策略、崩壊1
――『ねえ、ワタシと二人で会っててぇ彼女さん何にも言って来ないのぉ?ほら、彼女の友達の――三嶋千歳、だっけぇ?あの人に浮気してるのバレちゃったじゃなぁい?ヤバくなーい?』
間延びした、特徴のある女の喋り方。
『あ~。そう言えば紗月から別れ話のメッセ来てたな』
めんどくさそうに喋る、男の声。
この男女の会話を聞いて、私含めギャラリーのみんながガバッ!と和矢と新井麗子を見た。
言われなくてもハッキリと分かる。この男女の声の主は、和矢と新井麗子だ。
「お、おい!なんだよこれ!?誰だ!?」
「そうよ!誰よ!?」
あたふたしている和矢と新井麗子を尻目に、ノイズ交じりの会話はどんどん進んでいく。
『えぇ~?やっぱり三嶋千歳が喋ったんじゃないのぉ?なんか言い出したってワタシ知らないよぉ?』
『だーいじょうぶだって!そんな事する様な根性あいつにはねーよ。つーか俺、アイツから慰謝料取ってやろうかと思ってさ』
『え?どう言うことぉ?』
『俺、紗月からの別れ話にOKの返事してないんだよね』
この和矢の言葉を聞いて、ギャラリーの数人が「え?さっき別れ話のメールは来てないって言ってなかった?」とザワつき始めた。
『うん。それがぁ?』
『てことはさ、俺は別れたくないって意思表示になんだよ。あんなに俺にベタ惚れだった紗月が急に別れ話とか、おかしいんだって。ぜってー男が出来たと思うんだよ。その証拠掴んで裏切られたー!って騒いで慰謝料ふんだくってやろうと思っててさ』
『浮気してたのはアンタなのに、そんな事出来るのぉ?』
新井麗子のハッキリとした「浮気していたのはアンタ」と言う言葉に、和矢の顔が見る見る内に真っ青になる。
「ち、違うっ!浮気したのは俺じゃない!紗月なんだ!こんなものでっち上げだ!!止めろ!止めろよっ!!」
和矢が取り乱しながら叫んだ。
しかし、和矢の叫びも虚しく、会話は止まらなかった。
『大丈夫だって!結婚の話とかチラつかせてたし、メールの記録もあるし。コレ、婚約破棄って事でイケるべ?』
『本当ぉ?でもぉ、三嶋千歳が出しゃばって来たらどうするの?うちら、浮気の現場押さえられてんだよ?』
『いや、写真の類は撮られてなかったし、なんか騒がれたら俺とお前が口裏合わせて三嶋をウソつきに仕立て上げれば上手く行くって。お前、男味方に付けるの得意だろ?ちょっと泣き真似ぐらいしてくれればチョロい』
『ちょっとぉ!それ、ヒドくなーい?まぁ、確かにチョロイけどねー』
今まで新井麗子にほだされていた男性社員達が、今までの会話と「チョロイ」と言う言葉を聞いて全員が項垂れる。
信者の様に新井麗子を崇拝していた男性社員も少なくないから、今の言葉はダメージがデカかったのだろう。女子社員達はそれを見て、ザマーミロと言う顔をしていた。
二人の会話はまだ続く。
『だからお前さ、数日、紗月の動向見張ってろよ。んで、男といる所の写真とか撮ってこい』
『はぁ?なんでワタシが!?』
『だって、俺じゃ見付かった時になんて言い訳すんだよ?慰謝料ふんだくる為に付け回してました、って言うのか?』
『まぁ確かにそぉだけどぉ……』
ギャラリーの方から、「この男マジ最悪……」と言う声が聞こえる。
『だろ?それだったら面識の無いお前が適任なんだって』
『そぉかなぁ……分かったわよぉ。ただし、バレても文句言わないでよねぇ?』
『上手く行ったら臨時収入なんだから、気合入れろよ!』
『えー。そしたら何買おっかなー!目ぇ付けてたヘルメスのバッグ、あれ買っちゃおっかなー?』
『おう!なんでも買ってやるよ』
『わーい!』
――ここの会話が最後だったらしく、この後は最初からまた再生され始めた。
みんなが、特に女性陣が和矢と新井麗子に白い目を向けている。お前たちの方が嘘つきじゃないか、と言う視線。
すると、新井麗子が自分だけは助かろうと思ったのか、弁解し始めた。
「ちがっ、違うのよっ!ワタシは嫌々だったの!コイツがしつこく頼んで来るから仕方なく!お願い、みんな信じて!!」
新井麗子が瞳を潤ませながら特に男性社員達に向けて訴えかける。
「ワタシだって、ハメられたのよっ!!」
しかし、今の録音の会話を聞いて、新井麗子を庇う男性社員は一人もいない。
「ちょっと待てよ!お前も金が手に入るってノリノリだっただろうが!!」
そんな態度の新井麗子に腹を立てたのか、和矢が新井麗子の肩をグイっと引っ張り突き放した。よろよろとよろける新井麗子が、和矢をキッ!と睨む。
「いったいわね!ジョーダン言わないでよね!ワタシは反対してた!」
「なんだとっ……!?」
ギャアギャアと、言い合う二人。
そんな中、ギャラリーの誰かが「てか、今の音声ってどこから流れて来たの?」とボソッと呟いた。
その声にいち早く反応したのが新井麗子で、
「そうよ!誰よ!?今の音声流したのっ!?」
と大きな声で叫んだ。
オフィス内がシーン…と静まり返る。みんなが「誰だ?」と顔を見合わせていると、スッ…とゆっくり手を上げた人物がいた。
その人物は――。
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