実は……3

さっきから衝撃発言連発で、私は驚いてばかりいる。

しかも、超絶驚いた。漫画だったら、目ん玉飛び出てたよ。


「この事、みんなには内緒な」


人差し指を口元に立てて、ウインクをする課長。


「あ、はい……。誰にも言いません。絶対に……」


驚いたけど、事実を知ってなんかすんなり納得出来た。迫田課長はカッコイイし、レディーファーストだし。


(そう言えば……)


私も一度、段差に引っ掛かって転びそうになった時に華麗に助けてもらった事があったのを思い出した。あの時、こりゃ女性社員がときめくのも無理ないわ、と思ったものだ。


課長が、後で愛実に謝っとかないとな、とブツブツ呟いている。

私の信用を得る為とは言え、この話をするのは苦渋の決断だったんだと思う。迫田課長には申し訳ない事をした。


「中条」


課長が私の手を取り、すまなかった、と頭を下げた。


「え……?」


「言葉にしなきゃ分からないよな。想いが通じ合ってる、なんて何も伝えずに俺一人で舞い上がってた。本当にすまない」


「課長……」


シュン…と萎れている課長がなんだか愛おしくなっちゃって、私もギュッと手を握り返した。


「良いんです。私も何も言わないでズルズル今まで来ちゃって……。ルイちゃんの代わりだ、って思ったら、なかなか言い出せなくって。でも、もっと早く想いを告げていれば良かった……」


「中条……ありがとう……」


2人で、えへへと笑って抱き締め合う。


しばらくすると、課長が「ん?」と言って体を離した。


「どうしたんですか?」


「中条。今、ルイの代わり~とかなんとか言ってなかったか?」


「はい。言いました。……違うんですか?」


首を傾げる私に、課長が声を荒らげた。


「違うっ!俺は断じてそんな事思っていなかったぞ!そりゃ、一番最初はそうだったかもしれないけど、その後も今も、そんな事は一切思ってない!」


「そうだったんですか?じゃあ、膝枕してくれたりしたのも全部違ったんですか?会社でだって……課長?」


話しをしていたら、課長の顔がゆでだこの様に真っ赤に染まって行く。


なんだ?どうした?


「課長、顔真っ赤ですよ?」


そう言って課長の顔を覗き込んだら、「あ~!もうっ!!」と課長が急に叫び出してビックリした。


「ど、どうしたんですか!?」


「白状する!白状するよ!」


プルプル震えながら課長が続けて言い放った。


「中条に……さ、ささ触りたかったんだ!!」


と。


私は課長の絶叫にポカーンとしてしまう。と言うか、そうするしかなかった。


私に触りたかった、って……つまりそう言う事だよね?


「あの、それって……」


私が言い終わるか言い終わらないかのタイミングで、


「変態なんだよ、俺はっ!」


と課長が膝から崩れ落ちた。


「かちょ……」


「最初は、ルイの様に可愛がっていたつもりだったんだ……でも段々中条を女性として意識するようになって、ルイとは思えなくなって来て、中条と一緒に居ると安心出来て……そしたら無性に中条に触れたくなってそれで……っ」


「課長」


一人でテンパっている課長の肩をポンと叩いた。


顔を上げた課長に優しく微笑み、


「心配しないで下さい。私も同じですから」


と言ってあげた。


「中条……本当か?」


「はい。好きな人に触りたいって思う事は変な事でも変態な事でもないです。普通な感情ですよ」


私だって課長に触れたいと思うし、一緒に居たいと思う。好きな人に向ける感情としては至極当然だ。


「私、本気でルイちゃんの代わりだと悩んでました。でも、良かった」


課長に手を伸ばし、立ち上がる。


「中条、不安にさせてすまなかった。俺は中条が好きだ」


「はい。私も課長の事が好きです」


私達はそのまま見つめ合う。


課長の顔が近付き、あ、キスされる?と目をつぶってその時を待つ。


「…………?」


しかしいつまで待っても重ならない唇に、チラッ……と薄目を開けると、課長がプルプル肩を震わせて何かに耐えている様だった。


「か、課長……?」


これは、もしや……。


「だああぁぁぁっ!!我慢出来ないっ!」


と突然叫んだかと思うと、課長はおもむろにポケットからブラシを取り出し、ソファーへと走り出した。


「中条!おいでっ!!」


と、ソファーに座った課長が膝を高速でポンポンポンポンッ!と叩いた。


……さっきまでの甘いムードは一体どこへ?


「今、ルイちゃんの代わりなんかじゃないって言ってたのに……」


せっかく両想いになってムーディーな雰囲気にまで行ったのに、これじゃ台無しだ。


「ん?何か言ったか?」


「……いえ、なんでもありません」


「じゃあ、早く!」


キラキラ瞳を輝かせて待機している課長を見たら、もうなんでも良いや、と投げやりな気持ちになったのは言うまでもない。


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