夏色

冬結 廿

君と僕と夏の海

「ねぇ...写真撮るの手伝ってくれない?」


と、私、星見ほしみ ゆめの幼馴染、佐野さの ひびきに頼まれていた。


「いいけど...なんの写真なの?」

「コンテストの写真なんだけど。テーマがあって...。今回のテーマが“エモい”なんだけど。」

「そうなんだ...。」

「うん、そうなの。それに伴って撮りたい写真がもう決まってて、それで君を誘ったの。」

「どんな感じの写真なの?」

「君が、白ワンピースを着て、海にいる写真なんだけど...。」

「...。ということは...。私が写真を撮られるの!?」

「うん。そう。いいかな?」

「いいけど...。本当に私でいいの?」

「そう。君がいいの。」

「え、あ、え?」


予想外のことを言われて頭の中が真っ白になって、顔が恥ずかしさで真っ赤になった気がする。顔が暑い。


ただ、よく考えてみると白ワンピース?私は持っていないし、当然彼も持っていないだろう。なので聞いてみることにした。


「写真さ、白ワンピース着るんでしょ、私持ってないよ。」

「うーん。今から買いに行こうか。」

「お金はどうするの?」

「...奢るよ。早めの誕生日プレゼント。」

「...ありがとう。」


ということで、白ワンピースを求め、洋服屋へ向かった。



いい感じの店を見つけて、店の中に入る。店の中は“おしゃれ”という言葉だけでは片付けられないほど、いい雰囲気のお店だった。


「うーん。」

「どう?いい感じ?」

「着た感じはあんまり変わんないなぁ。」

「どちらとも?」

「そうそう。どうだろう...。どっちがいいと思う?」

「俺に聞くのね...。」


そしてしばらく考える仕草をし、やがて...。


「うん。俺は右の方がいいかな。」

「オッケー。こっちだね。私もこっちがいいと思ってたんだ♪」

「じゃー。買うか。値段はどのくらい?」

「ちょっと待ってね...。えーと。...五万...四千...。え...嘘...。ごめんやっぱ変える...」

「いや、買うよ。」

「え...?本当に?」

「うん。買ってあげる。誕プレでもあるしね。」

「本当に?申し訳ない...。」

「そんなに負い目を感じなくても...。」

「いやー。...高いからさ。」

「いや、いいんだよ俺がやりたいって言ったことだし。」


といって、彼はレジに向かってしまった。慌てて私もついて行った。


「お願いします。」

「はい。...彼女さん。よかったですね、こんなにいいワンピース買ってもらって。彼氏さんにうまく着こなすのを見せてあげてくださいね♪」

「...は...はい...」

「...ありがとうございます」


店を出るときには、二人とも顔が真っ赤だったと思う。



「あ、お昼どうする?ここで食べる?」

「うん。...そうする。」


ということで、カフェに入り、お昼ご飯を食べる。各々食べたいものを頼み、今は待っている状態である。


「...本当に良かったの?」

「何が?」

「こんなに高いワンピースを買ったことだよ!五万もしたんだよ?」

「いや、よかったんだよ。これで。だって俺が頼んで手伝ってもらっているし、誕生日プレゼントとして買ったしさ。」

「本当に?大丈夫なの?」

「うん。顔を赤らめてるゆめちゃんも見れたし。」

「...うん。それは君もだよね?」

「あれー?そうだったかなー?」

「わざとらし(笑)」


そんな他愛のない会話をしていると頼んだ料理がきた。


そして、食べ終わって、店から出るとき。


「お会計お願いしますー。」

「はーい。.....ということで、合計千八百円になります。」

「はい。お願いします。」

「はい。ちょうどお預かりします。ありがとうございました。」

「はーい。ごちそうさまでしたー。」


と、私が何かをいう暇もなく彼が全部払ってしまった。


「ねぇ、なんで払ったの?」

「いいんじゃない。俺の方が高かったし。」

「そういうことじゃなくてさー。」

「じゃあ、何よ。」

「ワンピース買ってもらったからさ、お昼代くらい出そうと思ったんだよ。」

「うーん。いいや。じゃ、こうしよう。俺の誕生日プレゼントは、高いものにして。」

「え...?うーん。それなら...。」

「よし。成立だね。」


...と、なんかうまくまとめられてしまった。



「よし...着いた...。」


さっきのカフェから約三時間。海までやってきた。正直疲れ果てた。


「じゃ、俺はいい景色の場所を探すから。君は着替えといて。」

「...ここで?」

「多分心配していることはみられることだと思うけど...。大丈夫。この車にはカーテンが付いている。だからそれを閉めて。そうすれば見えないから。」


と言い残し、外に行ってしまった。が、みられる心配がないなら安心だ。たとえ幼馴染だとしても彼氏じゃないならあまり見せたくはない。いや、彼氏でもあまり見せる気はないけど。


一人になった車内でワンピースに着替える。着慣れない服は少々違和感があるが、いい感じに可愛い気がする。服がね。


ということで、車から出て、ひびき君を探す。すると、こっちを見て手を振っているひびき君が見えた。


「どう?いい感じ?」

「うん。バッチリ。」

「もうカメラアングルとか決めたから...。じゃ、裸足で海に入ってもらって。」

「えー。サンダルだめ?」

「だめ。というか今夏だしそこまで寒いとかないんじゃない?」

「冷たさじゃなくて...、波が嫌い。追い出すように流れるし。」

「あぁ...。なるほどなぁ。わかんないなぁ。」

「なんで?!」

「今でもその謎の価値観というか、変なモノの感じ方は健在してんだね。」

「えー。だめなの?」

「だめというか...君らしいなぁって。」

「そうやってまたー。」

「うん。可愛い。」

「だからさー(笑)。」

「なにー(笑)。よし。撮るよー。」

「というか冷静に考えて顔出しはしたくないんだけど。」

「大丈夫。背中向けて撮る感じだから。」

「それはそれでなぁ。はしゃいでる感じはなくていいの?」

「いいの。テーマはエモいだから。静かな方がいいでしょ。」

「なるほどなぁ。」

「あ、ちょうどいい感じだ。よし撮るよー。あっち向いてー。」


と、そんなふうにたくさん写真を撮った。


「...こんなもんかな。もういいよー。」

「はーい。どんな感じー?」

「いい感じじゃない?エモいかどうかはわかんないだけど。」

「え?わかんないの?」

「そうだよ?まぁいい感じにできたんじゃない?」


その写真は後ろ向きのワンピースを着た少女が海に軽く入り、夕日を見て、黄昏ている写真となった。


「うあー。疲れたー。足がー。」

「...あ、ラムネ飲む?」


と、ちょうど自販機から帰ってきたひびき君が言う。


「飲むー。買ってきてー。」

「いや、あるよ。...ほい。」

「うわぁ!いきなり投げないでよ...。」

「ごめんー!」

「...。」

「...。」

「...君はさ、なんで急にこんなことをしようと思ったの?」

「理由は特にないと言えば、嘘になるけど。まぁ後々、わかるんじゃない?」

「私は感謝しないとなぁ。こんなお高いワンピース買ってもらって、お昼も奢ってもらって。」

「いや。いいよ。これは俺が勝手に初めて、俺が、君を巻き込んじゃう形になっちゃっただけだから。」

「それでもだよ。私は君にお礼がしたいの。...だから。」


そこまで言って私は勇気を振り絞って、彼のほっぺにキスをした。


「だからこれが私からのお礼。」

「...」

「え?どうしたの?」

「いや、そんなことするとは思わなかった。」

「なにそれ(笑)」

「ありがとね(小声)」

「ん?なんか言った(笑)?」

「いやー。なにも?」

「君って本当に嘘下手(笑)」

「そう(笑)?」



そんなこんなで。コンテストの結果は準優勝だったらしい。でもそんなことはどうでもいい。


...彼が行方不明なのだ。連絡は来ないし、家にもいない。大学にもいなかった。


...でも行っていないところがあった。それはあの写真を撮った海。


慣れない車の運転をし海にやってきた。すると...不自然に置いてある、ラムネの空き瓶。なんと中身は紙が入っていた。その紙には“ゆめに向けて”と書いてあった。



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まず...こんなことに付き合わせて本当に申し訳ないと思っているよ。理由はあまりはっきり言わなかったのに、あんなに乗り気だったのがとっても情けないというか罪悪感を感じたの。

あぁ。理由なんだけど。端的に言えば、生きれなくなったんだよね。病気って言えばわかりやすい?だからお金は使うのが最後だから、たくさんつかわしてもらったし。写真を撮るのも最後に思い出を作りたかったんだよね。だから、一番好きで、近くで、親密なゆめちゃんにしたの。


だから、俺に恋をするのはいいけど。俺のことを忘れて、幸せになってください。それが俺に向けての最後で最高な誕生日プレゼントになります。

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読みながら、涙が流れてきた。最後は涙でぐしょぐしょで読んだ記憶すらなかった。


そっか。ごめんね。大変だったね。辛かったよね。たった一人で抱え込んで。そう読みながら、考えた。


うん。幸せになるよ。それが君が選んだ道だもんね。


「でも。いつになったらプレゼント渡せるかなぁ。」


と、私、佐野さの ゆめは口をこぼした。

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