余分なものは捨てた方がいいでしょう?
俺は、手を繋いでほしいだけだ。
***
「大丈夫、大丈夫だから」
「いやぁあああああああっ!!!」
泣き叫ぶ女性の腕に、ノコギリをかけた。
女性は一層に泣き叫んでいたが、俺はしっかりと女性と手を繋いで、台の上の両手を一気に切り落とした。
ノコギリで切り落としたので肉片と血が飛び散って、辺り一面は血まみれになっていた。
ここは田舎の山奥の廃村だ。誰もこんな場所に来ない。いくら叫んでも無駄だ。
その廃村に俺は機材を買い集めて運び込んでいた。そう大層な機材はない。人を縛り付ける為の柱と、縄、ノコギリ、血を流す為の大量の水、鉄パイプ、お湯を沸かす為のカセットコンロ、鍋、そのくらいだ。
「あぁ……汚れちゃったね……すぐに洗うから……」
俺は繋いでいる手に話しかけた。
繋いでいる手も血まみれになっているし、切断面はギザギザになってしまっていたので後で整えなければならない。
「あぁあああぁあああっ!!!」
うるさいなぁ……。
俺は叫び散している“ノコリモノ”に向かって近くに置いていた鉄パイプを拾い、振り下ろした。何度か鉄パイプで頭を殴り続けたら“ノコリモノ”は静かになった。
カランカラン……
俺は鉄パイプをその辺に捨てて、しっかりと女性の手を握りしめた。
水をカセットコンロで沸せていたので、そのお湯で丁寧に女性の手の血を洗う。水で洗うとすぐに体温が奪われてしまうから、俺はいつもお湯で洗うことにしている。
綺麗になったところで水分をふき取り、その柔らかい感触を再確認していた。
俺は恋人つなぎをしてみたり、握手するように手を繋いでみたり、色々な手のつなぎ方をしてみた。
しばらくそうやっていたが、俺はいつまでもそうして楽しんでいる訳にもいかずに“ノコリモノ”の方を処理することにした。
「はぁ…………めんどくさいな……ちょっと待っててね」
一時的に手を置いて、俺は“ノコリモノ”をバラバラにしてコンパクトにして袋を何重かにして詰めて、車に乗せた。
血抜きした後の血を水で流した。周りが地面なので、そんなに血も目立たない。
縄も、機材一式も回収して車に乗せた。
辺りは真っ暗で人の気配は全くない。
俺は一通り片付けを済ませた後、最後に女性の手を丁寧にエスコートした。
「ごめんね。お待たせ。今から帰るからね」
俺の女性の手を腿の上に置いた。
「あんなうるさい下品な女から離れられて良かったね。俺、大事にするからね。まだ女性の扱いに慣れてなくて、緊張しちゃって……。一緒に買い物に行ったり、一緒に映画に行ったりしようね。指輪も買ってあげる。マッサージもするし、俺、ネイルも勉強してできるようになるからね。日焼けしたくないだろうし、毎日日焼け止め塗ってあげるね。お風呂も一緒に入ろうね。すごく楽しみ。俺、あんまり女性経験がないからさ、至らないこともあると思うけど、頑張るからね」
運転している間、俺は女性の手に話しかけ続けた。
「え? 俺の前の女に嫉妬してるの? はははははは……嫉妬深いんだね。前の彼女はシャイであんまり俺と手を繋いでくれなかったんだけど、俺は手をずっと繋いでいたいんだよね。やっぱり女性の手って安心するよ。俺さ……あ、ごめんね。君の話を全然聞けなくて。でも、やっぱりお互い自分たちのことを良く知り合っていい関係を築けたらって思うからさ、まず俺のことを知ってほしいんだよね。まぁでも、運転中の片手間で話すのはちょっとなぁ……ホテルに帰ってゆっくりワインでも飲みながら話を聞いてくれないかな?」
楽しく“会話”しながら運転し、俺は田舎の墓地にきた。夜の田舎の墓地は誰もおらず、静まり返っている。誰も手入れしていなさそうな墓を見つけ、その墓の納骨する場所を開き、“ノコリモノ”をその中に押し込んで蓋を閉めた。
袋を何重かにしているし、袋の中に消臭剤を入れておいたから暫くばれないだろう。
俺は車に戻り、助手席においてあった女性の手に微笑みかけた。
「邪魔なものは始末したから、それじゃ行こうか。俺の家に連れていきたいんだけど、今日はホテルなんだ。結構ここから俺の家遠いんだよね」
車の運転をしている最中に何度も俺は女性の手を見つめた。
「そう言えばまだ自己紹介もしてなかったね。俺は
そんな“会話”をしている中、ホテルについたのでミキを鞄の中に丁寧に入れた。車を駐車場に停め、自分の荷物を持つ。
2階建ての古いホテルだ。監視カメラなどもないし、身分証の提示もない。
「部屋まで窮屈な思いさせちゃうけど、ごめんね」
俺はフロントで鍵をもらい、部屋に向かった。
部屋についてすぐに俺は鞄からミキを取り出し、机の上に丁寧に置いた。
「ちょっと待っててね。ワインがあるんだ。ちゃんと2つグラスあるよ」
ワインのコルクをコルク抜きで抜いて、用意していたワイングラスに注いだ。
ミキにグラスを持たせて、俺もグラスを持った。
「それじゃ、乾杯」
キン……
グラスを交わして俺はワインを口に含んだ。その芳醇な香りと味わいが口の中いっぱいに広がって、俺は笑顔でグラスを置いた。
「それでね、俺の過去の話を聞いてくれない? 俺ね……小さい頃に母親が……あ、母子家庭なんだけどさ。それで、兄弟が多くてさ。いっつも俺は母親に手を繋いでもらえなかったんだよね。1個したの弟と、3つ下の妹ばっかりが母の手を占領しててさ。俺、他の親子が手を繋いで家に帰ってるのにすごく憧れてたのにさ。それに、俺の母親はすっごい手が綺麗な人だったんだ。顔は全然だったんだけど、手がすごく綺麗だった。家事とか色々してたけど、本当に綺麗だったよ。そうしたらさ、俺の母親が事故で他界したんだよ。他界したときに、最後のお別れで母親の手触ったんだけど……握り返してくれなくてさ。それがすごく悲しくて……。それから大人になってさ、女性と付き合うこともあったんだけど、なかなか手を繋いでくれなくて。俺、女性の手が好きなんだよね。綺麗な手の人を好きになるんだ。俺の手ってゴツゴツしてる男の手じゃん? だから俺と手つないでくれないのかなって思って……え? そんなことないって? ありがとう……だけど……やっぱり綺麗じゃないって思うんだ…………顔の整形ってできるけどさ……手の整形ってできないじゃん? 手が綺麗って才能だと思うんだよね。でも、俺みたいな冴えない男と、手の綺麗な女性は付き合ってくれないんだ」
悲しい過去を思い出し、俺は暗い顔でミキの指を見つめ、そっとミキに手を重ねた。
「でも俺はさ……気づいたんだ。俺はその女性を好きになってた訳じゃないんだって。俺はその女性の手が好きなんだ。俺と手を繋いでくれる手が好きなんだ。手以外は邪魔なものなんだ。だってそうでしょ? 俺は手が好きなのであってその女性が好きなわけじゃないんだよ。手が綺麗だからって性格がいいとは限らないし、顔がいいとは限らないし、せっかく手が綺麗なのにもったいないじゃない? だったら手を切り離して余分な物を捨てちゃった方がいいよね? ミキもそう思うでしょ? それに余計なものがついてるとうるさくってさ。俺、うるさい女は苦手なんだ」
俺はミキの手を握り。その指をさすった。
ミキは何も言わない。
静かに俺の話を聞いてくれているミキに対して、俺は微笑みながら手をさすった。
「ミキの指だと……指のサイズは10号かな? ミキは金、銀、プラチナ、どの指輪がいい? ……ダイヤモンド? あぁ……そうか……結構高いけど、俺、頑張って用意するよ」
ミキと指を絡めて手を繋ぐと、ミキも俺の手を握り返してくれた。
「明日俺の家に招待するね。寝る前に化粧水と乳液をつけてあげるからね」
ミキの腕を引き寄せ、俺は手の甲にキスした。
***
俺はミキを連れて色々な場所へ行った。
一緒に映画に行ったり、観光に行ったり、指輪を買ったりしてミキを大切にした。
そうして楽しい時間が2日、3日たった頃、ミキから少し異臭がし始め、綺麗な形が崩れてきたように感じたので、俺はミキを自宅の冷凍室に入れた。
自宅の冷凍室を見ると、前の女性6人の手が入っていた。ミキは7人目だ。
以前のアヤカ、マリ、サヤカ、マユコ、カエデ、ユミにもそれぞれ指輪を与えていた。
いつ見ても彼女たちは美しい。
ここに入りきらなくなったら、もっと大きな冷凍庫を買わないとなぁと俺は考えた。そうなったらもう少し広い家に引越ししなければならない。
田舎で倉庫を借りてそこに飾るのも悪くないと考えていた。
「また新しい子を探しに行かないと……」
最近は便利だ。
自分の手の写っている写真をSNSに登校しているのを見て、手が綺麗かどうかを見定めることができる。
気に入った子がいたら発信しているSNSから通っている学校、職場、住所を特定できるし、お気に入りの方法だ。
人によっては家の前で撮っている写真もあるし、学校の制服で撮っている写真もある。特定するのはそれほど難しいことじゃない。
「馬鹿な女でも切り離せばいい女になれる」
俺は次のターゲットを探し始めた。
***
「緊急ニュースです。本日、日本各地の墓地でバラバラの死体が発見された事件で、栃木県足利市在住、接客業、
「取り調べに対し、“手を繋ぎたかったから”などと供述しているようです」
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます