第4話 魔力スポット

大賢者の屋敷を出て敷地から出ると、レベッカ夫人たちが見える所まで戻って来た。


最初に護衛の人達が私の事に気が付き、護衛が他の皆に声を掛けると、シャルやミュウが喜んでいることが遠目でもわかった。


直ぐに戻る前に幾つか確認しようと考えて、それ以上は戻らずに確認と検証を始める。


まずはスマートシステムを開いてステータスアプリを開く。



【ステータス】

──────────────────────────────

名前:アタル

種族:人族

レベル:2


HP:110/110

MP:18452/18452


スキル:身体強化(7/10) ・状態異常耐性(3/10)・生活魔法(5/5)

魔力感知(6/10)・魔力操作(6/10)・魔力回復(4/10)

土魔法(4/10)、スマートシステム

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レベルが2にUPしたのは、ウサギ系の魔物やスライムをたくさん倒したので、不思議ではないと思うが、MP最大値が8割以上も増えているのは普通とは思えない。


実はクレアさんが倒れて症状を確認するのに鑑定を使ったのだが、クレアさんのMP最大値も増えていたので、もしかしてと思ったのである。


MP最大値を増やすのは、魔力を使用すればMP最大値が増えるのではないかと考えていたが、それは間違いでないと暫く前に気が付いていた。


しかし、今のMP最大値の増え方は明らかに異常である。

クレアさんがそれほど魔法を使っているようには見えなかったし、大賢者の屋敷に入ってからも、実は何度かステータスを確認していたのだが、確認するたびにMP最大値が増えていたのである。


更に詳細な確認と検証は必要だと思うが、魔力スポットの効果と言うか、濃厚な魔力のある場所に居ることで、MP最大値が増えている可能性が高い。


さらに魔力を使うスキルが軒並みレベルUPしている。

魔力の濃い場所に行くと、体が軽く感じていたのは、身体強化が通常より魔力を消費して、通常より経験値みたいなものが増えた可能性が高いと考えられる。


身体強化はスマートスキルで強制的に常時起動しているので、通常より明らかに経験値が増えていると考えられるが、やはり、濃厚な魔力のある場所で魔法を使うと経験値の取得と言うか成長が早くなると考えられる。


更に検証しようと、何もない方向に『軽魔弾』を連続で撃ってみる。

やはり連射速度も速くなっているし、消費したMPもすぐに回復する。空気中の魔力を使う『軽魔弾』を使うと、ほとんど通常版と同じ速度で連射できる。


それらの事を検証などで再確認して、魔力スポットは魔法の訓練に最適であることは間違いない。ただし、身体強化を利用しないで体から魔力を吸収してしまうと魔力酔いになってしまう。

呼吸で取り込んだ魔力は、体に悪影響はないと思われ、逆に色々な意味で良い影響が出てると考えられる。


どちらにしろ、色々な人に色々な事を試して検証してみない事には、詳細な事は分からない。


ただ自分には良い影響しかないので、魔力スポットは非常に面白い環境であることは間違いない。


それらの事実を考えると、笑いが込み上げてくるが、笑わないように我慢しながら、皆の所に戻る。


「アタルさん問題は無かった?」


レベッカ夫人が聞いてきた。


「ええ、問題はありませんね。大賢者の屋敷は本当に綺麗だし、最高の環境ですね」


何故か嬉しそうに答えると、レベッカ夫人とクレアさん達が呆れた感じで私の事を見てくる。


「そ、そう、それでこの場所の問題は解決できそうかしら?」


「う~ん、解決は出来るのですが……」


私は少し考えながら答えると、またレベッカ夫人がまるで抱きつく勢いで近づいて来る。


「本当なの!? 何が必要! 費用が足らないなら追加で報酬を用意するわ!」


ほ、本当に、ま、不味いです。近すぎですぅ!?


「た、たぶんです。せ、説明するので、離れて貰えますかぁ」


また最後は悲鳴のような感じでお願いすると、仕方がない感じで離れてくれる。


少し腰を引いた状態で、解決方法について説明する。


「大賢者の屋敷内にやはり魔力スポット、魔力が噴き出す場所があるのは間違いありません。その魔力を利用して屋敷の維持や魔道具に利用しているのですが、利用する魔力より噴き出す魔力の方が大きいので、魔力が溢れて来たのが今の状況です」


レベッカ夫人は真剣に話を聞いてくれているが、真剣に聞きすぎて少しずつ前に出てくるので、私はそれに合わせて後ろに下がって行く。


クレアさん達がレベッカ夫人の体を抑えてくれたのを見て、少し安心して説明を続ける。


「根本的な問題を解決するには、大賢者の屋敷だけで溢れ出す魔力を消費するのは難しいと思います。

更に周りに魔力を消費する施設が必要です」


それを聞いたレベッカ夫人は考え込んでしまう。

私としては大賢者の屋敷の管理と、その周りに施設を造る許可が欲しいのだが、あまりにも要求が多すぎるので躊躇してしまう。


神々は私に使えと簡単に神託いってくるのだが、そもそも所有権は神々あいつらには無いので、勝手に自分の物にする訳にはいかない。


まあ、この世界の物は神々の物と言えなくも無いが……。


「……溢れ出す魔力の管理と、それを利用する施設をアタルさんなら何とか出来るの?」


レベッカ夫人が真剣な顔で聞いて来る。


「まあ、できますけど、」


「良かったわ~。それなら最初に説明した通りに、この壁の中はアタルさんにすべて差し上げるわ。書類は今日中に準備するからヨロシクね。他にも必要な物やお金が必要なら遠慮なく言ってくれて構わないわ」


はやっ!


レベッカ夫人の決断が早すぎるし、神々の思惑通りに所有権が簡単に私の物になってしまった。


「いやいや、それに住めるようになるのに半月から1ヶ月は必要だと思いますし」


そう話すとレベッカ夫人は驚いた表情をする。


「えっ、たったそれだけで住めるようになるの?」


「た、たぶん、それぐらいは必要かと思いますけど……」


レベッカ夫人は凄く嬉しそうに笑うと、


「エルマイスター家の何代にも渡る問題が、たったそれだけの間に解決できる。ふふふっ、素晴らしいわ。

私としてはアタルさんに、どんな事でも叶えたくなるほど感謝したくなるわ」


『どんな事でも叶えたく、どんな事でも……』


頭の中でレベッカ夫人が話した一部のフレーズがリフレインする。



「アタル様、アタル様!」


なぜかクレアさんに体を揺すぶられている。周りを見るとレベッカ夫人が居なくなっていた。


「あれっ、レベッカ夫人は?」


「夫人は書類を作ると言って屋敷にお戻りになられましたよ」


あぁ、妄想で意識が跳んでしまったのだろう。


「この後はどうされますか?」


「う~ん、シア達に合流して昼食を食べようか?」


シアの名前を聞いて、シャルの表情が硬くなった気がするけど気のせいだろう。


クレアさんが入口の鍵を預かっていたので、壁の中から出るとクレアさんが鍵をかける。


シャルとミュウも連れてシア達孤児院の子たちと昼食を食べる為に移動を始めるのだった。

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