第14話 調査と訓練

冒険者とは良好な感じで話し合いが終わった。

それどころか我々の為に草原の一画を開けてくれるとまで言われた。


クレアがどうしますかと聞いてきたが、辞退してテントは祠の近くに張ることにした。


冒険者からは、あそこだと周りからの風で体がべとつくし、下も固いから止めるように言われたが、自分達のテントなら問題無いと判断して移動する。


祠は予想以上に小さく扉は開いていたが、部屋を覗いたときの広さと祠の大きさは合っていなかった。


空間拡張かなぁ?


特に深く考えるでもなく、祠の裏に回ると予想以上に広かった。端には頑丈そうな手摺もあり、そこから下を覗くと予想以上の高さで、下半身がスースーしてしまう。


テントを4張り並べると、風が吹いても特に問題ないようで安心するのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



私はすぐに検証を始める。

レンガサイズの石を4個出して並べる。石は地上の石とダンジョンの石、そしてそれぞれにスライム溶液を浸透させたものを地面に並べる。


同じように地上の木とダンジョンの木、それぞれにスライム溶液を浸透させたものを地面に並べる。


さらに状態保存を付与した箱もひとつだけ置いておく。


ダンジョンでは討伐した魔物は、放置しておくと時間が経つとダンジョンに吸い込まれるように消えるらしい。


それは魔物だけでなく外から持ち込んだ武器や荷物、木や石の素材も消えると事前に聞いていた。


さらに聞いた話では小屋をダンジョンの木材で建てたことは有るらしいけど、小屋に誰かいる間は問題ないらしいが、暫く放置すると小屋は無くなったらしい。


これまでは移動を優先してきたが、これからは調査・検証が優先となる。


もしこの下の水で塩が生成できれば、魔道具の設置や待機場所が必要となる。


その為に必要な検証をしているのだ。



続いて端のほうに移動すると、ストレージからスライム溶液で作ったホースを出す。


ホースを見てすぐに下まで届かない事は分かったので、レシピからホースを更に作り、結合して下に伸ばしていく。


先端には魔鉄で作った網がしてあり、重し代わりになったことで、真っ直ぐと下に伸びていく。


ホースを下ろす感触が変わったので、水面に届いたと判断して用意したポンプを取り付ける。


ポンプは魔力で水を吸い上げ、吸い上げた水は全て亜空間に入るようにしてある。


ダンジョン内は予想以上に魔力が濃かったが、やはり周辺魔力だけでは水を吸い上げるのに時間が掛かりそうである。


ポンプに魔力を流し込むと、暫くして水がホースを伝ってポンプに吸い込まれて行った。



   ◇   ◇   ◇   ◇



椅子に座り、真っ暗な海をボウっと見つめながらポンプに魔力を流し込んでいると、クレアが近づいてきた。


「旦那様、何をされているのですか?」


「んっ、下の水を回収しているんだ。あっ、そこにある石とか木を触らないで欲しい……」


話しながらライトを使って検証用の石と木を照らすと、すでにいくつかの木と石が無くなっていた。


「予想外の結果だな……」


無くなったのはスライム溶液を浸透させていない素材だけだった。自分の予想ではダンジョン産の素材はもう少し消えないと思っていたのである。


スライム溶液を浸透させた素材がこんな結果になるとは……。


実はそれほどスライム溶液を浸透させた素材に期待していたわけではなく、他に工夫する方法がなかっただけであった。


スライム溶液最強!


検証の中間結果に満足する。


「あれを触らなければ宜しいのですか?」


おっと、クレアのことを忘れていた!


「あ、ああ、他のみんなにも話して置いてね」


「わかりました……」


これでどれぐらいの期間素材が残るかによって、色々やれることが変わるなぁ~。


検証結果に感心していると、なぜかクレアが私の様子を伺っている。


「他になにか用事があった?」


「実は明日以降の予定なんですが、先程冒険者の人達と話しまして、4回ほどボス部屋の戦闘を譲ってもらえました」


へぇ~、なんか微妙な回数だけど理由があるのかなぁ?


「それで護衛のことで相談したいのですが、護衛は1班だけ交代ですることで宜しいでしょうか?」


まあ、魔物もいないし問題ないかなぁ?


冒険者はこの前みたいに襲撃はしてこないと思うけど……。


それでも少しは護衛が欲しいかぁ。


「うん、1班だけでもいてくれれば助かるよ」


「それでは、残りは訓練として魔物討伐に行きたいと思います」


う~ん、それは構わないけど……。


「魔物討伐はボス部屋でやるのかな?」


「はい、予定では2班ずつで中に入り、戦闘は1班だけでする予定です」


慎重に戦闘するみたいだけど……、心配だぁ!


「ボス部屋の魔物との戦闘は大丈夫そうなの?」


「はい、冒険者に確認したところ何とかなりそうです!」


何とかなりそう……。


「ごめん、心配だから聞くけど、戦闘がしたいから無理していることはないよね?」


「それは大丈夫です。1班で倒せそうですが、安全の為に2班一緒に入るのですから」


それなら問題ないかぁ。


「では、ボス戦闘の4回だけ護衛が1班になるということだね?」


「いえ、その後は11層の探索するつもりです」


………。


「11層は大丈夫なの? 9層でも危険だったと思うよ!」


「えっ、9層では怪我ひとつしていませんよ?」


いやいや、それは……。


「それは地図スキルで、魔物の居場所を正確に把握した場合だよね? オークの群も多すぎるのは回避して進んだし、隠れていた魔物も事前に分かったし、戦闘中も戦闘後も他の魔物が合流しないように注意しての結果だよね。

私が一緒に進まなければ、地形とか障害物の位置はクレアには表示されないし、クレアが居ない場合は大丈夫なの?」


「だ、大丈夫だと思います……」


全然大丈夫そうに見えない!


「クレア、命が掛かってるのだよ!」


「………」


戦闘のことは正直分からない。でも、臆病だからこそ危険は回避できると思う。


「どう見ても、戦闘できることが楽しくて、慎重さが足りないと思う。そんな状態ならボス部屋の件も許可できない!」


「でも、」


「ダメだ!」


クレアはまだ何か言いたそうだが、元気なくテントに戻って行く。


気持ちは分かる気がする。


だが調査に来て必要ない戦闘で怪我されるのは嫌だ!


なぜか護衛のみなさんが揃ってこちらに向かってくる。


「なぜダメなんですか!」


カルアさんがまずは抗議してきて、他の人達も少し興奮している。


クレアは申し訳なさそうに後ろにいる。


「クレアから説明は聞きましたか?」


「いえ、ですが納得できません!」


おいおい、せめて理由を聞いてからにしてくれよぉ。


「説明も聞かずに納得できないということは、人の話は聞く気がなく、指示にも従う気はないということですね?」


「い、いえ、しかし納得できません!」


あぁ、いま話しても納得することはないだろう。


「クレア!」


「はい!」


クレアは私が大きな声で呼んだので驚いている。


「私がお願いしたことを伝えてくれましたか!?」


「えっ、あっ、すみません。伝えていません……」


「私は今回の調査で必要な事をお願いしたのに、伝えていないのですか?」


「申し訳ありません!」


「私は今も作業中であることは話したはずです。それを妨害するようなことを部下がしても何も言わないのですか!」


「………」


「私は残念です。クレアなら優先順位を理解してくれると思っていました」


クレアが涙を浮かべている。


私だって辛いよ!


「待って下さい、悪いのは私達です!」


カルアさんが会話に入ってくる。


しかし、私はカルアさんの発言を無視して、クレアに厳しく話す。


「クレア、この事はハロルド様にも報告します。悪いけどこれ以上作業の邪魔だけはしないで下さい。お願いします!」


「待って、」


「いい加減にしなさい! これ以上作業を邪魔するなら、地上に戻ったら処分します。アタル様、本当に申し訳ありません。戻りましたら私が責任を取ります」


クレアはカルアが発言しようとするのを叱り、カルアの代わりに私に謝罪した。


うん、自分達のせいでクレアが叱られたり、処分されたりすると思えば、少しは興奮も収まるだろう。


あとは冷静になって、クレアから説明を聞いて、落ち着いた判断ができると嬉しいなぁ。


もしかして嫌われたかもしれないが、彼女たちが怪我したり、死んだりするよりはましだと考えよう。

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