SF
宇宙を泳いで
魚型の宇宙船が、時おり全身を青く発光させながら、宇宙を泳いでいた。
外装の黒いパネルには、遠い太陽の光が反射している。
全長十二メートルの船体側面には、VDM6020519と記されており、その下には、文字ではなく絵を用いて、この宇宙船の運行目的が記されていた。
数年後。
点でしかない太陽に背を向けて、宇宙船は、まだ宇宙を泳いでいた。
前へ前へと進んでいると、全身のパネルが赤く変色した。
それは、太陽から離れすぎたことを意味していた。
宇宙船は、右方向へ緩やかなカーブを描き、右側面に太陽の光を受けとめた。
すると、パネルの色が赤から黒へと徐々に変じていった。
惑星の軌道上を周回する宇宙船は、その外装を、ターコイズ・ブルーに発光させていた。
それは、エンジンが活動を休止していることを示していた。
その宇宙船の周りを、ネズミを思わせる小型ロボットたちが這いずり回り、メンテナンスに勤しんでいる。
船内にあるディスプレイの画面は、縦横三つずつで九分割されており、船外の二十八個の撮影機から得られたデータが、真ん中を除く八つの画面に映し出されていた。
やがて、真ん中の画面に、情報収集の結果が並べられていった。
薄緑色の背景に、白い文字が打ち込まれていく。
大気:可
重力:可
水の状況:良
惑星の大きさ:可
気候の状況:可
自転速度:良
地磁気:不可
九つの画面の映像が突然消え、ディスプレイが少し揺れた。
宇宙船のエンジンが、始動をはじめたのだ。
宇宙船は末尾を赤く輝かせながら、惑星の軌道から静かに外れていった。
……。
薄緑色の背景に、白い文字が打ち込まれていく。
大気:良
重力:不可
水の状況:可
惑星の大きさ:良
気候の状況:不可
自転速度:不可
地磁気:可
……。
薄緑色の背景に、白い文字が打ち込まれていく。
大気:不可
重力:良
水の状況:良
惑星の大きさ:不可
気候の状況:不可
自転速度:可
地磁気:良
……。
黄金に輝く宇宙船が、全速力で宇宙を泳いでいた。
ブラックホールの重力から逃れるために。
……。
……。
薄緑色の背景に、白い文字が打ち込まれていく。
大気:不可
重力:不可
水の状況:不可
惑星の大きさ:良
気候の状況:不可
自転速度:良
地磁気:可
……。
……。
……。
薄緑色の背景に、白い文字が打ち込まれていく。
大気:良
重力:可
水の状況:可
惑星の大きさ:可
気候の状況:可
自転速度:可
地磁気:可
その他:可
次ステージへの準備開始を許可。
映像の消えたディスプレイが、下方に収納されていく。
惑星の軌道上に浮かんでいた、宇宙船の外装が緑色に変じ、大地に向かって降下をはじめた。
宇宙船は、その頭部を、地面に対して垂直に近づけた。
大地が迫ると、前方につけられていた補助用の推進装置が火を噴き、速度をゆるやかなものした。
最後に宇宙船は、コンピュータが最も適切と判断した地点に、ゆっくりと突き刺さり、その動きを止めた。
昼夜の変化が繰り返されたのち、宇宙船から鳥型のロボットたちが飛び出した。
それらが戻ってくると、今度は無数のネズミ型ロボットが、遠くへ、水辺へ、地中へと消えていった。
宇宙船の着陸した惑星が、太陽のまわりを一周した。
すると、船内からネズミ型のロボットたちがぞろぞろと現れ、周りの土地を耕し、イチジクや小麦などの、貯蔵されていた種だけでなく、検査を終えたその惑星の植物たちも、一緒に植えていった。
また、惑星が太陽のまわりを一周したとき、船内の一室に明かりがついた。
縦長の狭い部屋の両脇には、水色の玉が五十個づつ並べられており、しばらくすると、機械音が室内に響き、天上からアームが垂れてきた。
機械の腕は、玉についている赤いボタンを次々に押していった。
ボタンを押された玉の中では、精子と卵子が結合をはじめ、十か月後の誕生を待つことになる。
玉の中を満たしている液体に抱かれながら。
別の船室では、一体のロボットが目覚めていた。
これから彼が守り育てる生物と、同じ形をした機械人形は立ち上がり、船内に安置されていたマザーコンピュータを、自らの頭部に移した。
マザーコンピュータが切り離された宇宙船は、自動的に、その形を大樹のような姿へ変えていった。
黒いパネルたちが、効率よく太陽の光を吸収しはじめ。
ロボット、いや、この惑星の神となった機械は、充電を済ませると、やらなければならない無数の作業を片付けるために、船外へ出て行った。
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