第4話 ポーションと教会
ポーション職人と勘違いされたけど、生活する為にもポーション職人と思われたほうが都合の良い気がする。
大金を稼がなくても、当面はこの世界の常識を知ることを優先すべきだ。
その為にもポーションに関する知識は必要なので、色々聞いてみよう。
「まず聞きたいのはポーションの品質は、そちらのポーションが普通なのでしょうか?」
先程セバスさんが出してくれた、テーブルの上のポーションを指差して聞いてみる。
「そちらのポーションは、一昨日に教会から納品されたもので、品質的に良いと思われるものになります」
ええっ、品質的に良いのぉ。
衝撃的な事実に驚きで混乱してしまう。そんな自分を見て、ハロルド様は楽しそうに話し始める。
「どうじゃ、アタルが非常識だと理解できたか? プッハッハッハ」
本来の下級ポーションの4割しか効果が無いのに……。
「……あれは腐りやすくありませんか? どれくらいの期間…?」
予想外の事実に質問と言うよりも、独り言のような呟きになってしまった。そんな自分を見かねたレベッカ夫人が説明してくれる。
「基本的な事を説明するわね。ポーションは基本的に教会が独占しているのよ。作成できる職人もレシピも教会が独占しているわ。
一部の大貴族や王家にはポーションを作成できる者を抱えてることもあるけど、レシピは秘められているのよ」
ポーションは教会がほぼ独占している状況なのか。
「私がポーションを作って売るのはダメという事ですかぁ」
「う~ん、ダメではないわよ。別に法で規制しているわけでもないしね。でも、…堂々と売り始めたら命が狙われそうねぇ」
そんな怖い話を、頬に指を当て、小首を傾げながら話すのは止めてくださ~い。
レベッカ夫人はお幾つなのかな?
いや、今はそんな事より確認すべきことがたくさんある。
「例えば、領と言うか役所なんかでたくさんポーションを購入してますよね。それを私が代わりに納品すると教会は売れなくなる。すると困る人が出るのかなぁ」
あの駄女神にこの世界に放り込まれたとはいえ、良くしてくれた神様もいたしなぁ。その神様に敵対するのは、さすがにまずいのかぁ。
「教会は困らぬよ。贅沢するために何でも金を取ろうとする奴らじゃ。都合が悪くなると神を持ち出すだけの愚か者じゃ」
それが事実なら良いのだけど……。
その時頭の中で「ピコン!」と音が聞こえた。まさかこのタイミングで来るとは思わなかったよ。
視界の下のほうに、
『教会など、神の事など考えていない馬鹿共の集まりじゃ!』
おうふ、確かに一行神託はこんな感じになるけど……。
『私は監視されているのかなぁ?』
神託に返信してみました。
『い、いや、先日の死にそうなことがあったから……』
今はそのことを追求するのは止めておこう。
それなら遠慮なく教会と争っても問題ないよね。
神託や色々考えこんでいる私を見て、ハロルド様が話を始める。
「アタルはやはり教会と揉めたくはないかのぉ。しかし、やつらはむかし異世界から召喚された聖女様の考えを踏みにじっておるのじゃ」
「それはどういうことですか?」
「大昔は錬金ギルドがポーションを独占して、人々が高額のポーションを買うしかなかったのを、聖女様が教会でポーションを安く作って、人々に提供を始めたのじゃ。
安くポーションが手に入り、無駄に人が死なないように聖女様は努力されてのぅ。それが今では教会が古の錬金ギルドと同じことをしておる。
特にこの5年間でポーションの値段は3倍近くなってしまったのじゃ」
異世界から召喚した聖女?
何となく聞いたことがあるような……。私と同じ世界の人間だと…。
「う~ん、それなら遠慮は必要ないですね。じゃあ将来の事も考えてポーションを作成できる人間の育成も視野に入れたほうが良いかな? レシピや育成法の本でも作ってバラまいたら楽しいかも!」
「おぬしは意外に大胆なことを考えるのう。下手すると教会と全面戦争になるぞ」
「まあその辺は追々に水面下で動けば良いと思うし、あの神々を……神様を金儲けの道具に利用するのは許せないと思いますしね」
思わず神々の話をしそうになり焦った。
まあ、あの駄女神は如何でも良いけどね。
「そのとおりじゃな。しかし当面はアタルが目立たないように考えないとな」
標的にされたら怖いし。
「それではアタルさんは領にポーションを売ってくれるのかしら?」
まだ検討する事は色々あるかなぁ。
「少し検討させて貰えますか?」
おお、驚くほど2人が落胆している。あぁ、セバスさんも落胆してるよ!
「え~と、売りたいと思っていますが、そのぉ、バンブ水筒で売るのもどうかと……。容器をどうするのか、ポーションを作るのに必要な薬草をどうするのか、あとどれくらいの量を提供できるのか、そう言ったことを検討しないとご返事はできないし、住む所とか生活拠点も考えないとダメですよね」
「「「たしかに!」」」
だいぶ表情が明るくなって良かった。
「それに教会に極秘に進めないとダメよね……。そうねぇ、アタルさんは私の遠い親戚としましょう。私の遠い親戚なら、調べるのは相当時間が掛かるだろうし、貴族が良く使う手だから問題ないと思うわ。それに、暫くは屋敷にいても不思議じゃないし、護衛を付けても不自然じゃないし、良い案だと思うわ」
「それなら平民落ちしたと言っても、公爵家の血筋になりますの。滅多な事では手を出す者もおりませんので安心です」
「薬草は孤児院の子らが冒険者ギルドに卸していたはずじゃ。直接エルマイスター家で購入するようにすれば、孤児院も少し楽になるじゃろう」
「それでは、私のほうでそのように調整しておきます」
「うむ、頼むぞ、セバス」
「では、ポーションの買取価格は金貨5枚にしましょうか?」
「それぐらいが妥当じゃな」
なんか凄い勢いで話が決まっている気が……。
「あのぅ、買取価格はもっと安くするか、住む所の家賃と生活できる程度の給金で構いません。可能なら他にも欲しい素材なんかを貰えるほうが嬉しいかも」
なぜか驚いて私を見ているけど。
「ポーションの使い終わった瓶もお願いできれば……。少し要求しすぎました? ごめんなさい」
「ふう、アタルは本当に常識が無いようじゃのぉ」
「すみません。他にできる事があればやりますので……」
「「逆じゃ(よ)」」
「アタルさん。月にその水筒1本分で、今の要求はお釣りが出るのよ」
えっ、ええええっ!
「セバス、アタルに常識を教える人間を検討してくれ」
「そうね、専属の人が必要ね。護衛も専属で考えないと、色々な意味で問題があるわね」
なんか随分酷いこと言われている気がする……。
全員にダメだしされて、小さくなるアタルだった。
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