人類最初の初恋
神様は、世界を創造した。
神様は、天地を動植物を生み出した。
神様は、最初の人間であるアダムを目覚めさせた。
* * * * *
完成した世界で日々を送っていたアダムは毎晩、一人嘆いていた。
「どうして僕だけ独りぼっちなの?」
アダムはずっと群れで暮らす他の動物たちを羨み、自分が独りぼっちであることに淋しさを感じていた。
そんなアダムを見ていた神様は彼を深い眠りに落としその肋骨から一本骨を取り出した。
「起きなさい。アダム」
神様の声で目覚めたアダムの前には自分と少しだけ違う人間が一人。
「これからは二人で助け合って生きていくのですよ。それと彼女に名前を
付けてあげなさい」
アダムは神様の言葉通りその女性に名前を付けてあげた。
「イブ。君は今日からイブだ。よろしくイブ」
「素敵な名前をありがとう。よろしくねアダム」
始めましての挨拶を交わしながら二人は喜色を浮かべる。だが互いに気づかない程度でその頬はほんのり紅葉がかっていた。
それから二人は(アダムが神様の下で働いている以外の時間を除いて)常に触れ合う距離で時間を共にした。今までの分を埋めるように毎日そして一日中。花を摘んだり、野原を駆け回ったり、動物たちと戯れたり。色々なことをしながら共に過ごしていた。それは今まで一人淋しく過ごしていたのが嘘のように、アダムにとって楽しい毎日だった。
でも段々とアダムは不思議な感覚を自分の胸の中に感じ始めた。他の動物たちも大切だけどイブだけはどこか特別に感じるその感覚を。それに手が触れると鼓動を強く感じ、気が付けばイブの事を見ていて、仕事中もイブの事を考えてしまっている。今まで感じた事の無い不思議な感覚に戸惑いながらもアダムはその心地好さを感じていた。
だがどんどん胸の中で膨れ上がるその想いにアダムは段々と心苦しさやもどかしさを感じるようになってきた。
「イブ」
「何?」
「僕、君の事が……」
どうにかこの想いを伝えたかったがアダムにはそれをどう伝えていいか分からない。それはもどかしく、外に出す事が出来ない想いに圧迫されるように胸が苦しい事だった。イブに名前を呼ばれる度に、イブの手を握る度に胸は酷く締め付けられる。でも一人で抱えるにはあまりも大きすぎるその想いをアダムはどうしていいか全く分からない。
そして遂にそれは仕事にも影響が現れ始めた。そんなアダムを見かねた神様は彼を呼び話をした。アダムに自分の抱えている事を正直に吐き出してもらってから神様はその解決方法をアダムに教えた。
あるお昼の事。晴れ渡った蒼穹から降り注ぐ温かな陽光の中、アダムとイブは花畑に来ていた。
「綺麗ねアダム」
「そうだね。風も気持ちいいし今日は良い日だ」
アダムと手を繋ぎ隣でイブは楽しそうに笑みを浮かべていた。
するとアダムはそんなイブから手を離すと近くにあった花を一輪摘み彼女と顔を見合わせた。
「イブ。実は僕、君に夢中なんだ。ずっと君の事が頭から離れなくて、一緒にいるとすごく幸せだけど胸が締め付けられたり少し苦しさを感じたりしてしまうんだ」
アダムは先日、神様から言われた事を思い出した。
『いいですかアダム。イブの目を真っすぐ見て自分の思ってる事を言いなさい。そうすれば自ずと言葉が出てきます。体と心の力を抜き、流れる風のように自然体で想いを口にしなさい』
その言葉通りアダムは真っすぐとイブの綺麗な瞳を見つめた。そして見つめ返す彼女の目を見ながら風を感じ深呼吸を一つ。
「イブ。僕は君の事が――」
自分の中にある彼女への想いに意識を向け、それを口へと押し上げる。
「僕は君の事が好きなんだ。君を愛してる」
その言葉を口にした瞬間、アダムは膨れ上がる想いをやっと外に出せたとスッキリとした気持ちになっていた。それと同時に持っていた花を彼女に差し出す。
イブはその花に一度視線を落とすと笑みを浮かべアダムの手から受け取った。そしてもう一度、アダムと目を合わせる。
「私も同じ気持ちだった。そう。この気持ちってそう言うんだね。――私もアダムの事を愛してる」
そして二人は自分の中に感じる想いだけではなく、相手から伝えられた想いを――愛を感じながら強く抱き締め合った。
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