生きていく上では、幾度となく夜が来る。


…昼間は空意地で耐えていられることも…


夜になれば、まるでその闇が誘うように…

心を責め、苛む…!


…そんな、とある深夜。


「…将臣…」


可愛いレースのフリルのついたパジャマ姿で、真っ白い枕を抱きかかえるようにしながら、マリィが将臣の寝室に現れた。


「マリィ…?」


マリィの存在を確認し、ベッドから少し体を起こした将臣は、何故マリィがこの時間にこの場に現れたのか、始めは意図が掴めなかった。


「…、あの…」


マリィは、自分の要求をうまく言葉に出来ず、もじもじしている。


「…どうした?」


…こんな時間にこの場に現れるということは…


「眠れないのか?」

「うん…」


マリィは、自らの感情のはけ口として、きつく枕を抱きしめた。

…何らかの不安から解消されたいかのように。


まるで、目には見えない何かに怯えるように…!


「……」


将臣は対応を躊躇した。

状況から考えれば、これは…明らかに、一緒に寝て欲しいということなのだろう。


しかし、幾ら歳が若いとはいえ、マリィは既に大人顔負けの人格構成が出来上がっている。

それ故に、確かに外見や実年齢は幼くとも、現段階では、将臣はマリィを幼子としては認識していなかった。


…だからこそ、弱っていた。

だが、ここで変に拒んだりすれば、それはまたマリィの心の傷へとなりかねない。


現実と葛藤の狭間で揺らぎながら、将臣は我知らず結論を急いでいた。

…そんな折り。


「…将臣、一緒に寝ちゃ駄目?」


意を決したように、マリィが訊ねて来た。

将臣は内心、やはりな、と思いながらも、返答を考える。


しかし。

ここまで来れば否も応もない。

…答えを引き伸ばせば、それだけマリィが傷つくだけだ。


根負けしたように、将臣が呟いた。


「…、構わない」

「!…いいの!?」

「ああ」


将臣が答えると、マリィは嬉しそうに将臣のいるベッドへと駆け込み、そのまま横になった。

…枕を頭に当てながら、上目遣いに将臣を見る。


「良かった…、もし将臣に断られたら、どうしようかと思ってた」


その瞳は潤み、しかしそれに反して体は震えている。


それを目の当たりにした将臣は、マリィが何故こんなことを言い出したのかを理解した。


(まだ、あの二人を恐れているのか…!)


…父と兄を。

その反応を。

その…存在そのものを。


(…無理もない…)


マリィに太刀打ちできる相手ではないことは確かだ。

それも相手は、力のある実の父と兄…!


(ああまで正面から対立したんだ…

当然の顛末だろうな)


…憐れみを含んだ、その蒼の瞳をマリィに向ける。

するとマリィは、将臣に保護されたことで満足したのか、その眼差しを感謝しながら受けた。


「…将臣がいてくれて、良かった…」

「…マリィ…」


将臣はマリィの美しい銀髪を、そっと撫でるようにしてそれを流した。

その手の温もりに安心したのか、マリィがようやく眠りに落ちる。


「…寝たのか、マリィ」


柔らかく微笑んで、将臣は自らも寝ようと体を横たえた。


…その手に、マリィの手が絡まる。

将臣は、それに応えるように、しっかりとその手を握り締め、マリィ同様に眠りについた。

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