考える。

確かに今回の襲撃は慎重になる必要があると考え始めていた。しかし、それ以上にタルボットが慎重になっている気がしたのだ。


キルティは嫌な予感がした。しかし、今さら引き返せない。それに作戦は完璧に思えたのだ。


念のため手下の気を引き締めに廻るのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



アタルは村を出発すると、昨晩のことを思い出していた。


昨晩は自分の子供ができたときの予行演習も兼ね、ミュウとキティと一緒に寝るつもりだった。しかし、子供たちが眠そうになるとラナが連れて行こうとした。そして、自分の考えを伝えたのだが。


「いくら子供とはいえ女の子です。絶対にダメです。今日は私がこの子達と寝ますので、旦那様はクレアと寝てください!」


この世界が厳しいのか、ラナが厳格なのか分からないが、私のケモミミは連れ去られてしまったのだ。


そして私の横には旅の途中なのに、やたらと調子が良さそうなクレアが笑顔で座っている。


うん、肌も艶々しているなぁ。


自分達のテク魔車は、揺れや音を寝室から漏れないようにカスタマイズしていた。そのことを2人に話して失敗だったと思うのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



キルティが一通り手下に声を掛け、万全な状態だと思った。そしてエルマイスター一行が来るまで休もうとしたら、見張りの手下が戻ってきた。


「エルマイスター一行が凄い速さで近付いてきます!」


予想以上の到着の速さに驚いたが、すぐにあのウマーレムのことを思い出す。そしてすぐに襲撃準備するように命令を出した。


全員が配置に着くと同時に、エルマイスター一行が道を曲がって襲撃ポイントまで来て馬車を止めた。


「今だ、やれ!」


慌ただしかったがすべてが間に合った。すぐに矢を3連射すると、木の上の手下以外が草むらや木の間を走り抜ける。その間も木の上からは矢が放たれていた。


キルティは作戦通り上手くいったと思い道まで出てきた。そして、どれぐらいの敵が倒れているか確認しようとして目を丸くする。


何と相手はウマーレムの上で盾を構えており、矢が手前に落ちているのが見えたのだ。


襲撃の情報が漏れたのか、相手が自分達に気付いたのかわからないが、最初の作戦が失敗したのは明白だった。


それでも今さら後戻りできない。キルティは自分が担当した先頭のウマーレムに切りかかろうと前に出ようとした。


「ギャァーーー!」


慌てて悲鳴のした方向を見ると、横から襲撃した手下が倒れていた。そして、その次に槍を前に突きだした手下も、相手に槍が刺さる前に悲鳴を出して倒れるのをキルティは見ていた。


何が起きているのか理解できず、キルティは混乱しそうになる。しかし、経験からパニックを起こすと間違いなく死ぬと知っていた。とりあえずは目の前の敵を倒そうと視線を向ける。


しかし、目に飛び込んできたのは、いつの間にか盾が消え去り、弓を引き絞る騎士の姿だった。


キルティは身体強化を使って横っ飛びに矢を避けると、その勢いで隠れていた場所に戻って行く。


(ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!)


キルティは完全に作戦が失敗したと判断して、全力で逃げることにしたのだ。身体強化を使った状態で崖を登り、手下にも内緒で隠していた荷物を拾い上げると、全力で逃走を始めるのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



襲撃を離れた丘から見ていたタルボットたちは、あっと言う間の出来事を呆然と見つめていた。


「矢が手前で落ちたように見えました……」


裏ギルド職員は呆然としながら呟いた。


タルボットもそれに気が付いていたが、それ以外にも驚く事が次々と起きたのである。


なんで矢が手前で落ちる!

なんで盾が突然出てくる!

なんで盾が消えて弓が出てくる!

なんで相手が何もしていないのに、攻撃側が悲鳴をあげて倒れる!


なんで、なんで、なんでなんだぁーーー!


全てがあっと言う間に起きたことだった。すでに襲撃したほとんどの者が捕縛されているのが見えていた。



   ◇   ◇   ◇   ◇



襲撃を受ける前にアタルは早い時点から襲撃について気付いていた。道が何かで塞がれ、道の両脇に人が潜んでいるのに気が付いたからだ。


報告しようか考えたが、そろそろテク魔車の地図にも表示される頃なので、様子を見ることにした。


まあ、結界を使えばやられることはないでしょう。


アタルがそんなことを考えている頃、サバルが襲撃しようとするキルティ達に気が付き、ハロルドに文字念話で伝えていた。


ハロルドはすぐに指揮所になっているテク魔車の後部に移動してきた。


「ほほう、これは間違いなく我々を襲ってくるつもりじゃのぉ」


「はい、それも綿密に計画された作戦のようです。ただの野盗とは思えません。先程斥候と思われる者が、報告に戻ったようです。この辺に指揮者が居るのでしょう」


サバルは地図を見ながらハロルドに説明する。


「結界については事前確認したのだな?」


「はい、実戦形式で試しましたが、どうやっても結界を抜ける方法はありませんでした。あまり結界の強度を上げると、敵が即死する可能性があります」


「ふむ、相手が気絶する程度に結界を設定するのじゃ。この敵の配置なら、矢による攻撃がある可能性が高い。念のために馬車が止まったら盾をすぐに出して防いだように見せるのじゃ。そして矢の攻撃が収まったら、逆に矢で応戦するように指示を出せ。矢はアタルの作った気絶させる矢を使うかのぉ」


ハロルドの指示にサバルも嬉しそうに答える。


「わかりました。捕縛後は尋問ですね。クククッ」


ハロルドとサバルの笑みを見たら、アタルならどちらが悪役か分からないと言っただろう。


「儂はアタルに連絡しておく」


「了解しました。よぉ~し、お楽しみはこれからだぞぉ!」


「「「おおう!」」」


騎士達が嬉しそうに声を上げるのであった。


アタルはハロルドからの連絡に戸惑ったが、作戦のことはよく分からないので任せることにしたのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



あっと言う間に襲撃してきた連中が倒されているのを、私は自分の地図スキルで確認していた。


な、なんか、襲撃者が気の毒だなぁ……。


同情するつもりはないが、あまりにも圧倒的な結果にそう思ってしまった。


あれ、テク魔車の地図スキルでは確認できない距離に2人いる!?


すぐに文字念話でハロルド様に連絡する。

すると、たぶん襲撃側の監視者で、襲撃結果を確認しているのだろうと返答があった。大体の位置と方角を教えたが、捕らえるのは無理だと言われた。


『それなら、試したい魔道具があるので、捕らえることはできませんが、相手を驚かせても良いですか?』


『構わないが、やり過ぎるなよ!』


うん、全然信用がないなぁ。


脅すだけだから、たぶん大丈夫のはずだ。


私はテク魔車の屋根に上がると、ライフル型の魔導銃を取り出す。それらしく屋根に寝そべり魔導銃を構える。


実際にそれなりの距離で実弾型を試すのは初めてのようなものだ。

最終的にダンジョンで試した物からも改良してあるし、ダンジョン海での検証は遠すぎて良く分からなかったのだ。


検証にはちょうど良いし、殺すのではなく脅すだけだから心も痛まない。


本当に相手を殺すことになると嫌なので随分手前を標的にする。実弾は造った中で3番目ぐらいの威力の実弾を選ぶ。


それほど狙いを着ける必要はないと思って気軽に引き金を引く。


反動で魔導銃が跳ね上がり、予定よりも相手側の近くの左に逸れた場所に着弾した。


ドッゴーーーーーン!


うん、予想以上の威力だ。


幸い相手は生きているのか、すぐに動き出して逃げて行った。


『アタルーーーーー!』


ハロルド様の文字念話は、声が聞こえてこないけど、明らかに怒っているのが分かる。


ああ、お説教になりそうだぁ……。

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