二人は離婚の危機を迎えている!?
第13話
「それは、お前自身がアレクセイを説得する事だ」
そうリアナが真剣な顔を浮かべて言った訳、それは。
(もう、考えるのが面倒くさい……)
彼女の本日のやる気ゲージは貧乏ゆすりが止まった瞬間、0になっていたからだ。
だから、徐々に気だるそうな表情へ変化していったリアナは深い思考などせず、適当な案を上げた訳だが。
「うーん……」
普段なら受け入れ難い提案に、エドガーは顔を青ざめさせて苦悩していた。
っと言うのもエドガーは、一度提案を断った際に出たリアナの「しばらく口を閉ざせ……」との声に、心底ビビっていたからだ。
その為エドガーは。
(提案を受けたくないが、リアナさんのお怒りだけは避けたいし……。 あぁぁぁぁ、一体どうすれば!?)
歯を食いしばり、そう苦悩していた。
「「…………」」
そして沈黙が訪れる。
今この空間は明かりに照らされる
そんな時であった。
「出てきなエドガー! 隠れたって無駄だよ、ここに入っていく姿は見てんだ!」
「ね、ネルブさん、良いんですって! あれはエドガー君の愛情表現だから良いんですって!」
「アンタ、何訳分からない事言ってるんだい!」
ジーンズ白シャツ姿に着替えたネルブがドアを蹴飛ばして家の中に入ってきたのは。
そんなネルブの腰に抱きつくミーナは、そう言ってネルブを止めようとするが、ネルブの怒りは収まらない。
「ん? エドガーがいない……?」
だが、エドガーの姿はネルブの視界にはなく、ネルブは視線をキョロキョロ。
「リアナ、あのバカはどこだい!?」
「…………」
「ん……? あっ、悪いエドガー……、故意じゃないからね……」
そして、リアナが無言で指を刺した時、ネルブは初めて蹴飛ばした扉の下にエドガーがいる事に気がついたのであった。
飛んで来た扉に頭をぶつけ、気を失ったエドガーの姿に……。
…………。
それは暗い空間が広がるエドガーの夢の中。
そこでは今。
「エドガー君の嘘つき!」
「ミーナさん、ごめんなさい……」
怒り気味の表情を浮かべ、腕を組み仁王立ちするミーナにエドガーは綺麗な土下座をし、頭をペコペコ上下させていた。
だが、夢の中のミーナは。
「ダメです!」
「その、愛しているからこそ……」
「ダメです!」
「貴女と別れたくないから……」
「ダメです!」
強く睨みつけ、エドガーに告げるのであった……。
そして、モヤモヤした意識の中、エドガーは遂にポロポロと泣き始めてしまったのである。
ただそれは、ミーナを心から愛しているからこそのモノである、だから。
「ミーナさん、僕は貴女の為なら命を張れる! 僕は全てを失っても、貴女だけは失いたくないんだ! だから、だから僕に、死ぬまで君を守らせてくれ!」
夢の中でそんな言葉を叫ばせるのであった。
…………。
「……はっ!?」
その瞬間夢から覚め、エドガーは上半身を起こして周りを見渡した。
窓から差し込む朝日、見慣れた自宅の二階の風景、そして椅子に座りエドガーの足元に顔を埋めるミーナの姿、それを認識すると共に薄れていく夢の記憶。
どうやらエドガーは自宅のベッドにて朝を迎えた様子。
だが、それを認識した瞬間。
「あれ……? つまり、いつの間にか朝まで眠っていたのか!?」
エドガーは一瞬慌てた表情を浮かべたが。
「ん……? 何か忘れている様な……?」
頭の打ちどころが悪かったせいか、アレクに会った事などをすっかり忘れてしまい、首を右へ左へ傾けた。
そんな時。
「ん? エドガー君、大丈夫ですか?」
「あ、エドガー。 その、昨日は悪かったね……。 その、酒の勢いもあって……」
ミーナが目を覚まし心配そうな顔を浮かべ、窓の向こうから視線を送るネルブは、頭をかきながら申し訳なさそうに歯切れの悪い謝罪をした。
そんな様子を見たエドガーはこう考える。
(昨日何があったのだろうか? まぁ良いか、忘れてしまう様な事であれば、対した要件ではないだろう)
それは、要件を思い出せなかった為に出た結論であったが。
「おはようミーナさん、ネルブさん。 私は大丈夫ですから、お気になさらず!」
「そ、それなら良かったです!」
「な、なんかゴメンよ、エドガー。 なら今度、困った時があったら必ず助けるからね!」
そう笑顔で返した行動は、ミーナの安心とネルブの罪悪感を薄めるには良い行動であった。
…………。
その頃、大通りにある石造の宿屋『山賊の隠れ家』にて。
「……ふふっ!」
エドガーの酒場の近くにあるその建物内の個人のベッドに寝転がり、リアナは満面の笑みを浮かべていた。
それは昨日、ネルブから。
「扉を壊してしまって悪いね……。 代わりに扉が治るまで知り合いの宿屋を紹介するからさ……」
と言われ、宿屋生活を始めていたからだ。
だから彼女は今。
「リアナさん、食事をお持ちしましたよ」
「部屋のテーブルの上に置いておいてくれ」
ほぼベッドの上から動かない夢の生活を送っている。
それはある意味、リアナが望むダメ人間生活の究極系に近いモノかもしれない。
その為。
(やはり、ココで暮らした方が行動も最低限で良いかもしれないな……。 ふっ、そう考えれば、何だかんだエドガーのおかげかもな……)
リアナは生活の快適さからそう思い始めていた。
ただ一点、大きな不快さえ除けばであるが……。
「あぁぁぁぁ、兄上、兄上〜! あぁ兄上……。 早く、早く兄上の香りを、兄上ニウムの補給をしたいであります!?」
「うるさい……」
それは向かえの部屋に今、聞き覚えのある声が泊まっている、それがリアナの唯一の不快感であった。
しかも、その聞き覚えのある声は早朝からずっと「兄上、兄上……」。
そんな独り言は、リアナのゆったりした時間を邪魔する騒音と化している。
だからリアナは今、不快な顔を浮かべ、両耳に指を突っ込み我慢し続けているのであるが。
グウゥゥゥゥ……。
「腹が減ったな……」
そんな冗談で感じた腹の音には抗う事が出来ず、リアナは両手を食事の為に使う事に決めたのであった。
丸い木のテーブルの上に乗るのは、宿の店員が運んで来てくれた朝食のパン、目玉焼き、ハム、そしてコーンスープにグラスに注がれた水。
それらを眺め、リアナがまず手を出したのは、コーンスープ。
それをスプーンで口に運び、舌の上へ。
(うむ、これはなかなか美味しいな!)
「兄上、うへへ……。 兄上〜、今日は兄上からの大切なお話し〜! はっ、せっかくでありますし、兄上との会話をシミュレーションするであります!」
(イラッ……)
口の中にまったりとした旨味が広がり、リアナは小さく驚きもう一口、やはり美味しかったのか満足げな顔を浮かべる。
そして、一度スプーンを置くと、ナイフとフォークを手にし、目玉焼きを食し始めた。
(うむ、美味いな……)
「あぁ兄上、やはり兄上は至高の宝石であります……。 兄上、自分を抱きしめてナデナデして欲しいであります……」
(イライラ……)
濃厚なスープの味わいに、卵のシンプルな味わいは劣った様にリアナは感じた。
だから、先ほどよりリアナのリアクションは小さかった訳だが、味は決して悪くはない。
だからリアナは目玉焼きを食べ続け、遂には完食したのである。
そして最後に、残ったスープにパンを付け、食べ始めるリアナ。
それを口の中へパクリ。
(美味い、とても良い味わい……)
「あぁ兄上、ダメでありますよ……。 そんな、そんな事を言われても自分は……」
(カチン!?)
その瞬間、リアナは木の扉に向け、ナイフを投げつけ、突き刺さった。
それは、食事を邪魔する不快な言葉に対し、怒りをぶつけるような強烈な一撃。
だから、刺さったナイフは小さく上下し、音を立てているのである。
(良い加減にしてくれ、変態ブラコン男!? 私の幸せを邪魔するんじゃない!)
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