第5話 高濃度魔力域での検証
移動を始めると門の手前でカルアさん達と合流する。
そう言えば子供たちに水筒を届けるようにお願いしたな。
水筒を届けに行くだけにしては、時間を掛けすぎのような気がするが、そこはカルアさんが説明してくれた。
「すみません。川向こうで角ウサギを何匹か獲って、子供たちに昼飯にするように渡してきました」
みんな考えることは同じだ!
子供たちを大切に思う気持ちが同じことに嬉しくなる。
それなら合流して昼食を食べる必要もないと考え、近くの食堂で昼食を食べるのであった。
食事の帰りがけに孤児院に寄り、フォレストウルフを渡して先程の場所に戻ろうとすると、シャルとミュウが孤児院で遊んでいくと言うので、満足したら合流するように話をする。
クレアさんに2人では危険でないか心配して聞くと、大丈夫だとすぐに返事が来た。それなら自分にも護衛は要らないのではと聞くと、私に常識が無いので仕方ないと言われて落ち込んでしまう。
壁に囲まれた区画の入口まで戻って来て、クレアさんが鍵を開けて皆で中に入ると、クレアさんが尋ねてくる。
「アタル様、これから何をされるのですか?」
そう聞かれて私は少し考えこむ。
これからこの区画で作業するのに、護衛の人達の待機場所を造ろうと思っていたのだが、護衛の人達なら身体強化が使えるのではと考え、少し検証に協力してくれないか聞いてみることにする。
「すみません。身体強化を使える人はいますか?」
尋ねるとクレアさんとカルアさんを含め全員が身体強化を使えるらしい。私の護衛ということで口が堅く、能力の高い隊員が選ばれたとクレアさんに聞き、再び落ち込んでしまう。
「それなら少し検証を手伝ってくれませんか?」
落ち込んでいても仕方がないので、魔力濃度が濃い場所は、身体強化すれば魔力酔いにならないことや、通常より身体強化の訓練効果が高く、魔力回復が早くなる可能性が高いはずなので、検証をしたいと伝える。
「魔力酔いにはならないのですね? またあの治療をされないですよね?」
クレアさんが必死に聞いてくるので、そうならないように確認しながら進めると伝える。
まだ疑っている感じだったが、水筒を届けに行ったカルアさん達は、魔力酔いの治療について詳細を知らないので、先に検証に付き合ってくれるという。
大きな門扉の前に、秘かに作っておいたテーブルと椅子を出して、そこに他の皆は待機するように伝え、カルアさんともう1名の護衛の人と一緒に奥に向かう。
魔力が濃くなり出したので、カルアさんの手を握り身体強化を使うようにお願いする。
鑑定をしながらMP消費の確認をしたいだけだったが、なぜかカルアさんの顔は真っ赤になっていた。
カルアさんがすぐに身体強化を始めると、予想よりMP消費が激しい。
直ぐに身体強化を解除してもらうと、半分以上MPを消費していた。
「予想よりMP消費が激しいなぁ。これではすぐに魔力が無くなってしまうかぁ」
もう少し奥に行けば消費と魔力回復のバランスが取れる可能性もあるが、危険も高くなるのでどうしようかと悩んでしまう。
「全力で身体強化を使いましたが、少し調整して使いますか?」
いきなり全力で使ったんか~い!
カルアさんに可能な限り最小の効果で身体強化を使うように改めてお願いする。
また手を握った状態で身体強化を使ってもらうと、じわじわとMPが減っていくが、少しは持ちそうだ。
急いでカルアさん握っている手を持ち上げて確認すると、身体強化の効果が低くても、魔力が体に纏わり付かないことが確認できた。
もう一人にそのままそこで待つように言って、カルアさんの手を握りながら、少しずつ奥に進む。
すぐにMP消費と回復のバランスが取れ、身体強化を使いながらもMPが減少しなくなる。さらに奥に進んでクレアさんの倒れた場所まで来ると、魔力回復が早くなってMPが完全回復した。
再びカルアさん握っている手を持ち上げて確認すると、魔力濃度が高くなっても、最小の身体強化でも魔力が体に纏わり付かないことが確認できた。
そしてさらに数分で1ずつMP最大値が増えていることを確認する。
もう1人の護衛の所まで戻ると、カルアさんに身体強化を止めてもらい、同じように護衛の人の手を握り、検証を始めようとする。
「可能な限り最小の効果で身体強化を使うようしてもらえますか?」
「ヒルダです」
えっ、なんで突然の自己紹介?
「ヒルダです。手を握られるのですから、最低限の自己紹介はしておきたいと思います」
ヒルダさんは微笑みながら、そう話してくる。
確かに護衛の人とは聞いていたが、名前まで聞いていなかったか覚えていなかった。ヒルダさんを良く見ると真っ赤な髪の毛に少し赤みがかった瞳をしていて、スラっとしたモデルのようなスタイルと、勝気な表情に見入ってしまう。
「おほん、ア、アタルです。よろしくお願いします」
照れて自分の頬が熱くなるのが分かったが、ヒルダさんが身体強化を使い始めたので、検証を再開して奥に移動し始める。
結果としてはカルアさんと同じように問題なく魔力の濃い場所まで行けたし、少しずつMP最大値が増えることも確認できた。
一度門扉の辺りまでカルアさん達と戻ってくると、クレアさんはホッとしたような表情を見せているが、私は少し悩んでしまう。
このことは話して大丈夫なんだろうか?
身体強化で魔力の濃い場所に入って行くのは問題なさそうだが、身体強化が持続的に使えるということは非常に有効な訓練になるし、MP最大値が増えるのは影響が大きすぎると自分でも理解できる。
それにまだ問題が出ていないだけで、急激に身体強化のレベルが上がったり、MP最大値が上がったりすることは、あとで何か体に影響が出るかもしれない。
考え込んでいるとクレアさんが尋ねてきた。
「アタル様、カルア達に魔力酔いの症状が出ていないみたいですが、なにか問題がありましたか?」
どこまで話すべきか悩んでしまったが、彼女たちに秘密にしても仕方ないと思い説明する。
「まず今から話す内容は秘密にしてください。ハロルド様やレベッカ夫人に相談してみないと、どこまで話して良いのか私では判断できません。でも既にカルアさん達にも検証を手伝ってもらったので、皆さんには説明します」
そう言って検証した内容について話すと、全員が驚きと期待に満ちた表情をする。
特に身体強化が持続的に使えるので効果的な訓練になり、MP最大値が増えると聞いたときは、まるで私を捕食するような野獣の目になった気がした。
「まだどんな副作用が出るのか分かりませんし、もっと細かく検証してみないことには不安があります。それに間違って魔力が濃い奥で身体強化を使うのを止めてしまうと、すぐに魔力酔いの症状が出て意識を失う可能性もあるので、慎重に検証する必要があります」
副作用の可能性や魔力酔いの心配など警告したが、それ以上にMP最大値が増えるという話に歯止めが利かない感じがする。
「アタル様は鑑定が使えるのですか? 鑑定魔法はこの国でも数人しかいないと聞いています」
えっ、そこ!? そして、数人しかいない!?
またハロルド様に叱られる未来が見えて、再び落ち込むであった。
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