第7話 ダンジョン目前

朝4時にアラームで目を覚ました。


今日は6時にはダンジョンへ出発することになっていたので、準備も含めて早めに目を覚ましたのである。


隣に眠るラナの肩を揺すって起こす。


ラナは目を覚ましたが少し寝惚けていた。しかし、すぐに心配そうな表情になり目に涙を溜めながら、私を抱きしめて来た。


「危ないことをしたらダメですよ」


「うん」


昨晩の余韻が残っていたのか、お姉さんモードで接してきた。


お互いに裸だったこともあり、甘えるようにラナと朝の運動を始めるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



ギリギリの時間に寝室から出て来ると、クレアが準備を終えて待っていた。


ラナの雰囲気で朝から運動していたことに気が付いたのか、ジト目で睨まれてしまった。


慌ただしく地下道経由で仮住居から表に出ると、ダンジョンへ一緒に行く護衛が既に揃っていた。


護衛は7番隊の女性騎士のほとんどが兵舎に移って来た事で、7番隊の隊員が交代で護衛を務めることになっていた。


今回はダンジョンに行くため、人数も多くなった。クレア班はクレアを入れて5名で、以前から護衛をしていた者たちである。


カルア班もカルアさんを含めて5名となり、7番隊のもう一人の副隊長であるブリッサさんが班長のブリッサ班も5名となる。


今回は私を入れた16名でダンジョンの調査に行くことになる。


馬車2台連なって移動を開始する。

御者と護衛で3名ずつ一緒にダンジョンに向かう。ダンジョン近くに馬車は置いて行けないので、彼女らは我々を送り届けるとすぐに戻ることになる。


初めて利用する南門を出て、ダンジョンに向かう道を進んで行く。聞いた話では1時間ぐらいで到着するらしい。


途中でダンジョンに向かう冒険者を追い抜いたり、逆に走って追い抜いたりする冒険者を見かけた。


1時間も掛からずにダンジョンがある場所に到着する。


ダンジョンの入口は岩の多い丘のすそ野にある、大きめの岩が重なる場所にぽっかりと穴が開いていた。


直ぐ近くにある木造の壁に囲まれた場所の近くで馬車から降りる。


門らしき場所の前に兵士らしき男が立っていた。


門に近づくと驚くほどいい加減な作りの木造の壁であることに驚く。所々下の方に穴が開いていて、角ウサギぐらいなら簡単に侵入されそうである。


私が驚いているのに気が付いたクレアが、耳打ちするように教えてくれた。


「ここはダンジョン周辺の魔物の間引きと、ダンジョンの氾濫が起きないか監視している場所です。3番隊と4番隊が交代で60名ずつここに駐留しています」


ダンジョンの氾濫!? どれぐらいの頻度で起きるんだろう?


ダンジョンの氾濫が規模やどんな感じか分からないので不安になる。ダンジョン内に居る時に発生したらどうしようかと、考えれば考えるほど不安に感じる。


それにこの簡単に破壊されそうな木造の壁で大丈夫なのだろうか?


考えていると門の所まで到着する。


「7番隊隊長のクレアです。3番隊の隊長はおられるでしょうか?」


クレアが綺麗な敬礼をして門番に尋ねる。


「んっ、中に居るぞ」


思ったより雑な対応だと感じたが、よく見ると目の下に隈があり、相当疲れている感じだった。


全員が敬礼して門から中に入る。


木造の壁よりまともな木造の平屋建ての家が建っていた。広さはありそうだが、隙間風の間違いなく入る倉庫のような造りで、近づくだけで男くさいような、かび臭い匂いが漂ってくる。


皆平気な顔で中に入って行く。

多少の仕切りはあるがほぼ倉庫で、入り口近くの部屋に皆で向かって行く。


入口の扉は開いた状態で、その扉にクレアはノックする。


「おぉ、遠慮なく入れぇ~」


クレアが先頭で中に入り、カルアさんとブリッサさんも続いて中に入って行った。それ以外は外で待っているようで、私はどうすべきか迷っていると、中からクレアに呼ばれてしまった。


中に入ると無精ひげの男性騎士が貧相な机に向かって座っていた。


「アタル殿ですな。私は3番隊の隊長をしているカービンです。団長から話は聞いております。よろしくお願いします」


カービンさんは立ち上がって丁寧に敬礼をしてくれた。しかし、立ち上がっただけで汗臭い匂いが漂ってくる。


何日ぐらいここに居るのかな?


碌に体を洗っていないのだろう。


「クレア、ダンジョンに行くお前達に頼むのは申し訳ないが、ポーションを分けてくれないか?」


クレアはどうしようかと私を見てくる。


普通ならこれからダンジョンに向かう相手に、ポーションを頼むのは非常識だと思う。


クレアが私を見たことで、判断するのは私だと考えたのか、私に理由を話し始めた。


「実は昨晩遅く、ゴブリン20体ほどが襲撃してきて、何とか撃退したが、けが人も多くてポーションが足りなくて、このままだと1人は確実に死んじまうんですよ」


ゴ、ゴブリン!?


まだ見たことのない魔物にビビり、そう言われたら断るわけにいかないし、断る気も無かった。


「では怪我人の所に案内してください」


「そ、そうか、助かる!」


少し大雑把な感じがしたが、本当に嬉しそうに答えたので、本当に困っていたのであろう。


直ぐ近くの部屋に行くと10人近くが予想以上に大怪我をしていた。一人は本当に瀕死の状態であった。


「手分けして全員を治療してください。使ったポーションは補充しますので安心して全員を完全回復させて下さい」


「ま、待ってくれ、死にそうなそいつだけで大丈夫だ、朝一でポーションを貰いに行かせたから、あんた達の調査に影響が出たら、団長やハロルド様に叱られちまう」


「大丈夫です。その代わり治療が終わったら相談があります」


直ぐに治療を始める。秘かに最初は砂糖ポーションで瀕死の人を治療すると、その効果にカービンさんは驚いていた。


完全に回復するまでポーションを使い、最後は意識が回復したので自分でポーションを飲ませた。


直ぐに全員の怪我が完全回復すると、カービンさんは嬉しそうにお礼を言う。


「アタル様、ありがとうございます。私に出来ることがあれば何時でも言って下さい」


「では、全員で一度敷地から出て行ってもらえますか?」


「えっ!?」


予想外の私の申し出にカービンさんは驚いている。


「え~と、何時でもと言いましたよね?」


理由を説明しても良かったが、面白くないので秘密にしてお願いだけをする。


「わ、わかりました。約束なので守らせて頂きます」


理由を聞きたそうにしていたが、戸惑いながらも指示に従ってくれた。


全員が表に出ると門を閉める。門の外で動揺するカービンさんが、髭もじゃのくせに目が可愛かった。


「だん、アタル様、何を始めるのですか?」


クレアさんが心配そうに尋ねてくる。


「ここはダンジョンに近いせいなのか、予想外に魔素が濃いから、兵舎ほどではないですが、それに近い設備が使えそうです。素材も沢山確保して余っているので、すぐに建てられますよ」


そう答えると、クレアは少し不満そうに言う。


「それなら説明してあげれば良いじゃないですか?」


「それでは完成した時の驚きが無いじゃないですかぁ」


皆からジト目で睨まれたが無視して作業を始める。


木造の壁は2メルほどしかなかったが、3メルぐらいで石壁を作る。四方には監視塔のような物を造り安全に監視できるようにする。


平屋の倉庫は中の荷物や家具をストレージに全て収納して、建物は全てストレージにしまう。


後は慣れた感じで石造りの2階建てを建て、屋上でも監視が出来るようにする。


建物の中は空間拡張で広くすると、基本は4人部屋で2段ベッドを配置して、固めのスライムマットを設置しておく。もちろん2人部屋や1人部屋も用意する。


1階には会議室や執務室も幾つか作り、1階の大部分は食堂のようにテーブルと椅子を並べる。


各種セキュリティや亜空間経由の食事も食べられるようにして、トイレも設置していく。


ロッカー代わりに各所に、公的ギルドカードで亜空間に荷物を預けられるようにして、門の横には警備室のような物を造り、出入りのチェックなども魔道具で出来るようにする。


その警備室の隣には、魔物の解体施設と公的ギルドに物を納品できるようにした。


まだ買取などは出来ないが、運搬が不要になるし劣化も無くなるだろう。


全ての機能を使うには、公的ギルドカードが必要だが、まだ誰も持っていないはずなので、仮カードを幾つか作り、暫定的に使えるようにする。


全ての準備が出来ると、大まかにカービンさんに説明して仮カードを渡す。


ポーションも公的ギルドから必要に応じて購入できるようにしたが、後で購入した分はハロルド様に請求すると伝えておいた。


最後にマニュアルを渡したが、話を聞いていたか不安になる。


「それではダンジョンに行ってきます」


「ま、待ってくれ、も、もう一度説明を頼む!」


「マニュアルで確認して下さーい! じゃあねぇ~」


予定より随分遅くなったが、ダンジョンの入口に向かって歩き出したのだった。

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