第2章 京極正人 17
「・・・。」
(そ、そんな・・・この人は本気で私の事を・・・)
飯塚は怖くて怖くてたまらなかった。隣に立つ勇も怖かったし、この後自分がどんな恐ろしい目に遭わされるかも分らないのだ。いつしか飯塚の足は恐怖でガクガク震えていた。
すると勇は再び飯塚の肩に腕を回してくると言った。
「何?もしかして震えちゃってるの?ハハハ・・・やっぱり君は可愛いね~・・大丈夫、乱暴な事は何もしないよ。たっぷり可愛がってあげるからさぁ・・。」
そして飯塚の耳元に熱い息を吹きかけてきた。
(い・・いや・・・!怖い・・誰か・・京極さん・・・っ!)
いつしか飯塚の目には涙が浮かび、心の中で京極に助けを求めていた。その時―。
「おい、お前・・・!そこで何をしている?彼女を離せっ!」
背後で鋭い声が上がり、飯塚と勇は同時に振り返った。するとそこに立っていたのは京極だったのだ。
(う・・嘘っ!な、何で京極さんがここに・・?どうして私の居場所が分ったの・・?!)
「あ~・・・何だ?貴様は・・・?!」
これからと言う処で飛んだ邪魔が入った勇はイライラした口調で京極を睨み付けた。
「俺か?俺は彼女の恋人だ。」
京極は顔色一つ変えずに言う。
(恋人・・・っ!)
飯塚はその言葉に驚いた。まさかこんな状況とはいえ、京極の口から恋人という台詞が飛び出してくるとは思ってもいなかった。
「はあ~・・恋人だって?ムショ帰りの女とお前・・付き合ってるのかよ?!」
(ムショ帰り・・・。)
その一言は飯塚の心を傷つけるには十分すぎる言葉だった。この勇と言う男は飯塚を
刑務所帰りの女だから何をしても構わないだろと言う気持ちで、ここまで連れてきたのだった。
しかし、京極は言う。
「それがどうした?だか彼女は反省し・・・刑期を全うしたんだ。むしろ俺にはお前の方が余程刑務所がお似合いな奴だと思っているけどな?」
「な・・何だとっ?!貴様・・・・っ!」
勇はギリギリと歯ぎしりしながら京極を視線だけで射殺しそうな目で睨み付けているが、京極はそれを涼しい瞳で受け止めている。
(そんな・・・あれが京極さんなの・・・?いつもとはまるで別人みたい・・それともあれこそが彼の本当の姿だったの・・?)
「とにかく・・・今すぐ彼女を離さないと・・・この画像を動画サイトに流すぞ?」
言いながら京極は自分のスマホを取り出し、映像を再生した。
『何?もしかして震えちゃってるの?ハハハ・・・やっぱり君は可愛いね~・・大丈夫、乱暴な事は何もしないよ。たっぷり可愛がってあげるからさぁ・・。』
そこには下卑た声で笑う勇の声と・・音声がはっきり流れている。そしてすでに飯塚の顔部分はモザイクがかかり、判別出来なくなっているが勇は顔がはっきり映像に映し出されている。
「この映像を見ただけで・・・明らかにお前が彼女を脅迫している様子が見て取れる。こんなものネットにあげれば・・あっという間にお前だと特定されて、世間にさらされるだろうなぁ・・・?」
京極は勇に映像を見せながら淡々と語る。
「クッ・・・・て、てめぇ・・よ、よくも・・!」
勇は飯塚を突き飛ばすように離した。
「キャッ!」
突き飛ばされた勢いで飯塚は地面に倒れてしまった。
「飯塚さんっ?!」
京極の焦る声が聞こえる。
「てめぇ・・!そのスマホを寄こせよっ!」
勇が拳で殴りかかろうとした時・・・。
「おいっ!お前・・!そこで何をしているっ?!」
タイミングよく警察が現れた。
(け・・警察・・っ!)
立ち上がった飯塚は咄嗟に顔を伏せた。
「く・・・ッ!!」
一方、勇はクルリと踵を返すと逃げるように走り去って行った。勇が去ると警察官は京極たちを振り返ると言った。
「大丈夫でしたか?この辺りは特に治安が悪く、パトロールが欠かせないんですよ。」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。」
京極は頭を下げてお礼を述べると警察官は笑みを浮かべて去って行った―。
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