第39話 えっ、嘘だよね!?

えっ、嘘だよね!?


俺が驚いた表情で二人を見つめていると、ラナはそれに気が付いたようで申し訳そうな顔して話をする。


「も、申し訳ありません! 結婚が出来るのが嬉しくて焦ってしまいました。いくら何でも1週間は無理ですね。行き遅れの焦りと思って許してください」


いやいや、違うから。


「お義兄さん、無理なのは分かってます。でも、お義姉さんはこれまで苦労してきたのです。出来る限りで構いませんので、早く、早くお嫁さんにしてあげて下さい」


お、お義兄さん。その呼び方も悪くないなぁ~。


違う、違うーーー!


「わ、私は今晩でも良いかと思ったけど、さすがに無理だと思うから明日かなぁ~、なんて思ったんだけど……」


「「………」」


あれっ、なんか変なの!?


二人が呆気に取られて言葉も出ないようだ。


この世界では色々と手順があるの?


えっ、我慢できないよ!


「ア、 アタル様、さすがにそれは無理だと思います」


ラナさんが呆れながらも、申し訳なさそうに話す。


えっ、なんで!?


「でもでも、住む所があれば、食事会して結婚するだけじゃないの!?」


そ、そうだよね!?


「で、ですが、食事会もハロルド様やレベッカ様、セバスさんをお呼びしないといけません。皆様のご都合もありますし、引っ越しもしないと……」


申し訳なさそうにラナさんが説明してくれる。


「それなら大丈夫だよ。ハロルド様達とは毎晩一緒に食事してるから、一晩ぐらい別の場所で食事をしても問題ないでしょ。そ、それに引っ越しは収納を使えばすぐに出来るよね。そうだよね?」


恥ずかしいくらい焦っているのは自分でも気が付いている。


でも、我慢できないんだよぉーーー!


だって、……ボッチ&DTの卒業が目の前にぃ~!


「しょ、食事の準備や給仕の問題も……。そ、それに、生活できる状態なのか確認を、」


「大丈夫! 食事は私が用意しますし、給仕は必要ありません。私の居た所では、結婚のときは身分に関係なく、大皿から好きな物を自分で取り分けて食べるのがしきたりでしたから。生活は今晩からでも出来るようになっているのでご安心ください!」


食い気味に説明する。必死なのも焦っているのも分かっているが止められない。


「それなら大丈夫じゃないかな。私は少しでも早くお姉さんが結婚してくれた方が嬉しい!」


メアベルさん、ナイスアシストォーーー!


あれっ、なんでラナが溜息を……。


「結婚はそんな簡単な事ではありませんよ」


優しくだが呆れた感じでメアベルさんを嗜めた?


「アタル様、やはりハロルド様達にご相談してから日程を決める必要があります。その為にもお屋敷を確認させて頂いて宜しいですか? 直ぐにも生活できそうなら、出来るだけ早く話を進めたいと思います」


「う、うん、じゃあクレアさ、クレアも呼んでこようか?」


本気マジかぁーーー!


「はい、私も準備してお屋敷の方に向かいます」


ラナさんの返事を聞いて、急いでクレアを迎えに行くのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



クレアさ、クレアを訓練施設に呼びに行くと、疲れ切って休憩するクレアが居たのだが、ポーションを飲ませて復活させ、説明もせずに無理やり連れて行く。


クレアは戸惑いながらも付いて来てくれた。仮住居の前に着いたが、まだラナさ、ラナが来ていないので大まかに事情を説明する。


しかし、呼び捨てに全然慣れる気がしないなぁ。


結婚すればなれるのかなぁ?


イライラして待っているとラナが焦ったように走って来るのが見える。


「お待たせして申し訳ありません!」


申し訳なさそうに謝罪するラナを見て、焦ってイライラしている自分が一番悪いと気が付く。


私は何をしてるんだろう……。


私の焦りで、彼女たちを振り回し、ラナに謝罪をさせるのは間違っている。


「すまない。二人と早く結婚したくて焦っていたようだ。謝らないで欲しい」


何か自分が情けなくなる。


自分の欲望を二人にぶつけてどうする!


そんな事の為に結婚するんじゃない……。いや、それもない訳じゃないけど、一番は二人と幸せになるためのはずだ。


彼女たちに辛い思いをさせては意味がないじゃないか!


自分で自分に怒りを覚える。


でも、それでも抑えられる自信はないよぉ~。


自分がそういった欲望に耐性が無いと改めて驚く。


ずっとボッチで、そういった欲望は無理なく抑えられたのに、目の前にあると違うのだろうか?


「そんな風に言って頂けるだけで私は幸せです」


「うん、私も幸せ過ぎて怖いぐらいです」


ラナとクレアは許してくれるようだ。


じゃ、じゃあ、確認に出発しよう!



   ◇   ◇   ◇   ◇



仮住居に入ろうとしたら二人が驚いてラナが質問してくる。


「ア、 アタル様、お屋敷に行くのではないのでしょうか?」


そう言えば説明していなかったなぁ。


そう気が付き二人に事情を説明する。

ここが仮住居で、擬装用の住まいであること。大賢者の屋敷には大賢者の末裔が住んでいる設定にすることなど。


簡単に説明したのだが、二人は感心したように頷いて聞いてくれた。


中に入ると待機所のようなカウンターが目に入る。


「ここは孤児院の子供たちの素材買い取りカウンターにする予定かな。シア達に基本的にはやって貰うつもりだね。2階にはキッチンとダイニング、それに簡易的なリビングが用意されているし、3階は今住んでいる待機所のような部屋も用意してあるよ」


そう説明して2階に上がる階段の下にある扉に行く。


「この扉が地下通路の入口になる。登録した人しか中には入れないし扉も開かない」


そう話すと、扉の横にある管理パネルに手を置く。管理パネルは木をニスでも塗ったような艶のある板に見える。


「まずはクレアからここに手を置いてくれるかい」


クレアは不思議そうにしながらも、管理パネルに手を付ける。


「あっ!」


ふふふっ、驚いたみたいだね。登録の確認メッセージが出てるはずだ。


あれっ、なんでそんなに顔を真っ赤にしてるのかな?


ただの登録用の確認メッセージはずなのに……。


はっ、メッセージが『妻として登録しますか?』だった気がするぅ!


妻と言っても権限の妻であって、本当に妻としてではなく……。


今さら遅いよね……。


吹っ切れたぁ!


この世界で何度目の『吹っ切れた』だろう……。


「妻として屋敷の管理をして貰うという意味だよ」


精一杯普通に話す。


「ひゃい」


そう言うとクレアはすぐに手を離した。


うん、問題なく登録できているようだ。


ラナにも同じように登録して貰う。


二人は嬉しそうにニヤニヤしているので問題は無いだろう。


扉を開けて中に入り、地下に続く階段を一緒に降りる。

階段で下まで降りると廊下を進んで行く。少しすると扉があり、中に入ると四方に扉のある部屋に着く。


「ここは中継部屋だね。右の扉は大賢者の屋敷に行けて、正面の扉は兵舎や役所、エルマイスター家に繋がっている。左の扉は隣の訓練施設に繋がってるよ」


「あっ、廊下の突き当りにある扉の事ですか。なんの部屋だろうと思ってましたが、ここに……」


クレアさんは訓練施設の中を色々と調べていたようだ。


「これからクレアさんは出入りできますよ。クレアさんが招待して登録すればだれでも入れるようになりますが、極秘事項なので注意してくださいね。招待するときは1回だけとか、時間を指定して許可を出すこともできます。詳細はまた説明します」


二人は驚いているようだ。


「では、大賢者の屋敷に行きましょうか」


二人を連れて大賢者の屋敷に向かう扉を開けるのだった。

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