会議室での秘め事(でもみんなの公認)1

「紗月、あんた最近変わった事ない?」


千歳の質問に私はキーボードを打つ手を止め、またか…と眉を寄せた。


「あのさ千歳さん?最近おかしいよ?定期的に聞いて来るけど、なんなのそれ?」


最近の千歳は、ことある毎にこれを聞いて来る。


「なんにもないなら良いのよ。気にしないで」


そう言って千歳は自分の業務に戻る。


「いや、あの…千歳さん??」


私の声は聞こえていないのか聞こえないフリをしているのか、こちらを見ようともしない。

まっっったく要領を得ない千歳の返答に、だからなんなんだよっ!!とキーボードをバァン!と叩いて怒鳴りたい衝動を必死で抑えた。


こないだ、カフェで別れた次の日からこんな調子の千歳。


どう言う意味?と何回聞いても、「何もないなら良い」と言ってちゃんと説明をしてくれない。聞かれる度にこっちはモヤモヤするだけで、なんともスッキリしない。

千歳は元々多くを語らない人だから、こちらも無理に聞いたりはしないんだけど……。


(それにしても限度があるよね)


チラッと千歳を横目で見ると、仕事をバリバリこなしている。


(相変わらずの高速タイピング)


リズミカルにキーボードを打つ音は、聞いていて心地良くなるくらいだ。


ちょっとボケーっと見ていたら、急に肩をポンっと叩かれて体が飛び上がる。

その拍子に「わひょっ!」っと変な声が出て、周りにクスクスと笑われた。


叩かれた方を向くと、課長の姿。


なに!?とちょっとイラっとしたけど平静を装って、どうなさいました?と尋ねると、


「今から取引先の部長さんがお見えになるから、応接室にお茶を持って来てくれ」


と言われた。


え?お茶?なんで私?と思ったけど、なんとなく気配で察知し、分かりました、と席を立つ。


(多分、電池が切れたな)


頼んだよ、と言い残し、課長はさっさと行ってしまった。


会社でこうなるのは何回目かな?最初の頃、一度みんなの前でやらかしてから5回目くらいだろうか?それも決まって忙しい日。

こっちが忙しいんだから課長はもっと忙しい訳で、急に電池が切れたおもちゃの様に機能しなくなる。周りも慣れて来るのか最初の頃は変な顔で見ていたけど、課長が機能しなくなる事の方が重要で、帰って来ると電池を新しく交換したかの様に機能し始めるもんだからその内誰も何も言わなくなった。


むしろ私がモタモタしていると「早く行ってこい!」と視線で急かされる様になった。

千歳が「周り公認ジャンww」とケタケタ笑っていたけど、私的にはすごく恥ずかしいワケで……。


(課長とみんなの役に立ててるみたいだから良いけどさ)


対応力の高い大人が集まった会社で良かった。


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