第3話
(さてと、新しい家に行くか……)
食事を済ませ、酒場内には良い結婚相手はいないと判断したリアナは、酒場を後にしたのだが、冷静さを欠いていたミーナはその動きを見て。
(まさか、エドガー君を捉える為に、部下を呼びに行く気ですか!?)
と考えてしまった。
その結果、彼女は二つの選択を迫られる事になる。
一つはここに残り、エドガーと合流すると言う選択。
もう一つはリアナを足止めし、街中に潜んでいるであろうリアナの部下との接触を回避する選択。
だがしかし、どちらも一長一短。
エドガーと合流する事は、自身への危険はないが、部下を呼ぶ余裕を与えてしまう。
リアナが部下との接触を阻止するなら、自身が捕まる可能性があるが、成功すれば部下との接触を阻止できるだろう。
ミーナは考える。
どちらの選択を取るか一生懸命、そしてリアナの姿が店の外へ消え去ろうとした時、彼女は決断した。
「これはワタシのせいで起きている事、エドガー君に迷惑をかける訳にはいきません!」
それはエドガーを思いやる心と若い正義心を持つ彼女の選んだ困難の道。
だから彼女は今、リアナを追って店の外へと去っていく。
それは、エドガー思いの良い選択ではあったが。
(ん? ……ミーナさんがいない!?)
エドガーを心配させる意味では悪い選択でもあった
結果、エドガーは。
(まさか、連れ攫われたのか!?)
っと考えてしまい、身体中を一気に冷や汗が走らせ、アワアワし始めるのであった。
…………。
そしてミーナは忘れていた。
「あっ……。 阻止するにしても、一体どうすれば……」
具体的にどうやって阻止するか?と言う事を……。
そんな彼女が出した結論はと言うと……。
(と、とりあえず跡をつけながら考えましょう……)
無計画さが際立つモノであった。
さて、つけられているリアナは大通りを歩いて新たな自宅へと歩みを進めていた訳だが。
(つけられているな……)
自分をコソコソつける存在に気付き、どう対応すべきか考え始めていた。
始めは自分を探しにきた国の斥候が何かかと考えていたが、ミーナのつけ方があまりにお粗末なモノ。
腕が隠れきれていなかったり、足が見えていたり……。
そんな間抜けな追跡者に見て、リアナは『これは斥候ではない』と判断し、何者であるかを確認する為、左手にある建物のガラスの反射でその正体を確認。
(あれは酒場にいたウェイターの……。 もしや、嫉妬深い類の女なのか? あぁ、面倒な事になったな……)
それにより、花壇の後ろに隠れているのはミーナである事を認識した。
そして、嫉妬深い女に追われていると判断してしまったリアナは、深いため息を溢した訳だが。
(ため息をついても仕方ない、ここは止まって様子をみるか……。 とりあえず諦めてくれれば良いが……)
リアナは手を打った。
リアナはレンガの壁に背を預け、腕を組んで凛とした目を真っ直ぐ前に向ける。
そんな立ち止まったリアナの動きに、ミーナもとっさに近くの路地に身を隠すが、案の定、右腕が半分ほどはみ出している。
大通りを流れる時間、風、人の流れ、ミーナへの冷たい目線少々。
そんな中で。
(早く諦めないか、嫉妬女……! と言うか、隠れる気あるのかそれは!?)
(何を立ち止まっているのですか、リアナ……!)
二人は互いに動きを見せない相手に対して軽いイライラを感じ始めるが、相手は動きを見せず、ただ時間だけが過ぎるだけであった。
(……ここは直接話した方が早そうだな)
またしても動いたのはリアナの方。
リアナは急に駆け出すと、そのまま裏路地へ進んでいく。
当然、そんなリアナの動きにミーナも追って裏路地へ。
二人は裏路地をかけ、途中右へ左へ曲がりながらどんどん進み、ミーナが角を右へ曲がるリアナの姿を追い、曲がろうとした時。
「きゃっ!?」
「落ち着け、私は危害を加えるつもりはない! 話をしたいだけだ!」
「絶対に嘘っ!?」
「くっ……」
角でミーナを待ち伏せしていたリアナに右手首を掴まれてしまったが、ミーナは咄嗟にリアナの顔面目掛け左拳を放つが、リアナはそれに対しミーナの手を離し、体を後ろに反らして拳を紙一重で回避する。
(ここはストレートに伝えるか……)
興奮している様子のミーナを見たリアナはそう判断し、後ろへ距離をとりながらも自分の意思を伝えた。
「……先に言っておくが、私は彼に手を出すつもりはない!」
「嘘ですね!」
それは『異性として手を出すつもりでない』とリアナは言ったつもりだった。
しかし、その言葉を聞いたミーナは『彼を誘拐するつもりはない』と言う意味に感じ取り、すぐさまそれを否定。
そして、その言葉に続く様に。
「貴女はそんな女じゃないです! 目的達成の為ならどんな手でも使うハズです!」
と拳をリアナに何度も向けながら強く訴える。
しかしながら、その発言と共に放たれる暴力は。
「はぁ……まったく面倒臭い事は嫌いなのだがな、私は……」
そうリアナがため息を溢すには十分な力だろう。
しかし、拳を避けつつため息と共に呟いたその本音は、さらなる誤解を生んだ。
(面倒臭い事は嫌い……まさか、強硬策に出るつもりですか!?)
その言葉を聞いたミーナは、リアナが強硬策に切り替えたモノだと思い、後ろへ後退り、そして。
「貴女の思い通りにはさせません! 絶対に!」
そう言って大通りへ向け、走って逃げていった。
そんなミーナの背中を見てリアナはため息をつき、こう思うのであった。
(まさか嫉妬深い女に目をつけられたのか、私は……)
それは、ものぐさなリアナにとって非常に嫌な想像であり。
(引っ越そうかな、私は……)
彼女にそう思わせるには十分過ぎるほどであった。
…………。
(ミーナさんがいない!? まさか……)
目を離した隙に、ミーナとリアナの姿は無くなっていた。
だからエドガーは直ぐにミーナが拐われたと思い、皿を洗うバイト仲間のアルタイルに訴えた。
「アルタイル! すまない、ミーナさんが席に座っていたんだけど、どうやら連れ攫われたみたいなんだ! だから頼む、今日は仕事を早く上がらせてくれないか?」
「分かった、分かったよエドガー。 俺が店長には言っとく、だから行けよ!」
「ありがとうアルタイル、いつも狩りばかり作ってすまない! いずれまとめて借りは返す!」
「借りなんてくれてやるから行ってこい!」
冷静さを欠いた懸命な訴えにそう答えたアルタイルは、そう言ってエドガーの背中を見送った。
それはエドガーが嘘をつかない真面目な人間だと確信に近い認識を持っているからであった。
さて、ウェイター姿のまま店を飛び出したエドガーは、町中を必死に駆け回り、行きつけの肉屋や、露店などを回ったが成果はなし。
そして情報もなく、夕暮れの大通りで途方に暮れていた時。
「エドガー君!」
「ん? み、ミーナさん!」
ミーナがエドガーを見つけ声をかけた。
それにより心配そうな硬い表情から笑顔に変わったエドガーは飛びついたミーナを抱き抱え、グルグル回りながら喜んだ。
((良かった無事で!))
二人とも同じ事を思いを抱きながら……。
「帰りますか、ミーナさん?」
「今日はちょっと疲れましたから、そうしましょう!」
そう言葉を交わした二人は歩き出す、2人の暮らす二階建ての家へと……。
…………。
「「「げっ……」」」
だが、自宅へ入ろうとしたそんな二人を待っていたのは、隣に引っ越してきたリアナの姿。
そして互いに軽く会釈をすると、それぞれの家に入っていった。
ミーナは思った。
(ま、まずいです! これは早く引っ越さなければ……)
と。
エドガーは思った。
(隣に誘拐犯が来たとなると、早く引っ越すべきだろうな……)
と。
リアナは思った。
(まさか嫉妬深い女が隣に住んでいたとは……。 早く引っ越すべきだな……)
と……。
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