第3話 魔物の大群
「江奈様!! 準備出来ました!!」
「そう……」
魔力を込めることにより発射される魔導砲。
その魔導砲への魔力充電が完了したことが、兵によって江奈に伝えられる。
その報告を受けた江奈は、すぐに発動させずに一旦躊躇する。
何故なら、その魔導砲を向けているのは、奴隷にされているとは言っても大和国民だからだ。
そんな彼らを殺さなければならないということに、江奈としては躊躇いがあるのだ。
「江奈様! 躊躇っていては、守りを突破されてしまいます!」
「……分かったわ!」
たしかに、自分も同じ大和国民である彼らを殺さなければならないということは心苦しい。
しかし、彼らを放置していては、城壁を突破されて内部へと進入されてしまう。
そうなると門の守りをも突破されてしまいかねないため、彼らの進入を阻止しないといけない。
その思いから、先程の兵の男は躊躇う江奈へと進言した。
兵からの尤もな意見に、江奈も決意をした。
「魔導砲……発射!!」
「ハッ!!」
江奈のハンドサインにより、射撃兵は魔導砲を発動用の魔法陣に魔力を流し込む。
“ドンッ!!”
「くっ!」
魔力が流し込まれたことにより、魔導砲から強力な魔法が発射される。
発射された魔法が地面に着弾すると、大爆発を起こす。
それによって大小さまざまな石が飛び散り、着弾地点付近にいた奴隷たちに弾丸のように襲い掛かる。
飛んできた石などの欠片を受けて、多くの奴隷たちが行動不能へと追いやられた。
その結果を見て、こうなることは分っていたとしてもやはり同じ国民に攻撃する心苦しさに、江奈は思わず表情を歪めるしかなかった。
「江奈様……」
「大丈夫よ」
暗い表情をする江奈に、兵の1人が心配そうに声をかける。
奴隷にされているとはいえ、大和の国民を攻撃しなければならないということに、江奈が心を痛めていると察しての声掛けだ。
指揮官の自分が、周りの兵たちに心配させるような表情をしていると気付き、江奈はすぐに表情を引き締め直した。
「次の準備を!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
敵の数はまだまだ多い。
数を減らすためには、まだまだ魔導砲を発射しなくてはならない。
そのため、江奈は次の発射に向けての魔力装填を兵たちに指示した。
「あいつら頑張るな……」
「左様ですね」
砦の攻略を始めた帝国だったが、兵たちは奴隷たちを戦わせているだけで、大和国民同士で戦っている所をただ眺めているだけの状態だ。
その光景を見ていた帝国のエレウテリオ将軍は、ぼんやりとしながら呟いた。
近くにいた兵は、それに同意するように返事をした。
「いくら頑張っても、こっちには奴隷がまだまだいるって事が分かんねえかな?」
「全くですな」
帝国軍と王国軍の数でいえば、たしかに帝国軍の方が多い。
水元公爵の管理する地区の、西と南から攻め込んで来た軍が合わさったことでかなりの数になっていた。
しかし、その全てを今回の戦いに連れてきたかといえばそうではない。
北へと逃げた大和王国の者は300万人程ということだが、当然その全部が戦闘に関わっているということではない。
多くの帝国兵を連れて来なくても、大量の奴隷を駒として使った同士討ちをさせれば、自分たち帝国の人間が戦う必要がないと判断したからだ。
老人・女性・子供は当然戦闘に関わらないし、これまでの戦闘で戦闘不能になった者たちも相当数いるはずだ。
そういった者たちは、戦禍に巻き込まれないように砦の西へと逃れているだろう。
つまり、巨大な砦に残っているのは100万人にも満たない数だろう。
それに引きかえ、帝国は大和国民の奴隷だけでも100万人以上はいる。
今日減った人数も、各地から連れて来ればすぐに補充ができる。
何にしても、数日もすれば砦の攻略なんて簡単なことだ。
エレウテリオは、奴隷たちの特攻により、王国軍が疲弊するのを気長に待つことにした。
◆◆◆◆◆
「そろそろ行こうか?」
「ハッ!」
奴隷たちが戦闘訓練をしていない一般人とは言え、数で休みなく攻め立て続ければ疲弊するのも当然。
江奈が率いる王国兵は、ジワジワと数を減らしていっていた。
魔力を注ぎ込む人間が減れば、威力のある魔導砲を使う頻度も減ってしまう。
砦の城壁を登ってくる者を、落とすことも段々と手が回らなくなりつつあった。
そんな状況になって、司がようやく行動を開始した。
配下の者らしきモーニングのスーツを着た男は、了承の返事と共に恭しく頭を下げたのだった。
「エレウテリオ様!!」
「あ~ん? どうした?」
城壁の上に登りきる奴隷たちの数が増えてきた。
このままなら、そう遠くないうちに城門を開けることも可能になるだろう。
門が開いたら攻め込むつもりでいるエレウテリオと帝国兵たちだったが、1人の兵が慌てたように走ってきた。
順調に進んでいるというのに、何を慌てるようなことがあるのかと、エレウテリオは面倒臭そうに返事をした。
「我が軍の後方より、大群の魔物の気配を探知しました!!」
「何っ!? そんなバカな!!」
兵からの報告を受けて、エレウテリオは先程までのだらけた態度から態度を一変した。
ここまで来るまでの間に、兵によって魔物の討伐もおこなってきた。
それによって、この周辺に魔物は存在しなくなっているはずだ。
それが突如現れたということだけでもおかしいというのに、大群だというのだから驚きもする。
「何の魔物だ!?」
「これは……恐らくスケルトンかと」
「クッ! よりにもよってアンデッドだと!」
魔物が出たのは分かったが、エレウテリオは何の魔物かを探知魔法に長けた兵へと問いかけた。
問いかけられた兵は、目を閉じて魔物が出現した方向へと意識を集中した。
そして、探知によって出現した魔物がスケルトンだと判明した。
アンデッド系統の魔物は、人間を相手にするのと同じ位に面倒な存在だ。
スケルトンなんかは、1体を相手にするだけなら苦にならないが、数が多ければ簡単に倒せるとは限らない。
今自分たちがやっている奴隷攻撃を、自分たちが食らっているかのような感覚になることが想像できた。
「大群と言っても数百から数千といったところだろ? 兵を後方へ動かせ!」
「……いいえ、これは……」
魔物の発生は解明されていない。
そのため、今回のようなイレギュラーも起こることもある。
だが、そんな場合でも、そこまでの大量発生なんてあり得ない。
たいした数でなければ、そこまで慌てることはない。
砦に攻め込むのは奴隷たちに任せておいて、エレウテリオは兵たちに魔物の駆除をしてもらうことを決断した。
しかし、探知要員の兵はエレウテリオの考えを否定し、顔を青くした。
「んっ? どうした?」
その反応から、何だか嫌な胸騒ぎがしてならなかったが、エレウテリオは急に顔を青くした兵に答えを促した。
「わ、わが軍を越える程の数が迫ってきております!」
「な、何だと!?」
たいした数ではないと思っていたため、その数の多さを聞いたエレウテリオは、驚愕の表情で大きな声を上げたのだった。
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