第四話 生まれ来る子供たちのために
さて、『神意』により将軍に選ばれた俺は、還俗して将軍宣下を受けるべく、
どうやら、義満さんの正室の甥で、『義』の偏諱を受けるほどのお気に入りだったんだそうだ。へー じゃあ、俺が将軍になってからもブイブイ言わせる為に今から手なずけようって魂胆なわけね。良くわかった。
これから、色々打ち合わせをする際にもこの家で行う事になるわけだから、その内容も使用人や間諜通じて筒抜けになるってことだね。だったら、ここにいる間は大人しくしておこう。
歴史的には最初から吹っ飛ばすのが『義教』の流儀なのかもしれないが、俺は百まで生きるつもりなので、そんなことは考えない。精々、今の瞬間を楽しんでおこうかと思う。
「失礼いたします」
「……ああすまない、こんな頭の男の相手をさせて」
「…生え際がとても可愛らしいです。ヒヨコみたいで……」
確かにヒヨコは可愛いが、あれは白い綿毛や黄色毛でおおわれているからであって、黒い中途半端な伸び放題の髪は見苦しいと思うの。髷を結えるまで伸ばすのは大変そうだから、今早急に『
羅城門の時代から、死人の髪で鬘を作る話があるんだから、この時代だって鬘くらいあるだろ? 「髷を結えるまで将軍宣下は先延ばし」とか言われる前に、鬘を用意させてるんだよ。禿げじゃねぇ、剃ってただけだ!! あと、デコが広いだけだよ☆
「お茶でございます」
「そこは遠いな。もう少し近くに来なさい」
「……いいえ、私はここで十分です」
いやいや
秀才坊主の魔法使いと、血統書付きの気が強い女が合うわけないよな。義持兄の正室の姪だから、俺と彼女は叔父姪の関係でもある。そう考えると、かなり近親婚なんだな。
因みに、義満親父と義持兄は姉と妹をそれぞれ正室にしているから、義持兄は叔母と結婚したことになる。という事は、母方で考えると従兄妹という事になるのかな。それならセーフか……セーフじゃないかギリギリのライン。まあ、マザコンなら母親似の女がいいかもしれない。義政! お前だよ!!
少女の頃は仲悪かったし、年上の側室にぞっこんだったよなあのヒキニート将軍。趣味の世界で生きてる男。絶対マザコンだと思うの。母親が兄貴が早世してガックリきたから可愛がってもらえなかったからかもな。バブりたくても将軍職に就いたからにはそうもいかんし。
と考えると、俺が赤松の禿げに殺されたのが悪かったんだろうな。そうだ、俺が悪い、それ以上に禿げが悪い。
「そうは言ってもな。跡継ぎを産むのがそなたの仕事。近づかねば、それも叶わないではないか」
ということで、将軍に宣下されちゃうと忙しくて子供を作る暇もなくなるかもしれないし、あと、体を馴染ませるってのも大事なんだよ。さて、この魔法使いである俺が一日も早く立派なお父さんになる為に、明るいうちから協力してもらわないといけないんだよね。
「……どうしてもですか……」
「子供産まないと、尼寺に追い出されることになるがいいのか?多分、妹を側室にしろってお前の父親や兄貴が言い始めるぞ」
「……」
多分、姉と妹で性格が若干違っていたか、次女は調子がいいって感じだったんだろうな。姉は、見た目も中身も気が強く寄せ付けない感じだったけど、妹はその辺上手く隠していた……子供を産むまでは。
だって、日野姉妹って歴史的には正親町三条の姫様に負けてるじゃない?それに、来年の今頃には女児を出産しているんだよね。
「男の子を生んでくれると助かる。俺もそう長生きできるわけじゃないから、早く産んで大事に育ててほしい」
「……わ、わかりました。私も日野の娘、立派な男児を産んで見せます」
ということで、これから今日の第一ラウンドが始まります。そりゃ、一日三回食後に必ずですわよ。誰、この時代は二食とか言ってる人は☆
さて、俺たちは段々相性も良くなり、夫婦仲も悪くないと思う。あれだ、宗子さんは『ツンデレ御台様』だったんだよ。まあ、悪役令嬢風ではあるが、実は言い方がきついだけで、優しいところもちゃんとある良い子だった。
多分、秀才坊主は
そういう意味で、日野家の娘たちは公家の中では向いていたのだろう。でも、公家の世界の足の引っ張り合い、笑顔で接しつつ陰に回って蹴落とし合う世界の女とはちょっと違うんだよね。はっきりものを言い過ぎると、傷つく事だってあるんだからねグスン。
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