第2章 京極正人 16
マンションを出て、京極はあたりをキョロキョロと見渡したが、とっくに飯塚の姿は見えなくなっていた。
「一体、どこへ行ったのだろう・・?でも・・まあいい。俺にはこれがあるからな・・。」
京極はポケットからスマホを取り出し、画面を見つめた。そこには地図と、飯塚の居場所を示すアイコンが動いている。
「向こうか・・・。」
京極は呟くと、飯塚がいる方向へと歩き始めた―。
その頃、飯塚は勇に呼び出されて東京拘置所の正門に来ていた。
(な、何なのよ・・・よりにもよって・・こんな場所に私を呼び出すなんて・・!)
飯塚の心臓は今にも飛び出してしまいそうなほど、ドキドキと早鐘を打っていた。
(恐らくあの男は・・・私が服役していた事実を知っているんだ。だから・・・わざわざ私をこんな場所に呼び出して・・!絶対ばらしたのは臼井さんに決まってる・・!)
飯塚はショルダーバックをギュッと握りしめ・・・・口を閉じて俯いていた。すると・・・。
「やあ、やっぱり来てくれたんだね~。」
軽薄そうな男の声が聞こえ、飯塚は顔を上げた。するとそこには・・ニヤニヤと笑みをたたえた勇が目の前に立っていたのだ。
「随分早く来てくれたんだね~嬉しいよ。君もそれほど早く俺に会いたかったって事かな?」
勇が嬉しそうに言うが、飯塚は嫌悪感で一杯だった。
(誰が・・・あんたみたいな男に早く会いたいと思うのよっ!)
飯塚は返事をしないでいると勇が言った。
「あれ~・・何で何も答えてくれないのかなぁ・・でも、まぁいいか・・・。どうだい?あの建物を見て・・懐かしいとは思わないかい?」
勇は背後にある東京拘置所を指さしながら言う。
「!」
それを聞いた飯塚の肩が思わずびくりと跳ねてしまった。
(やっぱり・・・知っていたんだ・・・!)
「・・どういうつもりなんですか・・?」
飯塚は俯きながら尋ねた。
「え?何?どういうつもりって?」
何処までもとぼけた言い方をする勇。
「どうしてですか・・・?折角・・罪を償って・・・うんと反省して出所してきたのに・・・まじめに働いて人生をやり直そうと考えていたのに・・どうして・・!」
飯塚は悔し気に声を荒げた。
「う~ん・・・別に大した理由は無いけど・・君の外見・・滅茶苦茶俺の好みのタイプなんだよね。だから時々2人きりで会って・・・俺の相手をしてくれればいいのさ?簡単なことだろう?そうすれば・・・俺も余計な話はしないし・・君は秘密をばらされることは無い。どうだ?別に悪い話じゃないだろう?」
「そ、そんな・・・!」
飯塚はその話を聞かされ、絶望的な思いで勇を見た。
「貴方は・・悪い話じゃないと言ってるけど・・何処が悪い話では無いんですか?こ、こんなの・・・単なる脅迫じゃないですかっ?!」
思わず涙目になって訴える。
「ふ~ん・・・そうか・・ならいいよ。君の事画像に収めて・・SNS
で拡散してもいいんだよ?」
その言葉に飯塚は青ざめた。
「ま、待って!そ、それだけはやめてっ!」
半ば悲鳴交じりに飯塚が叫ぶと。勇はニヤリと笑みを浮かべると言った。
「なら・・俺に付き合ってくれるよね?」
勇は飯塚の肩に腕を回すと耳元で囁いた。
「は、はい・・・。」
(駄目・・・もう逃げられない・・)
飯塚は絶望的な気持ちで頷いた。
「そうかい。なら・・行こうか?」
勇は飯塚の手をがっちりと握りしめると、速足で歩き始めた。その後ろをまるで連行されるようについていく飯塚。
(いや・・・!逃げたい・・・!どうしてこんな事に・・・っ!)
逃げられないことは十分に分かっていた。仮に・・無理やり手を振りほどけば逃げる事は可能かも知れないが・・それでは何の解決にもならないのだ。
飯塚はなすすべもなく・・勇に強く腕を握り締められたまま歩かされ・・やがて勇は足を止めた。
「着いたよ。」
俯いたまま歩いていた飯塚は顔を上げ・・・絶望的な表情を顔に浮かべる。
勇に連れて来られた場所は・・ファッションホテルだった―。
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