身代わりペット

咲良 緋芽

プロローグ

「こっちへおいで」


「はい……」


雲と雲の間から顔を覗かせた月の明かりが、リビングに射し込む。


その明かりが、一人掛けのソファーに深く座り込んだ課長の顔を、スポットライトの様に照らした。


「ここに……」


課長が自分の膝をポンポンと叩き、誘導する。


私は言われた通り膝の上に乗った。


「ん……いい子だ」


「っ……」


課長が微笑みながら、頬にかかる私の髪の毛をかき揚げ、その髪にキスをする。


月明かりに照らされた課長の顔が妙にセクシーで、直視出来ない。


私は急に恥ずかしくなって顔を背けた。


「こーら。こっち向いて」


「あっ……」


頬を両手で挟まれ、無理矢理目を合わせられた。


カァァッ、と顔が熱くなる。


ギュッと目を瞑り、


「課長……早く…して、下さい……」


と、急かした。


これ以上は、我慢出来ない。


「ん?ああ。じゃあ、始めようか……」


フッ……と課長が笑った。



――来る。



そう構えた瞬間、


「今日もお仕事疲れたよ~!ん~~~♡」


と、目尻をこれでもか!と言う位下げ、私の髪の毛をモシャモシャ!と掻き乱した。


先程、月明かりに照らされ、妖艶な雰囲気を醸し出していた課長の姿は何処にも見当たらない。


「か、課長……痛いです……」


それにしても、今日はいつにも増して激しい。


「ん~~~♡」


私にじゃれ付く事に頭が一杯で、課長の耳に私の言葉は届いていない。


(はぁ……)


心の中でため息を付いて、安請け合いした事を今更ながら後悔した。







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