第10話 ダンジョン改革②
買取窓口の中から冒険者の様子を窺う。
冒険者たちは戻ってくると建物が建てられていることに驚き、騎士団の女性兵士が受付や案内をすることに驚いていた。
まあ、当然驚くよなぁ。
「ここは何なんだ?」
質問しているのは前回のダンジョン調査で会った熊獣人のダルトだった。よく見ると後ろには孤児院出身の冒険者のキジェンもいる。
「ここはエルマイスター家が管理する公的ギルドの施設になります」
「「「公的ギルド?」」」
他の冒険者たちも初めて聞くギルドに不思議そうにしている。
「この施設では、素材や魔石の買取やポーションの販売、宿泊や食事ができます。買取はそちらの買取価格一覧をご覧ください。
この施設は試験的に運用していますので、冒険者ギルドのギルドカードを提示して頂ければ利用が可能です」
騎士団の女性兵士は丁寧に説明する。冒険者たちは驚いてどう反応して良いのか迷っている感じだ。
しかし、買取価格を見ていた冒険者が驚きの声を上げると、みんなその冒険者を注目する。
「おい、魔石の買取価格が冒険者ギルドより高いぞ!」
「あっ、本当だ!」
「他の素材の買取もしてくれるみたいだ!」
「ちくしょう! これならあの肉回収しておけば良かったぁ!」
全員が驚きの声を出して騒ぎ出す。
「素材の買取は基本価格になります。鑑定して最終的な価格を決定します」
丁寧な説明に冒険者も感心しているようだ。
「な、なあ、怪我人が居るんだ。ポーションはどこで買うんだ?」
「あちらがポーションと健康ドリンクの販売所になります。詳細はあちらの担当者にお聞きください」
質問した冒険者は怪我した冒険者を連れて、販売の魔道具の所に移動する。他の冒険者も興味があるのか後ろから付いて行く。
女性兵士が説明すると、指示に従いポーションを購入して怪我人に飲ませた。ポーションの効果ですぐに怪我が治ると歓声が上がる。
「冒険者ギルドのポーションより効き目が良いぞ!」
「でも、容器に入っていないから持ち運べないなぁ」
兵士「すみません。ポーションは建物内だけの利用になります」
「う~ん、それなら微妙じゃないか?」
「いや、効果から考えると損はないぞ」
「健康ドリンクはなんだ?」
兵士「疲れの取れる飲み物ですね」
「本当に疲れが取れるのか?」
「おい、誰か試してみろよ!」
「よし、俺が試してやる!」
冒険者を代表してキジェンが前に出てくる。
先程と同じように説明に合わせて購入すると、最初は臭いを少し嗅いで、次に一気に飲み干した。
「な、なんだ!? 疲れが一気に無くなったぞ。それどころか、朝出発した時より調子が良い!」
それを聞いて何人も試しだす。
あぁ~、あれだと今晩寝れなくなるぞ。
手持ちの無い冒険者は手に入れたばかりの魔石を買い取ってもらっていた。
さらに
あらぁ~、あれじゃあ、今日の儲けが無くなるんじゃないかぁ?
しかし、概ね好意的に利用してくれているようだ。
私は窓口の奥から出ると大きな声で忠告する。
「みなさん、ここで買取に出すと冒険者ギルドの評価にはなりません。冒険者ランクが上がらなくなる可能性もあります。よく考えて買取に出して下さいね」
私がそう話すと、キジェン達が近寄って来た。
「アタルさんじゃないですか、ここアタルさんが?」
「ここはエルマイスター家が始めた公的ギルドで、私も少しだけお手伝いをしていますよ」
「へぇ~、でも、俺達には冒険者ランクなんか関係ないよなぁ!」
ダルトがそう話すと他の冒険者も頷いている。
「そうだよ、俺達は領内だけの冒険者だから、冒険者ランクより儲けの方が優先だぜ。これなら今まで売れなかった素材も売れるし、前より儲けられそうだぞ!」
「「「おおぅ!」」」
冒険者のエイダスが話すと、他の冒険者たちも気合の入った声で同調する。
地元だとそうなるよなぁ。
探索者ギルドを始めても、彼らはすぐに入会してくれそうだ。
「同じ施設を6層にも造る予定だよ。10層は更に大きな施設を造る予定だ」
「「「おおお」」」
思った以上に好評のようだ。こうして冒険者を見てみると、見た目は厳つい連中が多いが、何となく気の良い連中が多そうだ。
この前の襲撃者は、やはり少数派だと思える。
この日は手応えを感じて、前日にハロルド様から送られたきた、探索者ギルドの運営についても、補足をつけてハロルド様に報告する。
レベッカ夫人の襲撃はさすがにダンジョン内では無いようで、ホッとするのと同時に少し残念に思いながら就寝するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝早く、6層に向かう前に、レベッカ夫人がお立ち台に立って話をする。
冒険者たちも何事かと探索に出発しないで周りで様子を窺っている。
「この施設に残る第7部隊の兵士たちよ。新しく来るものや質問をしに来る者には親切に対応してください。あなたたちはエルマイスター家の顔となるのです!」
常駐する兵士たちも気合の入った顔を見せる。
これまで、あまり認められていないような立場だったのが、エルマイスター家の顔と言われて嬉しいのだろう。
「ですが、問題を起こすような相手に遠慮はいりません! そういう相手は出入り禁止処分にしてください。そうすれば、すべての公的ギルドには入れないように結界が排除してくれます」
これには冒険者たちも驚いていた。
まあ、結界で守られているから大丈夫だと思う。
しかし、女性兵士だけで残るから、レベッカ夫人は冒険者に釘をさすつもりで話したのだろう。
「皆の者、これからエルマイスター領を発展させるために、6層にも公的ギルドの施設を建てに行きます。気合を入れてついて来てください!」
「「「おおぉ!」」」
周りの冒険者も兵士たちと合わせて声を出している。
「あぁ、気合を入れて魔物を討伐しすぎないで下さ~い。冒険者たちの稼ぎが減って怒られますから~!」
私がついでに話すと、冒険者からはドッと笑いが起きた。
うん、冒険者とは仲良くできそうだ。
出発する我々を歓迎する声や、魔物を倒し過ぎないようにからかう声を聞いて安心するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
順調にダンジョンを進み、6層と7層の間の階段に到着したのは午後2時過ぎだった。
冒険者はいなかったので、7層側に公的ギルドの建物を設置する。
ここに常駐する兵士たちが準備を始めるとカルアさんとブリッサさんが声を掛けてきた。
「レベッカ様、この階層以降で戦闘した経験のない兵士も多くいます。時間に余裕がありますので、訓練に出てよろしいでしょうか?」
「良いわよ。でも、慎重にね」
「「「はい」」」
2人は浮ついた感じもなく、真剣な表情で他の兵士に指示を出して出発して行った。
「アタル、明日以降の事について相談しましょう」
えっ、それは無理!
明日は10層に向かうのに、さすがにこれから搾り取られたら影響が出る。
でも、あの続きも気になる……。
さらに進化したレベッカ夫人も堪能してみたい気もする……。
しかし、レベッカ夫人が宿泊する予定の部屋に護衛も一緒に向かった。
あれ、勘違い!?
到着すると護衛は部屋の扉の前に立ち、部屋には私とレベッカ夫人が一緒に入る。
えっ、やっぱり!?
刻々と変わる予想できない展開に混乱してしまう。
部屋の小さなテーブルセットの椅子にレベッカ夫人は座り、私も正面の椅子を勧められたので戸惑いながらも座る。
「お義父様から冒険者ギルドの新しいギルドマスターが到着したと連絡があったわ。少し揉めたみたいね」
私はレベッカ夫人が普通に打ち合わせを始めたことに、複雑な気持ちになる。
レベッカ夫人の事を誤解していたようだ。
サキュバス属性が目覚めて危険な雰囲気に不安に思いながらも、どこか期待していた自分が恥ずかしくなる。
私が落ち込んでいるのを見て、レベッカ夫人は気が付いたようだ。
「もしかして、私が襲うとも思ったのかしら?」
はい、思っていました……。
恥ずかしくて頬が熱くなり俯いてしまう。
バレバレだぁ~!
「もう、明日は10層まで移動するのよ。さすがにしないわよ!」
くっ、頬を膨らませて言う仕草も可愛い!
なんか若返って、肌も艶々していませんか!?
「す、すみません……」
でも、浅はかな誤解だぁ……。
「順番では明日が私の日よ。10層なら問題は無いから楽しみにしてね。ペロリ!」
誤解じゃなかったぁーーーーー!
サキュバス属性が完全に覚醒した気がするぅ~。
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