第8話 ダンジョン探索開始
ダンジョンの入り口付近には粗末な服を着た、冒険者には見えないような男達が集まっていた。
我々に気が付くと興味深げに見てくるが、クレアたちは無視してダンジョンの入口に入って行く。
普通の洞窟のような穴の先には大きな階段が見えて来た。
「あの階段を降りるとダンジョンの1層になります」
そうなんだと感心しながらも、入り口の男達の事を質問する。
「あれは荷物持ちです。ダンジョンは冒険者が数人で一緒に入るのが普通なのですが、倒した魔物の素材や、採取物を運ぶのに彼らを雇います。
冒険者は儲けの少ない素材や、食料に出来ても運ぶのが面倒な素材を彼らの報酬としますので、実質的には無料で彼らを利用できるんのです。
荷物持ちの連中も仕事内容を確認して、ついて行くだけで比較的危険なく稼げるので、あのような事をしているのです」
それでも危険じゃないのかと気になったが、階段を降り始めたのでそれ以外に気が取られる。
階段は壁や地面が柔らかく光っていた。階段の先には明るい日差しのある地面が見えている。
地図スキルで近くに魔物は居ないみたいだが、ダンジョンでも同じように魔物を表示してくれるのか不安に思う。
か、階段を魔物は上がって来ないのかなぁ。
ビクビクと怯えながら階段を降りていると、クレアが小さな声で教えてくれた。
「氾濫の時以外は、階段や階段周辺に魔物は入って来れません」
あからさまにホッとしたのが皆に伝わったようで、少し笑われてしまった。
小声でも皆に聞こえているじゃん!
階段は静かで音が良く通るせいで、クレアの忠告は全員に知られていたようだ。
恥ずかしいと思ったが、そんな事はすぐに吹っ飛んでしまう。
こ、これがダンジョンかぁ~!
上空はまるで空のような青い空に見える。
太陽は見えないが明るくて外と同じような昼頃の明るさだ。正面には草原や林、川まである。
道のような草が生えていない土の道が真っ直ぐと奥に続いている。
この道はどこに続いているのだろうか?
感慨にふけっているとクレアが指示を出す声が聞こえてくる。
「最初はブリッサの班が先行しろ、カルア班は後ろ、クレア班はアタル様の左右を警戒しろ!」
そんな厳重で対応しないと危険なんだぁ!?
不安に思いながらも、自分の装備ならある程度の魔物なら大丈夫だと言い聞かせる。
でも、事前にどの程度効果があるか、確認するべきだった!
地図スキルは既に数キメル先まで確認できるようになっている。
クレアの指輪にも自分の情報が連動されるので、警戒は任せても大丈夫だと思うが、上手く連動できているか不安になってくる。
『地図スキルは上手く表示出来ていますか?』
何気に自宅以外で文字念話を使うのは初めてだった。使う機会が少なかった事と、使い慣れていなかったのが理由だ。
『はい、驚くほどきれいに表示されています。数キメル先まで確認が出来ますので、予定より安全に進めそうです』
返事の中で安全と言う言葉を聞いただけでホッとする。
ブリッサ班が進みだしたので自分も歩き出した。
どれぐらいの距離でついて行けば良いのか分からなかったが、隣にクレアが居てくれたので、一歩下がるような位置でついて行く。
少し進むと3人の人間の印と、ひとつの魔物の印が右前方に表示される。
魔物は『頭突きマウス』と表示されていた。
300メルぐらいに近づくと、少年のような冒険者が三人で魔物を追いかけていた。
追いかけるが回り込まれて頭突き攻撃され、慌てて避けてはまた追いかけている。
え~と、あれは真面目に戦ってるんだよね?
何か理由があってそんな戦いをしてると考えることにした。
道は彼らと100メル程離れた場所に続いていた。
『あれはスライムを除けば最弱の魔物です。彼らは新人の冒険者なのでしょう』
クレアが呆れたような雰囲気で文字念話を送ってきた。
魔物は角ウサギより一回り小さく、カピバラのような顔で、額が少し盛り上がっていた。
『あの魔物は角ウサギと比べてどれぐらいの強さなんですか?』
『動きは角ウサギより良いかもしれませんが、攻撃を受けても痛いだけです。運が悪いと骨折する場合もありますが、恥ずかしくて言えません。魔物討伐の訓練用と言ったところです』
ははは、たぶん自分なら怪我ひとつしないだろう。だ、大丈夫だよね……。
『この階層は他にどんな魔物が出るんですか?』
『少数ですが角ウサギも出ます』
おうふ、地上より安全なんじゃないのぉ?
『それなら、あんなに警戒して進まなくても大丈夫じゃないですか?』
『そ、そうですね。旦那、アタル様が居るという事で慎重に進んでいると思います』
ダンジョンに入るのが遅れたから、速度を上げて進まないと予定が遅れそうだ。
『もう少しペースを上げませんか? クレアが魔物の指示をすれば、相当早く進めますよね?』
『わ、わかりました』
クレアが暫くは移動を優先するように指示を出す。魔物が近づいたら指示をすると伝えると、皆が驚いている。
『私には索敵系のスキルが無かったので、皆は驚いているようです』
それからは順調に進み始める。2時間ほどで次の階層に続く階段まで到着した。
「しかし、次の階層までの経路に道があるなんて、ダンジョンも親切ですね」
そう話すと全員が苦笑する。
「だ、アタル様、この道は冒険者が通って出来た道です」
そう言う事かぁ。確かに1階層の魔物は新人用と言った感じである。これでは稼げないだろう。普通の冒険者は最優先で階層の移動に進むのだろう。
2階層は角ウサギの比率が高くなっているらしいが、ここも初心者から毛の生えたような冒険者しかいなかった。
我々は大して魔物と遭遇しなかった。
クレアが何度か警戒するように指示を出したが、襲われることはほとんどなく、2階層で3回ほど角ウサギを倒しただけである。
直ぐに私が収納して血抜きや解体などしないので、2階層も2時間ぐらいで踏破した。
途中から大きな荷物を抱えて走る冒険者とすれ違うようになる。
今日中に戻ろうとする連中だろうかぁ?
3階層に降りたところでクレアが相談してくる。
「3階層を進むと途中で暗くなるかもしれません。安全の為にこの場所で今日は宿泊しませんか?」
返事をする前に3階層の魔物の情報を聞くと、角ウサギが大半で、まれにフォレストウルフが出るらしい。
やっと地上と同じ程度になった気がする。
ちゃんと暗くなるんだぁ。
先程のペースで進めば暗くなる前に着くが、暗くなると魔物の数が増えるらしい。
「進みましょう。予定では3階層まで行くことになっていましたから。後で無理をするよりは今日の方が魔物のレベルが低いから大丈夫でしょう!」
それに2階層でクレアの指示が的確であることが皆も分かり、スムーズに進めるようになっていた。
それに今回の護衛の人達にも、特製の制服と装備を渡している。フォレストウルフなら噛まれても痛いだけで怪我もしないだろう。
まあ、実戦で試していないのが不安要素だが……。
急いで出発すると予想以上に魔物が多かった。
しかし、クレアの的確な指示と、私が用意した武器が予想以上に有効なようで、それほど力を入れた感じがなくとも、フォレストウルフの首を1回で切り落としていた。
走りながらキャイキャイと騒ぐ姿は可愛らしいが、魔物を倒した後に血の滴る剣を握りながら、ニコニコと微笑む女性たちが怖かったぐらいだ。
4階層に降りる階段の所に到着すると辺りが暗くなり始めていた。
事前にここで宿泊する冒険者が居ると聞いていたが、予想以上の数の冒険者がテントやごろ寝するような状況でそこには居た。
「これでは我々の寝床は確保できません。下側を確認してきます」
カルア班が階段を降りて確認へ向かう。すぐに戻ってくると、首を振ってダメだと報告していた。
失敗したなぁ~。
女性も多いし、冒険者が居なかった前の階層で休むべきだったかぁ。
まあ、それでも、安全に宿泊できるように準備はしてきた。
クレアに話して、階段から少しだけ離れた平らな場所に移動する。
「テケテッケテェ~、結界付きテントォ~!」
まるで腹ポケットから出す仕草で自慢の魔道具を出すのである。
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