二人の生活は脅かされそうになっている 後編
第33話
カラカスは徹底抗戦を宣言した。
とは言え、戦いはまだ始まらない。
それは互いの軍が描く筋書きが兵の損害を与えない長期戦であったからだ。
カラカスの筋書きは、このまま籠城しながら市民を兵士へと育て上げる事。
そしてラドラインの筋書きは、カラカスへの交通運搬を全て断ち、兵糧攻めにする事。
これを見比べるにラドラインの戦術の方が長けているだろう。
だが、そんな事実を知らないカラカスは着々と徴兵していくのだ。
「非常事態につき、貴様にはこの国の兵士として戦ってもらう!」
「は、はぁ分かりました……」
そんな知らせが朝日が登ると共に、兵士達から町中へ伝えられていくのだが、それはエドガーも例外ではなかった。
だからエドガーは身支度を整え家を出る訳だが、出る直前、不安そうな表情で見送るミーナに対し、エドガーは笑顔でこう告げている。
「大丈夫だよミーナさん、必ず戻りますから……」
…………。
「うわぁぁぁぁ! エドガー君が連れていかれました、連れていかれたんですよ〜。 リアナ〜、私はどうすれば良いんですか〜!?」
「…………」
そして現在、ミーナはリアナの家で手足をバタつかせ、テーブルに座るそう騒いでいる。
それは彼女の希望の芽を摘むかのような出来事が多発し、彼女の根っこにあった幼さが表へ出てきたのであるが、意外な事にそんなミーナにリアナな協力する気でいるのだ。
理由は単純。
(せっかく、せっかく夢のニート生活が完成していたと言うのに、私の祖国は余計な事ばかりして……)
アレクに対し、国防に協力しろとの知らせが来たからである。
そうなったのは、カラカスの新たな軍務大臣となった無精髭を生やした男、バートンの指示によるものだ。
その指示というのが。
《国に7日以上滞在している男は全てを徴兵せよ》
と言う無茶苦茶なモノ。
しかも本人は(数を揃えれば戦に勝てる)と考える部類の人間であり、その悪質さは歴史に名を残す程ではないだろうか?
その結果、アレクは連れて行かされたのだが、それがリアナの沈黙の怒りを買った。
しかしながら、現状考えても策は浮かばず。
だからリアナはテーブルに肘をつき、交互に組んだ両手の指を口に当て、静かに考えているのだ。
ただ。
(あっ、眠い……)
最近、堕落の限りを尽くしていたリアナのやる気ゲージの最大量は減少しており、以前にも増して、ダメ人間具合に拍車がかかっている。
その為遂には。
「スピー……スピー……」
「リアナ、あのリアナ、寝ないで下さいよ!?」
やる気ゲージが5%程に、その為充電タイムに入る訳で……。
…………。
その頃、カラカス中心街からやや外れた所に立つ目新しい城であるカラカス城では……。
「あれ? 店長もこの部隊に配属となったのですか?」
「俺だけじゃねーべよ、アルタイルもいるぞ」
「こちらも、アレクもいますよ。 何だか顔見知りばかり集まった様な気がしますね」
「だよなぁ……」
所属する部隊を兵士から告げられ、その第十部隊の集合地点である場内の芝生の広場にやって来た訳だが、そこに集まったのは見慣れた顔ぶれが殆どであった。
ショーモト、アレク、アルタイルを始め、肉屋の店長や酒場の同僚など、まるで顔見知りだけを集めた様なその光景は、直ぐに人々の会話に花を咲かせる結果を生む。
しかしながら、その話題の殆どは戦いや生死に関する不安が占めている。
それが普通であるはずなのだが……。
「兄上、戦いはどれくらいで終わると思うでありますか? 自分は早く帰ってリアナさんの世話をしなげればいけないでありますから……」
「どうだろう? 僕も早くミーナさんと会いたいし……」
「店長、店大丈夫なん?」
「わかんねーよアルタイル、俺だって国から補償金貰いたいくらいだしさ〜」
四人の会話はこれから戦いに身を置かなければいけないとは思えない世間話である。
だがそれは、ある意味自然な事かもしれない。
まずアレクは高い戦闘能力を保持しており、それはエドガーが手も足も出ない程。
そんなエドガーもアレクに及ばないとはいえ実戦訓練を長年受けている。
そしてショーモトはネクロマンサーである為にアンデットを使った戦い方に長けているだろうし、アルタイルは気づかれずにアレクの家に入った事もある人物。
「ほぉ、どうも戦に対して余裕が感じられる奴らがいるな……」
そんな四人にそう告げながら、剣を持った人物が四人に近づいてくる。
そしてその人物、ワグナーは四人にこう告げた。
「俺はワグナーだ。 元軍務大臣で、今は新設されたこの第十部隊の団長に任命されている。 諸君らの名前を聞いても構わないかね?」
それは余裕を感じさせながらも堂々たる雰囲気を放っている。
そんなワグナーに対し、四人はそれぞれ真剣な表情を浮かべ、自己紹介する訳だが。
「僕はエドガーです」
「自分はアレクであります」
「俺はアルタイルだ」
「私はデブです」
ショーモトはそんなシリアスな雰囲気をぶち壊す様にそんな一言を放った。
だからエドガーとアルタイルから。
「店長、バカだろ、ほんとバカだろ!?」
「ホント何でこの状況で悪ふざけするんですか店長!?」
「うるせーお前等! ちょっとした冗談だろ!?」
「シリアスな雰囲気だっただろ、空気読め店長!」
「そうですよ、アルタイルの言う通りですよ!」
っと顔を近づけそうヒソヒソ声で叱られているのである。
「なるほど、デブと言う名前なのか……? 今まで名前で苦労しただろうな……」
「「「「……えっ?」」」」
だが、真剣な表情から放たれたワグナーの心配そうな一言に、四人は固まった。
「いや、冗談だからさ……。 あの、デブってただの悪口じゃん、そんな名前の人がいたら可哀想じゃん……」
そしてしばらくの沈黙の後、流石のショーモトも申し訳ないと思ったのか、珍しく真面目な回答をしている。
ただそれは、ワグナーもであった様で。
「すまん、俺も信じてしまって……。 なにせ、いきなり冗談を言う人間には初めて会ったのでな……」
そう申し訳なさそうに言葉を返すのであった。
しかしその結果。
「いえ、店長が余計な事を言ったのが原因ですし……」
「いや、俺が変に固執した考えを持っていたから悪いのだ。 人が100人いれば100通りの人間がいるのが当たり前なのにな……」
「いえいえ、あの場の空気を考えたら、普通は冗談を言わないものですから……」
「いやいや、その様なコミュニケーションもあるのだろうから……」
エドガーとワグナーの謎の気遣い合戦へと発展してしまう。
ただ、そんな様子を見ている残り三人は。
(((何これ……)))
そう思いつつただ眺めるだけである。
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