第34話 破壊魔法を当てろ!
「お、折っていいのか?」
「アンデッドに痛覚はない! やるぞ」
戸惑う俺と違って、日頃からアンデッドの相手をしている大狼は冷静だ。そして、胡桃にくっつくアンデッドの右足を掴むと
「砕けろ!」
簡易魔法を発動して、本当にぼきっと折ってしまった。だが、アンデッドは平然とした様子で胡桃を掴み、よじよじとよじ登ろうとしている。
「ほ、本当に何ともないんだな」
俺が驚いていると
「アンデッドが利用される最大の理由がこの痛覚のなさだ。足や腕は魔法工学科に頼めば代替品をくっつけてくれるからな。頭が吹っ飛ばされない限りは使い回しも出来るんだよ」
さらに衝撃の事実を教えてくれる。
「マジか。それって半分ロボットみたいな感じか」
「ああ。って、それはいい。早くしろ!」
「お、おうっ」
俺は左足を掴むと
「砕け!」
心の中でごめんと呟きつつも魔法を発動した。するとぼきっと折れる音がする。
(ああ、痛覚がないと解っていても、こっちがぞわっとする)
骨が折れる音に、こっちの心が折れそうだよとぼやく。が、これでアンデッドはふんばりが利かない状態になった。だが、腕力だけで胡桃にくっつく。
「ちょっと、なんで私に必死にしがみつく・・・・・・って、登ってくるぅ!」
胡桃はずんずん自分の顔の方に近づいてくるアンデッドに悲鳴だ。だが、アンデッドは胡桃に危害を加えたいようには見えない。ただただ登っているだけだ。
「まさか」
「狙いはまた朝倉か」
俺と大狼はそう気づき、そして増田が昨日必死に探していた理由に思い当たる。
「なあ。アンデッドって、操っていた魔法師が死んでも命令を実行しようとするのか?」
俺の確認に
「そうだな。やろうとするな」
大狼は大きく頷く。
「おい、お前ら。何か気づいたんだったら早く対処してくれ」
朝倉はいよいよ三人分の体重が掛かって不安定になる箒に悪戦苦闘していた。いくら天才国家魔法師とはいえ、三人乗りの経験はないようだ。ふらふらと動き回る箒を、必死に真っ直ぐにしようとしている。
「魔法師が死んでいるのならば、後腐れはない。頭を吹っ飛ばすぞ」
「あ、ああ」
大狼の言葉に俺は頷いたが、頭を吹っ飛ばすってどうやるんだ?
「杖を持っているか?」
大狼はズボンのゴム部分に差していた杖を取りだして訊く。しかし、俺はほぼ簡易魔法しか使う機会がないものだから持っていなかった。
「魔法科じゃあるまいし、持ち歩いてるわけないだろ? 魔法学の授業もなかったし」
俺が叫ぶと
「これを使え!」
必死にバランスを取りながら、朝倉が自分の杖を俺に投げてきた。
「うおっ。って、国家魔法師が杖を他人に貸すっていいのか?」
「緊急事態だ! 早くやれ!!」
今、そんなことを言っている場合じゃないだろうと、三人分の体重が掛かる箒がくるくると回る。
「破壊魔法だ。すでに魔法学の授業でやってるだろ?」
大狼は杖を構えて俺に訊く。
「や、やってるけど」
くるくると回る箒を相手に、アンデッドだけに攻撃を当てるというのはかなり難度の高い技術が必要だ。俺は杖を構えつつ、大丈夫だろうかと不安になる。
「ぐっ」
朝倉が根性で箒の動きを止める。制止したところを見逃さず
「破壊魔法1・爆裂!」
と放った。しかし、胡桃に当ててはならないこと、アンデッドが動くこともあって、僅かに逸れてしまう。魔法はそのまま近くの木に当り、どんっという音を立ててなぎ倒した。
「ちっ。次、頼む」
魔法科と違い、一度打つと次を打つまでに時間が掛かる。もともと身体の中にある魔力に差があるせいだ。大狼の場合は攻撃魔法に向いていないのもあって、ぜえぜえと荒い息を吐き出しながら言う。
「あ、ああ」
俺は頷きながらも、魔法科の入学試験の時より緊張すると手に汗が滲んだ。魔法科の試験の時は人工的な的だったが、今回は人間に当てると大惨事という状況だ。
「集中しろ! 大丈夫だ。俺たちに当たっても、すぐに医学科が手当てをしてくれる!!」
俺の躊躇いを見て取った朝倉がそう叫んだ。
「臭い! キモい!! 藤城、早く!!!」
胡桃も顔面に迫ってきたアンデッドに大声で叫んだ。
「よし」
二人の声に、俺は集中力を高めた。そして、朝倉に借りた杖を構える。
「大丈夫だ。俺はやれる」
じっと動きを見定める。箒にしがみついているせいで動くアンデッドをじっと見つめ
「今だ! 破壊魔法1・爆裂!」
タイミングを合わせて魔法を発動した。と、その魔法はアンデッドに当たったものの、下半身を破壊しただけだった。
「ぎゃあああ!」
飛び散る肉片に胡桃が悲鳴を上げる。だが、気を失わないだけの根性があった。
「すぐに次だ!」
朝倉が僅かだが軽くなったと、箒の動きを制止させる。俺は間髪入れず
「破壊魔法1・爆裂!」
と思い切り放つ。
「おおっ」
その魔法の大きさに大狼が思わず声を上げる。
続いてどんっという音がして、見事にアンデッドが木っ端微塵になる。
「いやあああ」
胡桃は降りかかる肉片に悲鳴を上げるが、それでも朝倉の手を離さなかった。
「よし」
朝倉は胡桃をそのまま地面に下ろし、自分も箒から降りる。そしてすぐに俺に駆け寄った。
「大丈夫か」
「な、なんとか」
身体から力が抜けてしまい、全力疾走したような疲れが襲い掛かる。しかし、それでもちゃんと朝倉に杖を返すくらいの力は残っていた。
「鍛えれば国家魔法師も夢じゃないぞ」
「冗談」
「いや」
朝倉はなかなか出来ることじゃないと俺の頭をくしゃっと撫でる。
「先生!」
と、そこに増田が佳希と一緒に駆けつけてきた。佳希は今回も真っ先に応援を呼びに言っていたらしい。
「こっちは大丈夫だ。アンデッドは消滅。竹内さんは医学科に行ってシャワーを借りろ。松本さんは回復薬を二本取ってきてくれ」
「はい」
「じゃ、じゃあ俺が」
佳希が走り出したために、残った増田が名残惜しそうにしつつも胡桃に手を貸した。
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