第7話 お人好し 復讐の片棒を担ぐコトになる

 はー。ヤバかった。

 危うく前髪を永久脱毛されるトコロだった。


 ウマの押さえ込みとナスターシャの脱毛責めから解放されて俺はココロの底から安堵していた。

 ナスターシャは俺の心理など露知らずドヤ顔してやがる。

 マウントでも取ったつもりかっ?

 俺は弱みなんて見せませんよっ。


「で? 君の話というのは?」


「復讐よ」


 え? 復讐? えらく厳しい目付きで言うんだな。


「……それは誰にだい? その片棒をかつぐのが俺じゃなきゃならない理由は?」


 数多あまたの冒険者達の中から俺を選ぶなんて、やっぱり俺に惚れたから? 惚れちゃったからかなっ?

 かりそめとは言え、魔王城から二週間も共に生活してきたからな。


「そんなの、あなたがぼっちだからに決まってるでしょ。家族はいないって言ってたし、死んだって誰も気にも止めないからよ。

 それ以外の理由なんてある?」


 ぼっちって言うなっ。ソロだ、ソロっ!


「……まあいい。それで? 誰に復讐を?」


 俺はオマエに復讐しようと思ってるんだがなっ。


「お姉様よ」


「お姉様、って。ファレリア王女の事か? それはまたどうして?」


「なぜ私が魔王に捕らわれたかわかる?

 答えは、お姉様が私を魔王に売ったからよ。

 魔王ヘルディザードにさらわれた時、王国騎士団が私を助けに来なかったのは、お姉様が騎士団を足止めしたから。

 裏付けは取ってあるからデタラメなんかじゃ無いわ」


 はー。よくあるお家騒動的なアレか。て言うか姉妹ゲンカか?

 めんどくさいし、きな臭い。

 正直、関わりたくはないなあ。


 妹を魔王に売った、ってのはなかなかにハードな話だが、こうして無事に生きてるからな。

 ファレリア王女もバカじゃないだろうから、同じ手口は使わないんじゃないかな?


「ファレリア王女は婚約が決まっているだろう?

 君をおとしめて何の得が?」


「それよ」


 ん? どれ?


「お姉様は野心家なのよ。ウォールハイルの女王の座を狙ってるの。知ってると思うけど世継ぎはお姉様と私の二人だけ。お姉様の婚約者はお婿さんでしょ、つまり!

 王国の実権を握るのはお姉様なの。

 お父様が亡くなった時の相続を全部自分のモノにするには、私の存在が邪魔なのよ。

 私を亡きモノにして全てを手に入れようと企んでいるのよ!」


 ファレリア王女がナスターシャを魔王に売ったってのは、莫大な財産目当てでもあるってコトか。

 

 はー。ますます面倒臭いなあ。

 金持ちなのに金欲しがるってなんでだろうな?庶民出の俺には全く理解出来ない。


「魔王に私を売って自分はのうのうと生きるなんて許せない!

 お姉様の悪事をばらして婚約を破談させて、全国民の前で赤っ恥をかかせる!

 これが私のお姉様への復讐なのよ!」


 あのなっ。

 なんで俺がオマエの復讐の片棒かつがにゃならんのじゃいっ。リスク高過ぎだろっ!

 そんなの一人でやってくれっ。

 俺を巻き込むのはヤメロっ!


「ナスターシャ。何があろうと姉君を不幸におとしめるなんて感心できる事ではないな。

 君はこうして生きている。

 姉君を許し、これからの幸せを考えた方が君の未来の為になると思うが?」


 おおっ! 我ながらカッコいい!

 クールに決まったかなっ?

 ちょっと説教臭かったかなっ?


「なによ年上ぶっちゃって」


 俺は年上だっ。オマエより2年も人生の先輩なんだからなっ。


「ドーテーのクセに」


 なぬっ!? なんで知って……!?

 イヤイヤ待て待て、知るハズがない。

 あてずっぽうで言ってるだけだなこのコムスメはっ。

 オトナのお兄さんにカマかけるとはなかなかのものだと褒めてやろう。

 俺はクールにナスターシャの提案を断ってやるのだっ。


「……とにかく。俺は君に協力できない。これ以上君に関わるとロクな事がない」


 って、聞いてる?

 ナスターシャは喋ってる俺を無視して、腰のカバンから何やら取り出して俺に手渡した。

 んん? なになに? 書簡かな?


『 国王命令書 』

 

 ほう。初めて見た。どれどれ?


『 上記、甲、ラルフと乙、ナスターシャの婚姻を認める。

 これを目にした甲は、即日、乙と夫婦の契約を交わす事。

 これは国王命令である。

 我が愛しき娘ナスターシャを泣かせるような事があれば、甲の首が宙を舞うと知れ。 

        

           ウォールハイル国王 』


 なんじゃいこれっ!? 

 メチャクチャじゃないかっ!?

 婚姻て、結婚だろ!?

 イヤイヤ待て待てちょっと待て。こんなデタラメあっていいワケが無いっ。

 ここはクールに冷静にっ。ココロの動揺を見せてはいけないっ!


「これが本物だという証拠は? もし偽造文書ならこれを書いた者は処刑されてもおかしくない内容だよ、ナスターシャ」


「なによ偉そうに。ドーテーのクセに」


 童貞、童貞ってもうっ!

 ……あれ? ナスターシャさん? もしかして童貞の意味をわかってらっしゃらないのではっ?


「ナスターシャ……童貞の意味を知ってて言ってるのか?」


「知ってるわよ。女なら処女ってコトでしょ。女の子にそんなコト言わせるなんてサイテーね」


 またもや冷たくて冷ややかでアイシーな目を向けるナスターシャ!

 そっ、そんな目で見るコト無いじゃないのっ!


「なっ、ナスターシャはどうなんだっ?

 処女なのかっ?」


 訊いてから俺はハッと息を飲んだが時すでに遅し。

 ナスターシャは道の端っこに落ちてるゴミクズ、いや、う○こ、イヤイヤ、そのう○こに涌くウジ虫でも見るような、冷たくアイシーで凍てつく目でただ一言こう言った。


「……死ねっ」


 ぐわはっ!

 カワイイ系の16歳女子から『死ね』頂きましたぁっ。

 こんな時って、頬を赤らめてねるとかじゃないのっ?

 俺はっ! 俺はあっ!

 そんなつもりじゃなかったのにいっ!

 16歳の美少女にっ! セクハラ発言するようなオトコじゃないんだあっ!

 

「とにかく! なんでもいいから私の言うことを聞きなさい! じゃないと、髪の毛全部むしりとって脱毛クリーム塗りたくるわよっ!」


 なんて高圧的で一方的でワガママなんだナスターシャっ!

 ツンツンじゃないかっ!


 魔王城から一緒に帰ってきた時はデレデレだったのに、変わり身早すぎだろ!

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