第2話 幼少期



 乙女ゲームの世界に転生した私は、たった今断罪されたところだった。


 それも、大人しく、無抵抗に、何も言わずにだ。


 なぜ何もしなかったのか?

 それは、後の復讐のためだ。


 ここで中途半端に抵抗してしまうと、後で見返す時の満足感が薄れてしまう。


 それに無力で何もできない女を演じておかないと、復讐に動く時に、彼等に見張られてうっとおしいからだ。


 だから、私はその断罪を受け入れる。


「以上述べた通りだ、婚約破棄する! 自分のした事を悔いて生きるんだな!」


 私はしおらしく頷いた。


 けれど、瞳には決して消えない復讐の炎を宿していた。





 乙女ゲーム「明日の幸福」には様々な攻略対象がいる。

 俺様系に、ツンデレ、甘えん坊系といった、乙女心をくすぐるようなキラキラしいキャラクター達が。


 私はその「明日の幸福」をやりこんでいたので、転生したと知った時はものすごく嬉しかった。

 大好きなキャラクター達と同じ世界にいられるのだ。夢のような心地になったのを昨日の事のように覚えている。


 けれど、まさか自分の立場が、悪役令嬢だったとは思わなかった。

 鏡で自分の顔を見て、愕然とした。その時の落ちこみようは、使用人から「わずか数時間で何があったんですか!」「いつも高慢ちきで天狗鼻になっているあのお嬢様に!」と驚かれるくらいだった。やかましい。


 まあ、それぐらいショックな出来事だったのは確か。

 それでも、私は現実を受け入れて精一杯頑張ろうと思った。


 だから、立ち直った私は、これからの過ごし方を考えたのだ。


「明日の幸福」には悪役令嬢が断罪されるストーリーがある。そのため、破滅しないようにしたいと思って、細心の注意を払って過ごす事に決めただ。


 誰かに辛くあたったりせず、いつも笑顔を絶やさず前向きに。


「えっ、氷結の少女と言われたあのお嬢様が笑顔? いてっ(脛をけった)」


 自分がしでかした事には、素直に謝罪し、誰かのせいには決してしない。


「えっ、あの傲慢令嬢がごめんなさい? あっ、もしかして何かそういう新しい遊び? ぐふっ(どてっ腹を殴った)」


 勉強もおろそかにせず、運動だってそこそここなした。


「えっ、(略)」


 けれどある日、そんな努力が無駄になってしまうような出来事が起こったのだ。


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