帰り道、嫌な視線を感じる

「ただいま帰りました」


「あ、お帰り」


リビングに入ると、コーヒーのいい香り。

課長がキッチンに立ってコーヒーをドリップしていた。


「あ、私、淹れましょうか?」


「いや、もう淹れたから大丈夫。ありがとう」


「そうですか……」


そのまま部屋に戻らず、ふぅ、とソファーに腰を下ろす。


「どうだった?プレゼントは喜んで貰えた?」


スッ…と、目の前に淹れ立てのコーヒーが入ったカップが差し出された。

ありがとうございます、とカップを受け取り、フーッと表面を冷まして一口すすった。課長が淹れてくれたのも、美味しい。


「はい。大成功でした。『なんで欲しい物が分かったの?』ってビックリされちゃって」


「そうか。それは良かったな」


「はい……」


「ん?どうした?何かあったのか?」


「あ、いえ。何も……」


私の気のない返事に、課長が首を傾げる。


何もない、とは言った物の、何もなくはなかった。


(やっぱり誰かの視線を感じるんだよね……)


今、帰宅途中も、誰かに見られてる様なつけられている様な、そんな感覚でちょっと怖かった。


(でも、特に誰かいるって訳じゃないんだよ)


そう思ってハッとする。


(もしかして、もうこの世にはいない存在が……っ!?)


いやいやいや!と首を振る。そんな怖い事を想像するのは止めておこう。

チラッと課長を見ると、横に座ってコーヒーを飲みながら経済新聞を読んでいる。


(課長に相談してみようか?)


でも、自分の勘違い、または思い違いかもしれない。


(変に心配とかかけたくないし、言わなくても良いか)


はぁ……とため息を吐くと、やっぱり視線を感じる。


(大丈夫。この視線の主はちゃんと目に見えてるし存在も確認出来るから)


クルっと横を向くと、目をキラキラ輝かせて私を凝視して膝をポンポン叩いている課長。


(着替えて来たかったんだけどな……)


一番最初に部屋に行って着替えてくれば良かった。


(待て、出来るかな?)


しかしそんな事は出来るはずもなく、私はそのまま課長の膝にダイブするのであった。


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