第1章 安西航 18

 翌日―


この日の航は朝から大忙しだった。午前中は2ヵ所の民家でスズメバチの駆除の依頼が入っていた。

蜂の巣の駆除の仕事の後は、1人暮らしの老人の買い物が3件、午後からは常連客の老人宅で網戸張替えや、電球の交換・・・等々を精力的にこなした。

そして夕方6時に航はフラフラになりながら単車を引っ張って事務所に戻ってきたのである。


「ふぅ~・・今日も疲れたぜ・・・。それにしても毎日毎日便利屋の仕事ばかりだな・・・。これじゃ、本業の腕がなまっちまうな・・。」


航はぼやきながら倉庫に単車をしまうと、ガラガラとシャッターを閉めて事務所の鍵を開けるとふらつきながら事務所の中へと入って行く。

そして自分の服の匂いをクンクン嗅ぐと顔をしかめた。


「ウッ・・・汗臭い・・。早いとこシャワーを浴びてすっきりするか・・・。」


航は着がえを取りにベッドルームへ行くと、下着にTシャツ、ジーンズをタンスから取り出すとシャワールームへ向かった。


鏡の前で上半身裸になると、改めて自分の身体をまじまじと見つめた。

航の身体は沖縄の太陽で黒く焼け、肉体労働が激しい仕事の為か、以前よりも筋肉が付き、顔つきも精悍さを増していた。


「・・・朱莉・・今の俺を見たら・・・少しは頼りになる男だと・・思ってくれるか・・?」


航は鏡に映る自分の姿を見ながら寂し気にポツリと呟いた―。



****


「ふぅ~・・さっぱりしたな・・・。」


濡れた髪をスポーツタオルで拭いながら航は台所へ向かい、冷蔵庫に手を伸ばし掛け・・・思いとどまった。


「あ・・・そうだった。危ない危ない・・・ひょっとすると茜から電話がかかって来るかもしれないんだっけ・・・。」


時計を見ると時刻は18時半を少し過ぎていた。


「確か・・デートは19時からだって言ってたな・・・いきなり会ってすぐに別れ話と俺の話になるかどうかは不明だしな・・・。」


航は夜の食事をどうするか決めかねていた。事務所のベンチソファに座り、暫くの間考え込んでいたが・・。


「よし、今夜は感嘆に栄養補助食品で済ませておくか。」


航は立ち上がると、冷蔵庫から牛乳と青汁の粉を取り出し、青汁牛乳を作った。そして食品棚から栄養補助食バーを取り出し、事務所へ持って行く。航はベンチソファに座ると、テーブルの上に青汁牛乳と栄養補助食バーを置き、手元にあったテレビのリモコンを付けた。

テレビではお笑い番組を放送していた。航はたいして興味も無さげにテレビを観ながら簡素な食事を取った―。



 カチコチカチコチ・・・・


静かな部屋に壁に掛けた時計の針の音が響いている。航はPC画面とにらめっこをしていた。


「う~ん・・・もう少しこのデザインを変更したほうがいいかな・・?」


航はWordPressを開いて、今自身の興信所兼便利屋のHP画面の見直しをしていた。


「やっぱり・・・もう少し興信所を目立つように作りなおしてみるか・・。」


そして航がキーボードに触れた瞬間―


トゥルルルルル・・・・


航の手元に置いておいたスマホが着信を知らせた。相手は茜からであった。

時計を見ると午後の8時になろうとしている。


「やっぱり電話・・・かかって来たか・・・。」


航は呟くとスマホを手に取った―。


 



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