第44話 女子会って恐ろしい!?

 しかし、何があったか他学科である自分たちに知る術はなく、夏恋の悩みを解決するにはほど遠い状況にある。

「っていうか、夏恋ちゃんは何がショックなんだろう。それほど天花先輩が気にしていないことにショックって、よく考えたら解らないなあ」

 記憶喪失が嘘ならば、どうして夏恋にあれだけ衝撃が走るのか。俺は謎じゃねえかと一同を見渡す。

「確かに。よくよく考えれば、記憶喪失じゃないのに騙されている夏恋ちゃんにも何かありそうよね」

 胡桃はそっちも疑わなきゃいけないのかと腕を組む。

「よし。では藤城。女子会を開いてくれ」

「は? 女子会? ってかなんで俺に言うんだ?」

 佳希からの提案は意味が解らないうえに、どうして女子じゃない俺が巻き込まれているんだ。解らんと首を捻っていると

「何を言っているんだ。お前の幼馴染みの協力が必要だ」

 何か思いついたらしい佳希は、にやりと笑ってそう言ってくれるのだった。



「なにこれ、美味しい」

「お茶も、飲んだことない味だけど、すっごく爽やかでいいね。ハーブティーなんだ」

 そう盛り上がる女子たちを横目で見ながら

「なにこれ」

「さあな」

 俺たち男子は離れたところで溜め息だ。

 場所は近所の喫茶店。俺が意地で巨大パフェを食い切った店である。そこで、夏恋をはじめとして提案者の佳希、胡桃、さらに魔法科の友葉、紬まで巻き込み、一年女子会が開かれている。それを俺たちがこっそ覗いているわけだが、なんでこうなる?

「女子同士ならば警戒心が薄れ、うっかりぽろっと喋るってところか」

 横では常に巻き込み事故に遭っている大狼が、俺のチャレンジした巨大パフェに食らいつきながら指摘する。

 っていうか、こいつの私服を初めて見たな。ジーンズにTシャツと至って普通、シンプルなものだが、スクラブ姿しか見たことがなかったので新鮮だ。

「うっかり喋るのを期待するのはいいけどさ。頼んでいる量がおかしくないか。そして、喋っている話題もとりとめがないよな」

 俺はそんな大狼から目を女子会に戻し、女子のお菓子に対する食欲とトーク力って凄えなと感心してしまう。よくまあ、あれだけぱくぱくとお菓子を食べ、話題がころころと変わり、そして常に笑っていられるものだ。お菓子はともかく、俺ならばあのペースで喋っていたら、三十分で力尽きる。今も

「石川先生、可愛いよね」

「でしょ。金髪に染めてて一見不良っぽいけど、性格は子猫なのよ」

「子猫。それはいいね」

「いいのか。それより私は犬っぽい男子が好き」

 と、石川の評価をしていたかと思えば

「犬っぽいっていうと、藤城じゃない。困っている人を見るとすぐに助けたくなっちゃうみたいだし」

「ああ、解る。真央って結局は尽くしちゃうタイプなのよねえ」

 と話が俺に飛び火している。

(おい、誰が犬だ。お前らの便利屋じゃねえぞ、俺は)

 犬の代表にしてくれた胡桃と、同意した友葉を俺は睨んでしまった。

「ドンマイ!」

 それに対して旅人は笑顔だ。自分が選ばれなくてほっとしているのだろう。今までに見たことがないほど笑顔が輝いている。

「朝倉先生は一匹狼っぽいけど、意外と群れを大事にするタイプだよな。常に全体を見ている」

 その間も話は進み、佳希のぶれない朝倉への評価が聞こえてきたかと思えば

「増田先生は子犬タイプよ。かまってちゃんだもん。しかもご主人様一直線のぶれないタイプで、他からちょっかい出されると怒っちゃう、超可愛い性格をしているんだよねえ」

 とこちらもぶれない紬の言葉が聞こえてくる。

「あいつら、男をそういう目で見てるんだな」

 すでに巨大パフェを半分食った大狼が、何やら遠い目をしている。

「まあ、俺たちが女子をあれこれ言うのと一緒なんだろうけど、何か違うよなあ」

 そう、男子がする女子の評価と何かが違う。こう、内面を抉ってくるというか、男子の妄想半分の評価と何かが違う、怖さを感じてしまう。しかし、それを言葉にするのは憚れる。そんな感じなのだ。

「生々しいんだよね、なんか」

 俺と同じ感想を持ったらしい旅人が、アイスコーヒーを飲みながらげんなりしていた。そして、女子会は二度と覗くまいと心に誓っている様子だ。

「あれだ。社会的な部分をしっかり評価されている」

「だああ。言うなよ」

 ついに結論に辿り着いた大狼がそう言うので、俺は肩をど突いておく。そう、彼女たちの話に怖さや生々しさを感じるのは、日頃の行いをしっかり見られているという点だ。全女子がこうだとは信じたくないが、びっくりするくらい挙動を観察されている。

 その後も女子たちの男子への評価は続き、俺たちはがっくりと肩を落とすしかないのだった。



「昨日のあれ、収穫はあったのか?」

 翌日。精神的ダメージを負ったので損害賠償を求めたいくらいの心境の俺だが、佳希に進展はあったのかと訊ねる常識と理性はあった。

「もちろん。あれにより、夏恋ちゃんの防御力は半減したと思っていい」

 でもって、佳希はなんとも独特な表情をしてくれる。お前らは俺たちの体力ゲージをゼロにした自覚はあるのか。

「防御力?」

 しかし、なぜそういう言い方になるのかと、俺は疑問になって首を傾げるしかない。

「記憶喪失になった天花先輩を助けて欲しい。この結論に至った動機を聞き出すには、まずは仲良くなってしまうのが手っ取り早いだろ。信頼できる友人だと思ってくれれば、すんなり吐いてくれるに違いない」

 佳希はあれを見ていて気づかないのかと言ってくれるが、俺はお前のその考えがゲスで怖いですとドン引きだ。

「つまり、昨日のアレは心の距離を縮めるためだったと」

「そういうことだ。しかも私たちだけでなく、友葉ちゃんたちがいたことで、警戒心は一気に低くなっていたはずだからな。ふふっ、見てろ」

「いや、ホント、お前ゲスだろ」

 俺はついに口に出して言ってしまった。すると当然のように、俺のすねが蹴飛ばされる。

「いてっ」

「正しい手順と言え。そもそもはお前が話を聞いて引き受けたのが問題だろ」

「はいはい。左様でございますね」

 ついつい声を掛け、泣かれてしまって助けてやると言ったのは俺ですよ。昨日犬と言われてしまった俺は、さっさと白旗を揚げておく。

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