俺は「1」になるだけでしょう?
10月18日 晴れ
もう希望が見えない。
俺は生きていても仕方ない。
毎日楽しくない。
過去のことを思い出すとつらい。
生まれたくなかったのに、どうして俺は生まれてきたんだろう。
生まれなければこんなに苦しいことなんてなかったのに。
10月23日 曇り
死ぬ方法を1日中探していた。
死ぬのは怖くないと思っていたけど、実際に自分が本気で死のうとすると恐ろしく思うし、悲しくて涙が止まらなくなる。
死んだら俺はどうなるんだろう。
死んだあと、女手一つで育ててくれた母親はどうなってしまうのだろう。
ちゃんと生活していけるのだろうか。
母を遺していくことは本当に心苦しい。
でも、もう俺は限界だ。
10月30日 晴れ
「もう少し生きていこう」「もう少しだけ」といつも考えてしまう。
「明日でも遅くない」と思うと、俺はやっぱり死にたくないんだなって思う時はある。
でも死にたい気持ちの方が強い。
俺は持病もあるし、身体も良くない。
仕事に行ってたけど、みんな俺のことを馬鹿にするし、冷たい言葉をつきつけてくる。
どこに行ってもこうなのかなと思うと、もう耐えられないんだ。
でも、もう随分歳をとってしまった母は毎日必死に仕事に行ってお金を稼いでいる。
俺は本当に情けないやつだ。
11月3日 曇り
誰ともかかわりたくない。
誰かと関わっても、虚しくて悲しい思いをするだけだ。
別に受け入れてほしいわけじゃないし、放っておいてほしいけど、社会に出ると集団行動を強いられる。
みんなが俺と関わりたくないのと同じく、俺もみんなと関わりたくない。
苦痛だ。
唯一関わりがあるのは母と恋人だけだ。
俺の恋人は病気でずっと入院していて自由に会うことができない。あの子だけは俺のことを笑ったりしないし、責めたりしないし、こんな俺のこと多少は好いてくれてる。
母も、恋人も、遺していくのは心苦しい。でも俺は大切な人の為に頑張ることができない。
裏切られるのが怖いからだ。
もうこれ以上、俺は傷つきたくない。
俺の恋人は今もずっと戦っているのに。
俺は俺で自分の持病と戦った。
でも、もう楽になりたい。
11月10日 雨
死ぬ理由を探すのと同じくらい生きる理由を探している。
「アニメの続きが気になるから」とか「恋人のお見舞いに行くから」とか、そんな大したことない理由で俺は死ぬのを先延ばしにしている。
毎日毎日死にたいって思ってるのに、毎日毎日生きたいって思ってる。
当然のように生きるってことができない。
生きているだけでつらい。
俺が幸せなのは眠っているときだけだ。
夢の中では悩みや死にたいという気持ちから解放される。
世の中では生きたくても生きられない人もいるし、死にたくても死ねない人もいる。
不公平だと思う。
恋人の病気も、俺がもらえるなら俺がもらうのに。
神がいるとしたら本当に意地悪だ。
11月15日 晴れ
この世について素晴らしいもののように報道させて、綺麗な部分しか映さない。
でも裏側って本当に耳を塞ぎたくなるような、目を覆いたくなるようなことばかりに思う。
ニュースで流れる事故とか事件は表面的な話しかしない。
その裏側に消えていく人たちのことは、ただの自殺者は数字の「1」にしかならない。
俺はその「1」になって消えるだけだ。
どれだけ悩んでも、どれだけつらい思いしても、どれだけ苦しい思いしても「1」にしかならない。
毎日毎日、理不尽な理由で人間は死んでいくのに、知られることもないままだ。
追い詰められた人が自分の想いをしたためて死んだとしても、自分が命を賭して伝えた言葉だとしても、誰にも届かないまま死んでいく。
有名人が死んだ時だけ報道するけど……有名人だってただの「1」なのに。
命は平等だって言うけど、全然平等じゃない。
12月21日 晴れ
死ねないままもう今年が終わってしまう。
死ぬことばかり考えながら生きるのは本当につらいが、今日は嬉しいことがあった。
母と恋人に「誕生日おめでとう」と言われたことだ。
それが本当に嬉しかった。
たったそれだけのことだったが生きてて良かったなとすら思った。
恋人には俺は自殺しようとしているということは伝えていない。
あの優しい笑顔を思い出すと涙が出てくる。
助けてほしい。
誰にそう言えばいいのか分からない。
それに、誰かに言っても何も解決しないと思うと、絶望しかない。
母も恋人も俺の身体のことを心配してくれる。きっと俺が死んだら悲しむはずだ。
悲しませたくないが、どうしても生きていることが苦痛に感じる。
どうしたらいいかわからない。
1月5日 雪
結局年が明けてしまった。
最近、母親に対して親孝行をすることが多くなった。
一緒に買い物に行ったり、肩叩きをしたり、一緒に映画を観たり。
俺が仕事に行ってた頃はずっとイライラして親孝行なんてしてる余裕がなかった。
親孝行をするたびに「俺はこの人を置いて死ぬのか」とつらくなってくる。
何をしていてもつらい。
何もしなくてもつらいし、何かしていてもつらい。
恋人のお見舞いに行っても、笑っている顔を見ているとつらい。
やっぱり俺、生きていたいんだろうな……。
でも、この世のどこにも自分の居場所がない。
1月29日 晴れ
身の回りのものの整理をし始めた。
し始めたとは言っても、3時間くらい片付けたら終わった。
死なない理由探しの「死なない理由」がどんどん減っていく。
死なない理由を探すのは大変だ。
でもそれ以上に、生きていく理由は見つけられない。
もうずっとずっと生きている理由を探していたけど、やっぱり見つからない。
病気の恋人に会ったときは「なんとかしてあげたい」と思って色々したけど、結局俺がどうこうできることはなかった。
それでも、俺の前では笑ってくれる。
でも、俺はあの笑顔を守ってあげられない。
弱い俺で本当にごめん。
2月11日 雪
恋人に会いに行けない。
もうすぐ死ぬと思うと、なかなか予定が立てられずに会いに行けない。
外に1歩出るのも億劫に感じる。
何もする気が起きない。
ただ作業のように食事をして寝るの繰り返しだ。
どんどん後がなくなっていく。
3月1日 曇
一人で悩んでいても仕方ないと思い、俺は『命の電話』にかけてみた。
「死にたい」という気持ちを他人に話すのは初めてだ。知らない相手だから気軽に話せるというのもあるかもしれない。
と、思ったのだが……
「あなたの気持ちは分かります。つらいですよね」
「もっと前向きに考えましょうよ」
「死んだっていいことないですよ。もっと肩の力を抜いて」
「みんなつらいんですよ。あなただけじゃないんです」
というような話をされた。
俺が過度の期待をしていたというのもあったが、酷く落胆した。
やはり、死にたいと思っていない人間が、死にたいと思っている人の気持ちが解るわけがない。
それに、何十人もの「死にたい」を毎日聞いていたら1人1人がぞんざいな扱いになっても無理はない。
俺が馬鹿だった。
3月25日 晴れ
年があけて初めて恋人に会いに行った。
恋人は元気そうだった。
もう3月なのに年明け初めて会ったから「あけましておめでとう」と言って笑っていた。
人生の最期、心から好きになれた人と恋人でいられて幸せだと思う。
恋人にフラれて自殺したり、相手を殺したりする人もいるけど、その人たちと比較しても本当に幸せなんだなと解る。
でも、希死念慮というのは幸福度とは関係ないように思う。
強迫観念は幸福度とは関係ない。
幸せなうちに死にたいという気持ちが強いからだ。
4月6日 晴れ
一度は枯れてしまった花の芽が再び生えてきた。
恋人に会った頃に買った花だったので枯れてしまって悲しかったが、再び芽が出てきたのは本当に嬉しかった。
俺もこんなふうにやり直すことができるだろうか。
恋人に花の話をしたとき、別段興味はなさそうだったので1度しか話をしていなかったが、それを憶えていてくれて話題に出してくれたことがあった。
嬉しかった。
そんな些細な事で幸せを感じることができるのに。
でも、些細なことで幸せを感じられる裏返しで、些細なことで苦痛を感じやすいのだと思う。
荊を身体中に巻き付けて生きているような感じがする。少し動くだけで棘が身体を切り裂いて痛い。
弱い生き物は自然淘汰されていくのが普通だから、俺が死んでいくのも普通のことなのかな。
4月27日 雨
これが、最期の日記になると思う。
俺は、恋人や母と接するうちに少し前向きになって、改めて仕事に復帰することにしたんだ。
でも……職場に復帰した俺への風当たりは強かった。
「忙しい時期に休みやがって」というような感じだ。
俺の居場所はもうなかったんだ。
俺は「そっか」と思った。
別に、不貞腐れたとか、そういう事じゃない。
「もしかしたら希望があるかも」という希望がすがすがしいほど砕け散り、俺は気分がいいんだ。
もうこの世に何の未練もなくなった。
俺の隣には毒の瓶が置いてある。ただこれを飲むだけだ。
最期に母と恋人へ遺書を書こうと思う。
「母へ
突然、何の前触れもなくごめん。
俺がいなくても生きていける? 俺、沢山親不孝したから、罪滅ぼしみたいに親孝行したりしたんだよ。俺、不幸せだって思ってたけど、母さんの子供で良かったよ。親の愛情ってなかなか気づかないけど、家事して仕事行って家事して……弁当も作ってくれて。ケンカしたこともあったけど、本当にごめん。いつも朝早く起きてお弁当つくってくれてたのに。恨んだことも沢山あったし、嫌いなところも好きなところもあるけど、家族なんだなって思う。今までありがとう。俺は多分幸せだった。俺、普段照れ臭いから言わないけど、感謝してるんだ。ありがとう。先立ってごめんな」
「最愛の人へ
俺が君に言えることはただ“愛してる”っていうことだけだ。俺は君以外の人に、君に対して抱く気持ちを持つことができない。君は私の最愛の人なんだ。他の人をこんなに深く愛したことはない。お互いに問題が山積みだけど、それでも俺らはなんとなく上手くやっていけそうだと思ってるんだよ。君は俺の病状を知らなかったとは思うけど、こんな俺を知ったら幻滅するかもしれない。退院するまで待っていられなくてごめん。愛しているよ」
今、その毒を飲み干した。
これでもう俺は死ぬ。
多分30分くらいしたら俺の身体は痺れ始めて徐々に動かなくなるだろう。
悲しい気持ちで終わりを迎えるのは虚しい。
俺は、本当に幸せな人生だったと思う。
なんだか、舌が痺れてきた気がすt
ゆびもしびrtきあ
さyなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
***
「本年度の自殺者のは5万7521人です。前年比から自殺の増加割合が急増症しています。一人で悩まず、『命の電話』へお電話ください」
END
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