第2話
(誰が良いだろう……?)
それは、酒樽を利用して作られたテーブルと丸太の椅子が並ぶ、丸太作りの広い酒場、ウィルマン。
その酒場の中央にあるテーブルに座ったリアナは、食事をしながら結婚相手の候補を酒場内で物色しているのだが、その背中を途中露店で購入したローブを纏うミーナが入り口付近の席から監視している。
それはリアナにバレない様に監視する為であったが。
「な、何だあのローブを纏った客は……。 水を頼んだだけで他に何も注文していないし、チラチラ周りを見ているみたいだし……」
それは、ウェイターとして働くエドガーから不気味に思われるだけでなく。
(まさか、僕が王子であるか調べに来た国の密偵か!?)
っと警戒させるには十分だった。
そんなエドガーの様子をリアナはその冷たい瞳でジーっと眺め、そして。
(むっ? あのウェイター……、真面目で働き者、何だかんだ面倒見が良さそうだな……。 つまり、働かずに楽して生活するにはピッタリ! 結婚相手に最高だな!)
彼女はそんな印象を受け、鼻息をフフン、口元ニヤリ。
リアナはエドガーに結婚を申し込む事に決めたのであった。
そして彼女はジーっと視線を送りエドガーが近づいてくるのを静かに待つのだが、そんな視線は。
(エドガー君を狙ってますよ、絶対!)
当然ミーナの誤解を生んだ。
(マズイです、これは非常にマズイです……。 状況次第ではエドガー君を人質に取るつもりですよ! ど、ど、どうしましょう!? 力尽くではリアナに絶対敵いませんし……)
ミーナは必死に考える。
一体どうすればこの状態を打破できるか?
テーブルに両肘をつけ、頭を抱え考え続けるが、一向に良いアイディアが出ず、時間が過ぎるだけ。
その為、結局。
「そこのウェイターの人……」
「私ですか?」
「うん……」
(うわぁぁぁぁ、最悪の状況に!?)
リアナがエドガーを呼び寄せる事を阻止する事は出来なかった。
「何か注文ですか、お客様?」
さて、リアナに対し作り笑顔を浮かべたエドガーの第一印象は(真面目そうな方だな)と見た目の良さが幸いにも良い印象を与えた。
「私は働きたくない。 だから私と結婚しないか?」
「えぇ!?」
「安心しろ、この世の中働きたい奴に働かせれば良いのだ。 だからさぁ、私と結婚して遠慮なく働け、そして貢げ!」
「い、いきなり何を仰っているのですか!?」
だが、その第一印象の良さは、そんな事を真顔で発した事で早くも崩れ去り。
(な、何なんだこの人は!?)
とエドガーは困惑してしまった。
しかしそれを見ていたミーナは、エドガー以上に困惑してしまう。
(ちょっと待ってください! も、もしやリアナは男漁りが好きなのですか!? い、いえ、リアナに限ってそんな訳は……。 あぁ、それともワタシの存在に気付いて揺さぶりを!? そ、それにしても、あの顔が嘘をついている様には見えませんし……)
ミーナはリアナの内面を知らないが故、その言葉をそのまま受け入れる事が出来ず、答えが存在しない仮説の海へと旅立ってしまった。
(ふむ、コイツは多分ダメだな……。 まるで、想定外の事が起きて固まる貴族のバカ息子を見ている気分だな。 うむ、多分だが、優柔不断で思考不足、いざと言う時頼りないダメなタイプの男だろう……)
さて、リアナは困惑して固まっているエドガーを見てそう感じ、そして。
「ふっ冗談だ! 酒のおかわりを持ってきてくれないか?」
「あ、はい! わ、分かりました! 25カラーズです」
「25カラーズだな、受け取れ!」
そう軽く笑いながらエドガーに硬貨を渡し、エドガーは困惑を残しながらも、酒のおかわりを取りに行った。
(……もしや!)
そんな様子を見ていたミーナは、仮説の海の果てに到達した。
その仮説の内容だが。
(リアナがさっき『私と結婚しろ!』と言ったのは、私と結婚しているのかを確認する為だったかもしれません。 ワタシとエドガー君の反応を見て、それが正しい情報か調べる為に……)
それは冷静さを失った者の末路かもしれない。
(私のせいで、エドガー君を危険な目に遭わせる訳にはいけません!)
しかしながら、エドガーを思う意識だけは失わなかったミーナは、何としてもエドガーに危害を加えられない様に手を打つしかないと心に決め、改めて右手の拳を軽く握りしめた時。
(あっ!? 私の脳内に素敵なアイディアが!? あぁ偉大なるメルシス神様、私に救いの知恵を授けて下さりありがとうございます!)
彼女の頭に打開策が!
そして彼女は「すみません、そこのお酒を届けたウェイターさん!」っと言って、リアナのテーブルにビールを届けたエドガーを呼び、こう警告する事にしたのだった。
「……どうなさいました、お客様?」
「エドガー君、ワタシです、ワタシ!」
「み、ミーナさん!? 一体その格好は……」
「シーッ!」
呼ばれたエドガーは驚きの表情を一瞬浮かべたが、伸ばした人差し指を口に当てて静かにする様伝えるミーナを見た時、内心戸惑いながらも落ち着いた表情を取り戻した。
そんなエドガーが落ち着いた表情を確認したミーナは、手招きしてエドガーの耳を寄せると、ヒソヒソ声でエドガーに警告した。
「先程の客、エドガー君を拉致しようと企んでいるみたいです……」
「なっ!?」
その言葉を聞いたエドガーは右手で口を隠す様にして考える。
(ミーナさん、一体その情報を何処で……。 しかし、拉致しようと企んでいると言う話は、状況から考えてありうる話ではあるし……)
だがいくら考えてた所で、それが良い判断には行きつかない様。
だからエドガーはミーナから、更なる情報を求め、尋ねるのである。
「ミーナさん、その話をどこから?」
「その、そんな話を盗み聞きしたみたいな……ですね……」
「なるほど、それを話していたのはどの様な人物か覚えてる?」
「え~……それはあの客と~、大柄で山賊みたいな濃いヒゲを生やした男性と言いますか……」
「……ミーナさん、感謝します!」
それはミーナが自分が王族である事を隠す為、咄嗟に思いついた嘘であったが、目を泳がせながら言った『大柄で山賊みたいな濃いヒゲを生やした男性』との嘘は、エドガーの脳裏に一人の男性の存在を浮かばせた。
(まさか父上が来ているのか!?)
偶然ではあるが、大柄で山賊みたいな濃いヒゲを生やした男性と言う特徴はエドガーの父であるリンドブルム王の特徴に当てはまる。
その為、エドガーは父が本気で探しているのだと思い。
(これは早急に、引っ越さなければマズイな……。 それに話を聞かれた以上、国の連中もミーナさんを放っておかないだろうし、一緒に逃げる様に説得するしかないだろう)
二人で逃げ出す事を決意した。
だが今は働いている訳なので。
「ミーナさん、ここでゆっくりしていてくれ。 僕が仕事を終わらせたら、すぐその事を二人で話そう!」
「わ、分かりました!」
エドガーは真剣な顔でミーナの両肩に手を置いてそう言うしか出来なかった。
さて、去っていくエドガーの背中を見るミーナは少し安心し、ため息をこぼす訳だが、ふとリアナの方を見た時。
(ん? り、リアナが見てるぅぅぅぅ!)
ミーナはリアナと目が合ってしまい、冷や汗が一気に吹き出してしまった。
だが、ミーナは知らない。
(あーなるほど、あの男はあのローブの女とそんな仲なのだな)
半年前にいなくなった王女の顔などとっくに忘れている事を。
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