第7話 着々と②

作業を始める為に執務室を出ると、楽しそうにレベッカ夫人もついて来る。


「今回は1日で大賢者区画より広い場所を造り替えると言っていたけど、本当にそんな事が出来るのかしら?」


う~ん、実際には事前準備もあるから1日で造り替える訳ではない。


「まあ、見てもらえばわかると思います」


それから、内門を出て外壁内の空き地に行くと、土魔術を使って2時間ほどで整地が完了する。


整地した空き地を見てレベッカ夫人は訊いてくる。


「短時間でこれほどの敷地を整地するのは凄いけど、午前中で建物までは無理じゃないかしら?」


説明するのも面倒などで見てもらう事にする。


公的ギルドの施設を建てる場所に移動して、慎重に位置を確認する。


レベッカ夫人は不思議そうに私を見ていた。


しかし、突然、目の前に建物が現れると、驚いて尻もちをついてしまった。


「大丈夫ですか?」


「こ、これは、ど、どういうことなの!?」


「事前に建物を造って収納してあるんですよ。流石に1日で幾つも建物は造れませんからね」


今回は外壁内の施設は、スマートシステムの生産工房で完成させてある。あとは外壁内の整地をして施設をストレージから出すだけで完成する。


自分でも驚くほどの速度で、スキル関係が成長している。


たぶん、神々の祝福が関係している気がする。


呆気にとられるレベッカ夫人を立ち上がらせると、次々に建物をストレージから出していく。それでもそれほど数は多くない、門から続く商店街は、2階建ての長屋方式で繋がっているし、宿は3棟ほど用意したが、こちらも2階建ての横長の建物である。


特に建物は凝った造りでもないし、同じような造りでブロックのように並べるだけだった。


特に内部は何もしていないし、水とトイレの簡単な魔道具を設置しただけである。


公的ギルドの施設はそれなりに出来ているが、それ以外の建物は利用する人にお任せである。


結局1時間ほどで設置が完了した。


レベッカ夫人はその光景を見ながら独り言を呟いていた。


「これなら領都プレイルも一度更地にすれば、綺麗な街並みになるわね」


いやいや、大賢者が協力して造った街を更地にしたら不味いでしょ!



   ◇   ◇   ◇   ◇



隊長のカービンさんに作業の終了を報告して、敷地内の様子を見せると呆気に取られていた。


どっきり作戦、大成功!


「ふぅ~、それで、俺達は何をすれば良いんだ!」


お、怒ってる!?


大成功ではあったがなぜか責められている気がする。


「カービン、気にしてはダメよ!」


おうふ、レベッカ夫人にも呆れられている?


「あ、あぁ、すみません。また、俺に放り投げてダンジョンに行かれたら困ると思いまして……」


うっ、前回の事を責められているのか……。


「こ、これが資料で、今から順番に説明します。この前はすみませんでした!」


とりあえず前回の件も含めて謝罪しておく。


「あ、いや、俺も失礼な事を言いました。予想外の事が毎回あるので、正直混乱しています。説明して頂けると助かります」


カービンさんは申し訳なさそうに謝罪してくれた。


どっきり作戦は止めとけば良かったかぁ……。


「アタル、説明してくれるかしら?」


レベッカ夫人はローテーション入りしてから俺の事を呼び捨てにする。


さすがに不味いと思い注意したけど、遠い親戚なら呼び捨てのほうが自然だと言われてしまった。セバスさんにも相談したけど、気にする必要はないと言われてしまった。


「それなら外壁に登って説明します」


外壁には兵舎の敷地と門の検問所、それと公的ギルドの建物から上がれるようになっている。今回は公的ギルドから外壁に上がる。


「外壁は歩けるようになっていますし、監視所もありますので、兵を配置してください」


外壁の上から見える外壁と角の部分や門の所、そしてダンジョン入り口側の監視所を指差して説明する。


「ああ、緊急通報や氾濫が起きた場合の対処もマニュアル?だったか、あれはすでに隊で検証と確認が済んでいるし、任務としてすでに実施している」


氾濫の監視や対処法のマニュアルは作って渡してある。ハロルド様やアランさんにも確認してもらって修正も済んでいるので大丈夫なはずだ。


各監視所には緊急通報用のボタンが設置されていて、氾濫が起きた場合にはボタンを押すだけで兵舎だけでなく、領都の兵舎や役所、公的ギルド、それに重要な立場の人には通報が届くはずだ。


「それなら問題はありませんね。暫くはこちらの施設は利用しないと思います」


「おいおい、こんな施設を造ったのに使わないのか?」


まあ、そう思うよねぇ~。


「それはエルマイスター家の方針よ。冒険者ギルドがまともに機能していない状況で、冒険者に開放するのは問題があると判断したの。近日中に冒険者ギルドの新しいギルドマスターが到着するから、話し合ってからになるはずよ」


レベッカ夫人が説明してくれたが、理由はそれだけではない。


半信半疑のハロルド様が確認してからにしたいというのもあるみたいだ。


確認したら領都でこの地で商売を始めたい人を集めて店舗や宿の準備も必要だろう。


しかし、ハロルド様の思惑は、冒険者ギルドと本格的に喧嘩をするつもりだと私は感じている。だから、出発前に探索ギルドを始める可能性を話したんだと思う。


このダンジョン町は探索ギルドに加入した冒険者だけを受け入れる方針の気がする。


反対側の壁にある検問所は冒険者の出入りをチェックし始めたが、探索ギルドに加入していない冒険者に、あちらを使わせるつもりだと思う。


それに打ち合わせでは、ダンジョン町で商売するには公的ギルドに加入が条件にすると言っていた。


このダンジョン町は公的ギルドの検証場所として使われるのかもしれない。


「んっ、なら特に新しい任務や作業はないということか?」


カービンさんの言うとおり、すぐにダンジョン町はすぐに利用しないから、大きくは変わらないはずだ。


「大きく変わりませんが、ひとつだけ任務が増えます。実はダンジョンの1層に降りたところに買取所を作るので、そこの警備と巡回、それと公的ギルド職員の送迎をお願いします」


私としては公的ギルドの窓口で買い取れば良いと思っていたが、それではダンジョン町に入らせないとダメだから、暫定的なのかなと思ったけど……。


暫定的でも公的ギルドが買取をすれば、冒険者ギルドと揉めるのは間違いないと思う。


楽しそうにハロルド様は冒険者ギルドより高く買うと言っていたなぁ。


絶対に喧嘩するつもりだと、その時に確信した。


私としては揉めない程度に3層と6層の買取ではなく、5層だけにすることを最初は提案したのだが……。


「それぐらいなら大した手間でもないし、マニュアルがあるんだろ?」


カービンさんも慣れてきたみたいだ。


「ええ、これがマニュアルになります。今後の事はハロルド様が決めることになると思います」


「ああ、あんたが考えるんじゃないなら大丈夫そうだな」


おうふ、まったく信用がないなぁ。


「すぐに任務内容は変わらないけど、すぐに人の出入りが増える可能性は高いわよ。それまでに周辺の魔物を徹底的に討伐して、安全確保を進めてちょうだい」


「はい、すでに以前とは比較できないほど討伐は進んでいます。体もしっかり休めるようになりましたし、ポーションや食事も充実していますので士気が非常に高いです。それに健康ドリンクで万全の状態で任務できるので、討伐効率が非常に良くなっています!」


うん、私がしたことが良い結果に繋がったのなら良かったと思う。


問題は冒険者ギルドとの駆け引きになると思うけど、それは私には関係ない。


か、関係ないよね……?


「アタル、戻って休憩しましょう」


「はい」


あれっ、レベッカ夫人の表情が肉食獣に代わっている気がするぅ~。


言い知れぬ不安を感じながら兵舎に戻るのであった。

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