NOT桃太郎

 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。

 二人はある日、近くの町に出かけた時にぼったくり占い師からこう言われました。


「あー。でかい、えーっと、何にしようかな……桃。そうデカい桃が、そこらへんから流れてくっから、それ拾うと中から男の子が。フフッ。男の子が生まれるからソイツに鬼退治とか適当に行かせれば金持ちなれっから。多分。きびだんごとか持たせるといいよ。腹持ちいいからあれ。美味いし。うん、そんなとこ」


 そして法外的な料金を請求された二人でしたがおばあさんは文句ひとつ言うことなく支払いました。でもその様子を見ていたおじいさんが、そのお金が実はいかがわしいお店に通うために貯めていたへそくりだということをまだ知らないのはまた別の話。

 次の日、おじいさんは山へ柴刈りに行くと言って酒場へ、おばあさんは川へ洗濯に行きました。そしておばあさんが勝負下着を洗っていると川上の方からどんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れて、来ませんでした。

 おばあさんはそのまま洗濯を終え家に帰り夕飯の支度をしながらおじいさんを待っていました。ですが、帰って来たおじいさんは何も持っておらずそれどころか少し酒臭かったのでした。そのことを問い詰められると明らかに動揺しながらこう答えました。


「い、い、いや。アレじゃよ。アレ。仰山拾ったんじゃが帰りに……。あっ! クマに。そうじゃ熊に襲われての慌てて全部落としてしまったのじゃ! いやー死ぬかと思ったわ。いや、マジで」

「じゃあ、なんで酒臭いんじゃ! このジジイがー! 熊じゃなくてこのばぁばが今すぐあの世に送ってやろうかぁ!」


 嘘のバレたおじいさんはおばあさんにシバかれました。

 それから土下座でも何でもしてなんとかお許しをもらったおじいさんは、夕食抜きは免れました。

 夕食後、二人は囲炉裏の傍でお茶を飲みながらお話をしていました。


「そういやばぁさんや。昨日行ったあの町あるじゃろ」

「はい。あの占いのお方がいた町ですよねぇ」

「そういや、あの占い料金たかーなかったか? ようお金あったのぉ」

「あれはおじいさんのへそくりですから」

「え? マジで言ってる? 嘘だよね? というかなんで分かったの? え? え? どゆこと?」


 今知らされた驚愕の事実に動揺を隠せないおじいさん。


「そんなことよりあの町がどうしたんですか?」

「いやいや、そんなことよりって。ワシの話よりそっちの方が重要やて」

「どうせロクなことに使わないんですから。第一へそくりなんて全く。はぁー」

「あんたもしとるやろがい! たまに町のホストクラブ行っとるの知っとるんじゃからな!」


 興奮したおじいさんは座布団に片膝立ちしながらおばあさんを指差しました。


「うるさいですよ。今すぐその指を下ろさないとへし折りますよ」

「ご、ごめんなさい」


 その莞爾とした笑みと優しい口調は鬼よりも怖くでおじいさんの怒りの炎を一瞬にして鎮火どころか身震いさせました。


「それよりあの町がどうしたんですか?」

「あ、あぁ。あの町、今日鬼に襲われたらしいぞ」

「え? それは本当ですか? 嘘なら承知しませんよ?」

「本当じゃて。とういうかこわっ! どうしたんじゃ?」


 するとおばあさんは持っていた湯呑みを握り壊しました。


「あのクソ鬼ども! あの町には『天使の羽休み』があるんだぞ! あそこには、大事な大事なユキヤ君が……。唯一の楽しみを潰しおって! ただじゃおかん!」


 そう叫ぶおばあさんの顔は鬼も怯えるような形相でした。


「おい! ジジイ」

「は、はぃ。何でございましょうか?」


 おじいさんは名前を呼ばれただけで漏らしてしまいそうな程ビビり散らしていました。


「明日、鬼ヶ島目指して出発だ」

「な、何しに行かれるのでしょうか?」

「そんなの決まっているだろう。このわしの楽しみを、『天使の羽休み』を潰した罪を償ってもらう。皆殺しだ」


 そして次の日、おじいさんとおばあさんは鬼ヶ島を目指して出発しました。その道中、清水組の狂犬こと犬神 徳次郎・命知らずの暴れん坊こと猿ヶ木 茂吉・戦う軍師こと雉村 春雄と出会いました。おばあさんからきびだんごと気持ち程度のお金を受け取った三人はお礼に鬼退治についていくことにしました。

 野を越え山を越え海に辿り着いたじじおば一行は、近くにいた三線を引きながら『海の~』と歌っていた人からお金の代わりに船を借りると鬼ヶ島へ舵を取りました。

 そしてついに恐ろしい鬼の住む島、鬼ヶ島に辿り着きました。

 ですが船を降り島に上陸したおばあさんはある重大な真実に気が付きました。


「おじいさんこれ見てください」


 おばあさんの指さす方を見たおじいさんはビックリ仰天。そこにあった看板には『ようこそ!鬼ケおにけじまへ!』と書かれていたのです。


「ここは鬼ヶ島じゃなくて鬼ケ島じゃよ」


 今まで鬼ケ島を鬼ヶ島と間違えていたことに気が付いたおじいさんとおばあさんは恥ずかしさで顔を赤らめました。

 その恥ずかしさを原動力にしたおじいさんとおばあさん、そのお供たちは勇敢に戦い見事、鬼を退治しました。そして鬼を退治したことで近隣の町や村に平和をもたらしたのです。その対価と称してしてこっそりと、勝手に鬼のがめていた金銀財宝は全部懐へ。

 あの船の人には鬼ケ島から乗って帰った大きい船を口止め料として渡しお供たちには完了報酬……。んん! お礼を渡したおじいさんとおばあさんは残りの金銀財宝を持って家へ帰りました。

 そしてぼったくり適当占い師の言う通り大金持ちになると、おばあさんは無事生き延びたホストクラブ『天使の羽休み』のホストを集め別の町で経営を再開しました。もちろん経営者はおばあさん。一方、おじいさんは毎日のように酒場や行きつけのいかがわしいお店に行き人生を楽しんでいましたとさ。

 めでたしめでたし

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